屋上って最近入れないだよね
「というわけで、今回新たに加わる長谷川和也君です。はい、拍手ー」
パチパチと小さな拍手。慧だけが異様にテンションが高い。その他の三人は特にこれと言って。転校生みたいな気分になっているのは気のせいだろうか
「どうも初めまして……じゃないよな。ここいる全員知ってる顔なんだけど……」
四人は輪を作りながら座っている。それを和也は見渡す。知っている男子が一人。知っている女子が二人。結果この場に全員知っている。
「しっかし意外ねー。まさか和也、あんたが妖精と契約したって、しかも女の子と契約するなんて」
「……そんなに意外なのかよ」
何度も聞くが、それほど異彩なコンビになっているのか。不安が聞く度に募ってきた。
「で、隣にいるのが」
「えー、この度長谷川和也さんと、契約を結ぶことになったセラミーなのです。よろしくなのです」
軽くお辞儀をするセラミー。普段の言動や言葉使いからはあまり考えられないが、セラミー曰く自己紹介は真面目にするそうだ。
「俺は朝したから良いとして……俺のパートナーは疲れてたから、今日は来てない。名は、ベルな」
「とりあえず西村ね。あたしのパートナーは、今膝の上にいるジュンね」
「よろしくな」
長い赤い髪が特徴的なジュン。ボーイシュな雰囲気を醸し出している。
「え、えーと國行愛里です。こっちがパートナーのアロマです」
「アロマです。よろしくお願いいたします」
深々とお辞儀をする。こっちは西村のパートナーのジュンと違って、おとなしい印象。
一通りの自己紹介が終わった。とは言え妖精を除けば全員知った顔。和也も含めて中学校は皆同じ学校だった。そもそも、今現在同じクラスなのだから。
少し沈黙したあと慧が口を開く。
「んじゃそういう訳だから、これからもよろしく」
「え! ……終わり?」
「だって自己紹介終わったし、皆知ってる顔出し、これ以上なにを話すんだ? ないだろ何も」
「いや、なんかあるだろ」
ただ自己紹介のために、わざわざ屋上にやってきたのか。全員知っているから特になんてこともないかもしれないが、和也は納得はできなかった。
「確かに説明したいことは山ほどあるが、まもなくテストというボスがやってくる」
慧に言われて気がついた。今は五月の中盤。数十日ごには高校生になってから初めてのテストになる。今はテストの勉強をした方が得策、つまり早く帰って勉強をしたいという訳だ。
「いろいろと話すことはあるが、やることもあるんでね。詳しくはその後ってことで」
「了解」
「はい、つーわけで帰りましょう」
慧が両手をポンッと叩く。詳しいことはテスト後に話し合うことになった。とは言えたいした話をしてないので時間もそれほど経っていない。
「しっかし早いなー」
帰り道、和也、慧、國行、西村の四人は中学校が同じ学校なため、帰り道もある程度は同じ方向。その為一緒に帰っているのだが、和也が言ったのは妖精の方。先頭にたち何やら楽しく話をしている。
「契約者がいること自体が珍しいだけどね」
頭の後ろに腕を組ながら言ったのは西村。
「そういや、俺が契約者ってことを一番最初に知ったのは誰だ?」
朝、屋上で慧が教えてもらった、と言っていたことを思い出した和也。教えてもらったってことは、國行か西村のどちらかになるのだが……
「あぁ、それは……まぁちょっと……実はもう一人いんだけど」
と渋る慧。目を剃らした。どうやら訳ありなのは明白。とは言え和也は慧が言った、もう一人がとても気になった。
「もう一人いんの?」
「まぁいるっちゃいるんだけど……」
「?」
「えーと、あのね長谷川君」
渋る慧、それを見かねたのか声をかけてきたのは國行だった。
「実はその子はずっと一人で倒していて、何回か誘ってみたことがあるんだけど、一人の方が良いって全部断れちゃって」
「へー、ってことは相当強いってこと?」
「あたしはあんまり見たことないけど、相当な強さらしいよ。一人で何でも倒しちゃうって、それで付いたあだ名が『孤高の天才』なんだって」
それを聞いても、特に感心を持つこともなかった。そもそも和也自身の強さがどれくらいなのかもわからないのに、他人の強さを聞いたところで、今はなんにも影響がない。もっともその人がどん人かも知らない。
(にしても、こうしてセラミーと出会ったことで皆が妖精と契約していることがわかったけど、出会ってなかったら……)
しみじみと思った。前で楽しく他の妖精たちと喋っているセラミーを見て、和也自身が知らなかった世界が今こうしてあるのだということ。何か変化が起こるかもしれない。それでも今は楽しんでいたいと思っていた。
出会ってなければ知らなかった世界。知らなかった存在。出会って良かったのか? なんて今は気にしない。徐々にオレンジ色になっていく空は、これからの起きていく出来事を知っているのだろうか。
ただ言えることとしては、少なくとも今、和也の生活は一匹の妖精がいるだけで、後は何も変わらない。普通の生活を過ごしている。それだけでも大変素晴らしいことだと言うことは、和也は知らない。