表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

序章

前回の「序章の序章」との繋りはございません。

別の視点の序章になります。

また今回は、ハイファンタジーが強めになっておりますのでご了承ください


 「ムツー」



 「はい」



 「ダイ」



 「はい」



 「セラミー」



 「…………」



 その名前に反応するものは、いなかった。しかし珍しい出来事ではない。むしろ通常通り、と言ったところか。



 「あの子は……、また、サボリですか、後で探さないと」



 思わずため息を漏らす。彼女がサボるようになってから、三年も経っている。ごく稀に現れることもあるが……。

 ただ、彼女は学校内にはいる。学校内のどこにいるかが、わからない。この問題児を探さないといけないのは、担任の宿命なのだから。










 「まーた、授業サボって、そんなとこにいるんだからー」



 「けっこう、気持ちいいのですよ」



 木々が靡く。葉が一枚、また一枚と、穏やかな風が吹くたび下に落ちていく。

 日当たり良好。安定性抜群。潜伏度高し。ここまでくれば、快適を通り越して楽園だ。



 「で~も~、確かに気持ち良さそう」



 「メールもこっちに来るのです。気持ち良いのですよー」



 「マジですか。私もサボろうかな~」



 「あんた、なに乗せられそうになってんのよ。全く、どうやってそんなとこに登ったのか。」



 セラミーがいるのは、学校の外の校庭の端にある木の上にいる。丁度いい大きさの幹の上に座っている。高さは丁度、学校の三階ぐらいだろう。



 「もう授業始まるから行くね」



 「おっとっとそんな時間?じゃあ~ね~」



 「頑張れなのです」



 彼女自身も授業を受けなければならないのに、まるで他人事。


 彼女は学校を窮屈に思っていた。それが彼女をこうさせた。



 というのも彼女、セラミーは優等生だった。いや、歴代でも最高と言っても過言ではない。


 セラミーが通う学校は、もといセラミーがいる世界の学校には、勉学だけでなく、魔法の勉強もある。

 魔法は主に魔族の召喚した魔物と戦うために用いられる。セラミーは勉学、魔法共に優等生だった。


 魔法に関しては稀に見る天才だった。学校では教師よりも魔法の才能がある。魔法を使うには、複雑な術式を理解したり、構成や性能の知識を理解してようやく使用できる。

 だが、セラミーは何となくで、できてしまう。適当にやっても使用できるのだ。複雑な術式も一度見れば理解できた。そのゆえに天才と呼ばれた。


 その事については別に嫌でもなかった。むしろ気持ちがここまで良いときもあった。だが、学校の先生たちは彼女に高い期待を持っていた。自分の学校から天才が輩出されれば株が上がると思ったのだろう、彼女に過度な期待をしていた。


 彼女を見る目が、期待から願望に変わっていった。学校の株を挙げると言う願望に。特に地位が高い先生からだ。


 セラミーは、そういう目で見られていることに嫌悪感を覚えた。学校の良いように使われそうで嫌だった。普通の生徒として扱って欲しかった。それは、生徒にも同じことがいえる。一度学校に来れば、学校中でざわついた。それらの対応もめんどくさくなった。


 だから、授業をサボるようになった。不真面目ならそういう目で見られなと思ったから。幼いころからの友人で先程話していた、メールとレイチェル以外とは、あまり関わろうとしない。少なくとも同学年には彼女たちだけだった。



 (…………気持ちいい風なのです)



 暖かい風が木々を少し揺らす。絶妙なバランス感覚で落ちたりはしない。


 学校の事を考えても嫌気がさす。だから、この暖かい風に流れに身を任せるかのように、力を入れずただ伸び伸びするだけ。


 今はこれでいい。このままでいたい。先の事を考えることを捨てた。今が気持ち良ければそれでいい。



 「………………………」



 段々眠くなってきている。寝るための全ての条件が揃っている。場所といい、環境といい。彼女の思考は停止し、そのまま目を閉じた。



 「コラーーー!!そんな所で何をしてるーーー!!」



 「!?」



 閉じていた目が一瞬にして解放した。いきなり怒りの声を聞き、思わずバランスを崩して落ちそうになるも、持ち前のバランス感覚で何とかカバー。


 木の根元を見れば、数人の教師たちが集まっている。



 「早く降りてこーい!」



 一人の教師が怒鳴り散らす。顔を真っ赤にして。

 ただここで素直に降りようもんなら、ゲームオーバー。数々のサボりによって、どうなることやら―――。


 なぜこの場所が、ばれてしまったのか。そんなことよりも、今はこの場を何とかしなければならない。


 だが、セラミーにも秘策があった。それは…………



 「テレポーテーション!!」



 右手を胸にあて、魔力を注ぎ込む。目を閉じて、頭の中で場所を想像し、魔力が注ぎ終わると同時に、目を開ければ―――。



 「なっ!………くそっ!逃げやがったか………」



 セラミーがいた木の上には、誰も居なくなった。



 テレポーテーション 目を開ける直前に、頭の中で想像した場所に瞬間移動できる魔法。ただし一度その場所に行ってなければ発動しない。


 そしてセラミーが頭の中で想像したのは―――



 「ふぅ、ここに来れば安全なので――」



 「どこが安全だって?」



 「!?」



 薄暗い室内の中に、ボールが沢山入った籠がいくつかあり、跳び箱だったり、マットレスだったり。移動したのは、学校の敷地内にある体育館の倉庫だった。


 この時間に授業が行われていないことを知っていて、なおかつ、この時意外にも追われたときに、逃げ込んだ場所だったのだが、それが仇に出た。


 移動を終えるや否や、待ち構えていた。あたかもここに移動するのを知っていたかのように。そして待ち構えていたのは担任だった。 



 「な、なぜ……この場所を」



 「毎回同じ手が通用するとでも!」



 先生たちに追いかけられるのは、これが初めてではない。その都度テレポーテーションを使い、この場所に逃げ込む確率が高いことを先生たちは知っていた。いや、目撃情報を聞いた、といった方が正しいかも知れない。



 「さぁ観念しなさい!」



 「あぅ………」



 テレポーテーションは一度使うと、しばらくは使えなくなってしまう。いくら天才のセラミーでも、この副作用はどうすることも出来ない。


 体育館の倉庫の出入口は一つだけ。しかしそこには担任が待ち構えていて、突破は難しい。窓は一応あるけれども、高い所にあり直ぐには出れない。もたもたしてたら直ぐ捕まってしまう。



 (こうなったら………あれを使うしか――)



 セラミーには奥の手がある。ただそれは一度も使用したことがない魔法。そして効果も不確定。そんな博打をここで使うのか……。



 「さぁ、大人しく教室に戻りなさい!」



 担任がセラミーに近づく。最早やるしかない。


 両手を挙げて叫んだ。



 「テレポート!!!」



 「なっ! そんな魔法を!」



 一瞬にしてセラミーの姿が消えた。魔法は成功。


 一日に一度のみ。多くの魔力を消費し、使える者は数少ない。それがこの「テレポート」だ。テレポーテーションと大きく異なる点はただ一つ。



 「あの子……あんな魔法を…………」



 担任はただただ驚きを隠せず、立ち尽くすだけ。教師の中でも使える者はいなかったはず。これが天才と言われる所以なのか………改めてそう感じた。




 「ふぅー、成功なのです」



 シュンと音をたて、転移した。その場所は………。



「…………どこですか?ここは」



 薄暗い洞窟の中。最初は、そう思った。ただ、学校の近くに洞窟なんて物はない。


 テレポーテーションは想像した場所に移動出来るが、テレポートはランダム。自分のいる場所から、半径五キロ圏内のどこかにだ。



 「とりあえず、歩いて―――ん?」



 物怖じすることなく、歩こうとした時だった。足に何かがあたったのだ。それを手に取ってみると、それは白い丸形のカプセルだった。



 「とりあえず、持っとくのです」



 そのカプセルがなんなのかが、わからない。それでも一応ポケットに入れることにした。ポケットに入る程の小ささだった。なにやらボタンみたいなのがあるが、暗くてよくわからなかった。


 再び歩き始めようとした時に気がついた。なにやら光っている。遠くない。むしろ近いところで。それを目掛けてセラミーは歩いた。



 「………これは?」



 光っていた正体は小さな泉だった。薄く七色に光っている。



 「水? なのですか」



 丁度喉が乾いていた。しかしながら、七色に光っている水を口に入れるのは、さすがに躊躇いはあったが、喉の乾きが、それよりも上にあった。


セラミーは泉に近づき、七色に光っている水を掬う―――。



 「あれ?………ってヤバイのです!」



掬うことができなかった。つまり水ではない。それでも手は貫通した。しかしながら、水だと思っていたセラミーは、掬えることが前提だったため、前のめりになっていた。そしてそのまま―――



 「ギャアアアアアアアなのでーーーーーす!!!」



 落下していった。


 普通の泉ならば底があるはずなのだが、ましてや七色に光っている泉なので、普通な訳がない。そのままどんどん落ちていく。


 ただ、不思議なことに、落下の空気抵抗がない。落ちていくよりも、沈んでいく不思議な感覚だった。



 「………っおお」



 思わず声をあげてしまうほど、綺麗だった。元々薄く七色に光っていた表面だったが、中はというと、幻想的な七色になっていた。


 場所もわからない、状況もわからない。しかしながら、心地よい。ずっとこの場所にいたいと思ったほどだ。






 「………えっ?」



 しかしながら、その時間は直ぐ様終わりを迎えた。

 景色は一気に変わり、灰色に。沈んでいく感覚から………



 「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



 落下していきましたとさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ