身近な人が答えになる
「まさかカズもだったとは驚いたわー」
「いやそれ俺のセリフだわ」
そう言って話す二人は、学校の屋上にいる。学校が始まるには、まだ後一時間はある。
何故二人が朝早くから、学校の屋上にいるかというと………。
昨日の晩、晩飯を食べ終えた和也は、急いで自室に戻った。
「私のぶんは持ってきたのですか?」
「それはちょっと後でな、なぁお前は本当に見えてないし、聞こえてないんだよな?」
「何を今さら、見えるのは私たちみたいに契約を結んでいる人だけですよ」
「だよな。…………ちょっと待て? 今のいい方じゃ他にもいるみたいないい方だぞ?」
「あれ? いってませんでしたっけ、この世界には私以外にも妖精はいますし、契約を結んでいる人もいるのですよ」
話を聞いてみると、セラミー以外にも妖精は存在し、和也みたいに契約を結び、魔物と戦っている人も少なくはないそうだ。
妖精それぞれにも個性があり、セラミーが魔法攻撃が得意のように、他の妖精にも得意、不得意はあり、それによって変身後の姿も変わる。
例えば、剣の能力にたける妖精と契約した時は、剣士のような姿になるのだとか。そして変身後の姿は、ある程度は妖精側が決めれるらしい。
なので、妖精と人間の性別が異なって契約するのは極めて異常だそうだ。
「いっぱいいるなら、俺が戦わなくてもよくね」と和也がセラミーに質問するも、名誉があるから、という理由で却下された。
どんどん新たな情報が出てくる。知らない情報ばかりだ。そもそもセラミーと契約してからまだ一週間も経っていない。説明することはまだまだ沢山あるのだが、和也のスマホに一つの連絡が入ることによって止まってしまう。
「ん? 慧からだ。明日の朝早く……来い?」
謎の文だった。どう返信しても「来ればわかる」だけだった。
「なんかくれるんですかね?」
と何故かわくわくしているのだが、和也には思い当たることはないのでる。誕生日はまだ先だ。
「七時に学校の屋上にいる」という内容だったので早めに寝ることにした。
「あれ、私のご飯は?」
と言った一匹がいたので、妹にばれないように、おにぎりを作り持っていてから、寝たのだった。
まだ人がまばら、元々人通りが少ないと言ってもいいのだが、しかしながら日は登ってきている。和也が目を擦りながら家を出たのはそういう時間帯だった。
あくびをしながら歩いていく。足取りは重く、気分は乗らない。目も半開き状態だ。特別なこと以外朝早く起きることはない。この時間帯に学校に行くのは中学生の部活以来。
いつも歩いてくるよりは遅いスピードだったが、何とか学校に着いたのは待合せ時間の五分前。門は開いており、近くのグラウンドで野球部月は元気よく声を出しながら練習する姿が見える。そんな野球部に特に興味を引かれることなく、屋上へ向かう。
階段を昇る。一段一段昇るに連れて足がどんどん重くなる。そのおかげで目は褪めてくるが、足の疲労が蓄積するのが体にも伝わってくる。
額に汗をかきながらも、屋上へ続くドアの前に到着した和也だが、案の定ドアの前には進入禁止の看板がたっている。この事を慧に連絡すると直ぐに「そのまま入って」との返信が返ってきた。
「入って」と言われても、入っては行けない看板があるのに。複雑な心境になりながら、和也はドアを開けた。
開ければそこは、青空が広がる。今日は良い天気だ。ここの学校の屋上には来たことがなかったため、少し感動した。
少し歩き、近くにある柵に掴まりながら景色を眺める。家や建物が小さい。まるでジオラマだ。
「おっ、連れてきてんじゃん」
後ろから声がした。急にだったため、体がビクッと反応し、思わず和也は変な声を出す。振り返るとそこにいたのは勿論………慧だった。
「………いたのか」
「今の驚き方は面白かったぜー、なー」
慧はそういうと、和也の肩に乗っているものをとり、語りかけた。
「ったく、いきなりなんなんだよ、まった…………………ん!?」
慧が右手の上に乗っているものを見て、和也は驚きを隠せなかった。見えるはずのないセラミーを手の上にのっけているだから。どうやらいつからか肩の上で寝ていたらしい。現在もぐっすり寝ている。
「………見えてる、見えてる!?」
「あぁ見えてるぜ。この目でハッキリと」
「えええぇぇぇ!!!!」
和也の叫び声は、こだまする
という経緯があって現在に至る。
「おーい、そろそろ起きろー」
地面に座りながら、いまだにぐっすり寝ているセラミーを起こすために、セラミーの両頬を軽く掴んで引っ張った。以外伸びることが判明した。
「………ふぇ?」
口から少しよだれが見えるが、ようやく目を覚ました。すやすやと気持ちよく寝ていたようだ。
「つか、慧のはどこにいんだ?」
「あぁ俺のやつは昨日、戦闘で疲れて家で休ませてる」
「戦闘?」
戦闘という単語に和也は引っ掛かった。昨日どこかで慧は戦っていたようなのだが、和也は昨日は学校終わってからは家でのんびりしていたので、そんなことがあったことは知らないし、知るよしもない。
「つか、どうやって知ったんだ? 俺とこいつのこと」
率直な疑問を提示した。昨日の学校で気づいていたのなら、その時に言えば良かったし、それ以外に知るよしはないと思ったからだ。
「教えてもらった」
「教えてもらった!? いつ? 誰に? つか、そのいい方だと他に――」
「おぉ、そうだよ。この学校には俺とカズ以外にもいるぞ」
衝撃的な事実に驚きを隠せない。そもそもこんな近くに、自分と同じ状況の人がいるとは和也は思ってもいなかった。その一人がまさかの幼馴染だなんて誰が想像するだろうか。
「詳しく話したいところだが、そろそろ登校する連中も来るからね。放課後に詳しく話すわ。ゲストも呼んどく」
もうすぐ八時ちょい過ぎのところ。入ってはいけない場所なので、入ったことがばれたら説教があるので、念には念を入れ、早めに出ることにした。
屋上のドアを開けた時、和也は思った。
(そもそも、このドアをどうやって開けたんだ? ここは鍵がかかっているはずじゃ………)
そんな素朴な疑問を残しながら、教室へ向かう。
「いいか、絶対に余計なことするなよ。それが条件だ」
近くには慧以外には誰もいない。屋上に続いている階段から降りている最中なので当たり前なのだが、小声でセラミーに念を入れた。
昨日寝る前にセラミーから「鞄の中にいるのは苦しい」と言われた。そもそも今日は置いていくつもりだったのだけれども、気がつかないまま、肩にセラミーを乗っけていた。そもそも和也はセラミーを学校に行かせることに反対の立場をとっている。
「わかっているのです! そこまで心配しなくても大丈夫ですよ、私を誰だと思っているのですか」
「残念な妖精としか思ってないけど」
「酷いのです!」
「お前ら良いコンビじゃねーか、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「先に戻ってるわ」
良いコンビかどうかはわからない。少なくとも和也はそう思ってはいない。セラミーはどう思っているのか、また他の人から見るとそう見えるのか少し気になった。
「なんだか私の扱い方酷くなってる気がするのですけど……」
「気のせい」
気のせいとは言ったものの、扱いなれてきたと言うべきか。セラミーと言う存在を認めたと言うことなのか。少なくともセラミーには慣れてきた。とは言え、
「あ、おはよう長谷川君」
「!?」
背筋がピーーンと伸びた。セラミーと話をしていた直後だったので不意をつかれた感じになった。セラミーは他の人には見えてない。この学校には他にもいると慧は言っていたが、和也はその人たちの名前も顔も姿も知らない。
振り替えるとそこにいたのは國行だった。
「お、おはよう」
「今、誰か――――」
「そ、そういや傷治ったんだ」
会話の主導権を無理矢理持っていく。こういうのは言わせたら負けなのだから、強引でも話の話題を別に持っていく。
「え? あ、うん」
「…………」
「…………」
(会話が続かない! そりゃそうだよ。強引に持っていたらこうなるわ!)
心の中では思いっきり叫んでいるが、現実ではどうだ、気不味い沈黙だった。
「あっ、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「え、あ、うん」
強引な切り返しだが仕方がない。それでもこの気まずい沈黙よりかは良いと判断した。ちなみにセラミーも最初に声をかけられた時に、瞬時の判断で和也の体に身を寄せ隠れた。
そして和也は、その場から逃げるようにしてトイレに向かい、個室に逃げることにした。
セラミーとの会話している場面を見られていたら完全に変な子、少なくとも慧以外には、そうとらわれてもおかしくない。独り言を喋っているのと同じなのだから。
頃合いを図り教室に戻った時には慧はもう教室にいた。トイレに行っていたことを伝えると、「それならさっき行けばよかったのに」と言われたことに関しての返答にはぐぅの根も出なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「と、いうわけで放課後の屋上なのです!」
「おい、誰に向かって言ってんだその台詞」
授業も終わり放課後に学校の屋上に着いた。慧と和也とセラミー。流石に昨日のお仕置きが効いたのか、今日は一日中おとなしかったセラミー。それが今耐えなくてよくなったので、訳のわからないことを良いながら、自由に飛び回ってる。
「元気なこった~、クッキー食べるか?」
「おぉっ! 食べるのです!」
セラミーが返事をすると、慧は鞄の中からクッキーが入っている袋を破きセラミーに与える。その様子はまるで、ヤギに直接草を与えているようだった。
「いやー、和也さんと違って気が利くのです」
「だろー」
「おい!」
何気にこの二人は気が合うのかもしれない。今のやり取りで和也は思った。なにか扱い方のコツでもあるのだろうか。
クッキーを食べ終わった後は軽くセラミーの紹介。といっても和也自身、セラミーについては詳しくは知らない。
そもそも魔物やら、妖精やら、説明されたものを全ては理解していない。未だに戦闘と言われても体験したのはチュートリアルのスライムだけ。
「しっかし、珍しいな。別姓でパートナー契約するなんて」
前にもその事については和也はセラミーに言われた事がある。他の人にあったことがないので実感がわいていなかったが、そう言うのなら事実の可能性が極めて高い。
「そんなに珍しいのか?」
「まぁ普通はな、なんか訳ありか?」
「……んまぁ別に、それで他の人ってのは?」
深く追及される恐れがあるので、曖昧な返答をしつつ話の話題を変える。本題に話を戻す。今日の放課後に再び屋上に来た理由。
「あぁ呼んであるぜ。そろそろ来ると思うけど、俺も最初は驚いたけどな」
検討がつかない。昨日や今日、もしかすると妖精が見えていたかも知れないし、セラミーが見えていたかもしれない。しかしながら妖精は見てないし、誰かがセラミーに気づいた様子は昨日も今日もなかった。実際は今日はほとんど隠れていたので、見えていたとするなら昨日になる。
しかし慧が教えてもらったと言っていた。それなら学校の関係者の可能性が高い。見知らぬ人が外で和也とセラミーを見たとしても、慧に伝える可能性は低い。仮に伝えたとしても、長谷川和也の存在を詳しく知らなければ、こんなに直ぐ特定されるだろうか。そうなると必然的にこの学校の在校生の可能性が高くなる。
「あっ、誰かが来たみたいですよ」
「お、マジ?」
セラミーが貰ったクッキーを、食べながら言う。そのせいでカスがポロポロと落ちるている。
セラミーが聞こえると言っても、和也には聞こえてない。とはいえなんだが楽しみになっていた。自分と同じ境遇の人がいる。それだけでも心強いのに、学校に
いるとは思ってもいなかったから。
階段を昇る音が聞こえる、微かだが喋り声が聞こえる。そしてドアノブが回る。扉が開く。
そこにいたのは、見知らぬ人でもない。長谷川和也の存在を知らない人ではない。
國行愛里と西村美里その二人がいたのだ