見えてないって、めんどくせ~
夜。その後は何事もなく、無事に家に帰ってきた和也。
「あ~、疲れたわー無駄に」
「まったくなのです」
和也の言葉に同意するセラミー。数秒後に和也が反応する。何かに気がついたように。
「……なんで、お前はここにいるんだ?」
「いや、だって疲れましたし」
湯気が立ち上る。
「一応、性別考えようよ。男と女だぞ、一応」
「強調しなくてもわかってるのです。私にラブコメ要素を期待しても困るのですよ」
「期待もしねーし、興奮もしねーよ」
「それはそれで、腹立つのです。まぁいいですけど。今はゆっくりしたいのです」
「それは同じくだわ。ってか誰のせいだと思ってるんだ」
「それについては、本当に申し訳ないと思っております」
セラミーは桶に、和也は湯船に入っている。そうつまり、今二人がいるのは和也の家の風呂場になるのだ。男と女が一つ屋根の下、表現は間違っていないが、相手は妖精。そもそも妖精が、風呂に入るという概念があること自体に和也は驚いた。
「それにしても、桶に入ってるとあれだな。柚だな」
「なっ! 同じにしないでほしいのですよ」
「いや、むしろ柚の方が良かったな~。こいつじゃ、香りも効能も何もないからな~」
「和也さん、私をなんだと思っているのですか。こっちの世界では妖精ですよ! それも優秀な!!」
「そんな嘘は、自分の行動を正してから言え。俺はもう出るぞ」
そう言って和也は風呂も出た。当然そのままにできないのでセラミーも一緒に。
髪を乾かしている時に、面白そうだったのでセラミーにドライヤーの風を強くして向けてみたら、案の定勢いよく壁に激突した。怒っていたが、今日の罰と言ったら素直に受け入れた。
着替え終わって、リビングに出ようとした時だった。
「あっ、帰って来てたのか」
「あ、うん。お風呂入るね」
それだけの会話だった。その様子をセラミーは和也の肩に乗りながら聞いていた。
去り際の際、少しジロジロと見られた。不審に思って聞こうとしたが、そのまま言ってしまった。
「……見えてないんだよな、お前の姿は」
「そりゃ見えないのです。それよりも今のは?」
「妹の春香だよ。部活から帰ってきたんだよ」
「ほへー、あれがですか。けしからんですなー、あのサイズは」
「……何の話だよ」
セラミーは自分の体を見て、ありのままの感想を言った。それが何を意味するのかは、和也にはわかっていなかった。
暫くリビングで休んだ後、自室に戻った。
「……しんどい」
椅子に座り、机に寝そべりながら呟いた。その元凶を見つめてみると、なにくわぬ顔でつくえの縁に座っている。もはや、魔物と戦闘するよりも疲れているのではないかと、思ってしまうぐらいに疲れている。
実際には、朝の自転車以外は、疲れる行為はあまり無いので、心の問題だろう。
お仕置き後に鞄の中にセラミーを入れたが、タイミングを見計らっては、ちょくちょく中の様子を確認していた。お腹をすかせながら、ばれないように確認する、神経を使ったことをしていたので尚更だ。
「明日もやったらマジで流すからな」
「もうしないのです。ただ……」
とりあえずの警告。流石にあれだけやったら懲りるだろう。その証拠に怯えを隠せていないセラミーが見える。
「ただ?」
「学校には連れてって欲しいのです」
珍しく真面目に頭を下げた。その理由は和也にはわからないが、真剣に頼んでいることはわかった。その点を含めて――
「考えとく、とりあえず晩飯食べてくるから、大人しくいろよ」
「了解なのです。ちなみに私のぶんは?」
「後で持っていくから」
飯の話になったら口調が一気に変わった。何か学校に対するなにかがあるのかな、と思いながら再び一階のリビングに向う。
キッチンにある鍋をあける。昨日の残りと思われるカレーが入っていた。食事は和也自身が作ることもあるが、ほとんどは妹が作っている。部活が忙しい日だと、和也が作るか、母親が作っていく時もある。
準備をし終え、食べようとしたときに、リビングのドアが開いた。妹の春香が首にバスタオルをかけながら入ってきた。
とはいえ何かが起こる訳でもない。これといった会話があるわけでもない。これがいつも通りなのだから。別に仲が悪いとかそういうのではない。ただこの二人には――――
「ねぇさっき」
「ん?」
食事の最中に、話をかけたのは春香の方だった。あまり春香から話しかけることは少ない。そのため和也は、進んでた食事を止めて、春香の方を見た。
春香も風呂上がりだが、自分の食事の準備を始めていた。始めながら、和也に問うた。
「風呂場に誰かいた?」
春香のその言葉を聞いて、ギクッとなった。
「え?………なんで?」
「手を洗ってたら、風呂場から聞こえたきたのが会話みたいだったから」
「いやいや俺だけ、一人言」
「そうなんだ」
(これ完全に疑ってるは、セラミーの声は聞こえてないと考えると、完全に変な人だと思っていても、おかしくないわ)
妖精と一緒に風呂入ってましたなんて、言えないし、言ったところで信じて貰えないし、普通の人には存在していないことになっているため、会話しても会話相手がいないことになっている。一部分とは言えそのやり取りを聞かれてしまったのだ。勿論和也の声だけ。
重い空気が場を支配したので、和也は急いで食事を終わらせ、逃げるようにして自室に向かった。
「…………………………」
そんな変な行動をする兄の姿を見て何を思ったのだろう。