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『失言』で失うモノって何?

気遣いってなんなんだろ。本音で話さないこと?

なら気遣いって面倒なだけだよね。

「いやー、大漁、大漁!」

「カケル、あんだけ歩き回っといて、元気だな……足疲れないのか?」

言ったあとではっとする。足が片方動かないカケルにこれは失言だった。俺の馬鹿。せっかく仲良くなれそうだったのに。しかしそんな俺に向かってカケルはニィと笑って、むしろ動かない方の足を見せびらかした。するとそこにはメカメカしいデザインの装具がついている。

「……おお……」

「じゃん!……ちょっと格好良いだろ。実はさ、この装具、磁力とホバリングの機能がついててさ。踵で地面を蹴るのと同じ感じの力を、どうにかこうにかして普通に歩くのと同じように使えるんだ」

「すっげえ、なんかメカメカしさがかっけえ……」

「分かる!?これ格好良いって言ってくれたのシュウイチだけだ!俺もずっとこれちょっと格好いいよなって思ってたんだよ!」

「……なるほど、こんなハイテクなら疲れないと……」

「あ、これは自慢したかっただけで、そっちは俺の鍛え上げたスタミナの成せる業だと思う」

じゃあなんで足見せた!と、思わなくもないが、気まずくならなかっただけ良しとしよう。……カケルって、底抜けに明るいやつだな。ちょっとした失言じゃ、気にしなさそうだ。医者のワタル先生と仲が良いというのも、なんとなく分かる気がした。ふと、カケルのツクモであるメルが便箋を開けて小さなカードを渡してきた。なんだろう、と思って中身を見る。すると、こう書かれていた。

『かける は あかるい やさしい こ

おこらない し くよくよしない

でも だからって いやなことも

いっていい のかな める』

……どうやら、心でも読まれているのか。ちょっとした失言じゃ気にしなさそう、というのを、どうやってかメルが受信したらしい。とりあえずカケルを故意に傷つけるつもりは毛頭ないのだと念を送ると、メルはやたらにこにこしてカケルの胸ポケットへと移動した。

「お、メルと遊んでくれたんだ。ありがとなー」

「いや……俺こそなんか、うん、ごめ……」

「うん?」

なんとなくごめんというのが憚られた。それが何故かはわからなかったけど。

「……や、ありがとな、メル」

「ははっ、メル、お礼言われてるぞ。なにしたんだお前ー」

『Secret ないしょ』

そんな雑談を交わしながら城への道を歩み進める。そのとき、何人かの人とすれ違う。まずはカケルより少し年齢の高そうな黒髪の男の人。俺とそう変わらなく見えた。

「カケルじゃん、お疲れー」

「あ、ナギさん、お疲れさんでーす!……この人、俺らと同じ配達員やってる人。でも、ナギさんが運ぶのは王宮関連の書類じゃなく、奥さんのやってる花屋のフラワーギフトなんだ」

「まだ奥さんじゃない。だけど結婚間近だから、そっちのボウズも、カケルも手出すなよ。花屋『ドルフィン』の別嬪は俺の未来の嫁さんだからな。じゃ」

「先輩、相変わらずアツアツだなー。……ん、あそこにいるのは……ライム!」

次にすれ違ったのは、雪のように白い髪に、紫色の目をして、炎天下の下半透明の白いカッパを着た風変わりな少年だった。

「……ああ、カケルか」

「何してんの?昼間にいるなんて珍しいな」

「種を買いに来たんだ。花屋に」

「ああ、なるほど。傘いるか?」

「サンコートがあるからいい。……ソイツは?」

「ああ、こっちはシュウイチ。アルバが森で拾ってきた」

「ふーん……、じゃ、僕はこれで」

少年ライムは、俺を一瞥すると園芸アーケードの奥へと去っていった。

「アイツはライムって言って、農家やってる。王宮食堂と契約してるんだぜ」

「ああ、アルバも言ってたな」

「おっ、じゃあもう食べたんだ!旨かったろ?アイツの育てた野菜って、不思議と甘くて美味しいんだ」

そうか、彼だったのか。……失礼ながら、農家という職業には凡そ結び付かない容姿ではあったけど。雪ん子と言われた方がまだ納得はできそうだ……。

「コンニチハ、お二方。昨日ぶりデスね」

と、後ろから急に妙な片言喋りで話しかけられる。この印象的なしゃべり方は、ポストだ。

「ゴ明察。私ポストが、ここに参上イタシましたヨ」

「おお、ポストじゃん!お疲れー!イェイ!」

「イェイ」

妙な温度差のハイタッチを目撃する。フォルテフィアの郵便屋って、キャラが濃ゆいことが採用条件なのか?

「もう午前の配達終わったのか?」

「ええ。ソチラも一旦帰宅スルとこデスか」

「そーそー。楽しくてさあ、めちゃめちゃいっぱい買っちまった!な、シュウイチ!」

「あ、ああ、うん!」

「ソレハ何よりデスね。デハ私、城までゴ一緒しまショウ」

「おっ、いいね。そういやさあ、さっきナギさんとライムにも会ったんだよ」

「ナギさんデスか。兄さんがウェディングケーキのデザイン案必死に考えてマシた」

「おおっ、スイトさんが作るんだ。ナギさんってば奮発したな~」

カケルとポストは談笑しつつ歩いていく。いかん……いかんぞ、このパターンは。三人組で余るやつだ。俺だけ会話に入れないやつだ。どうしよう、無駄に気に病む。「俺も会話に入れて」って言うのもなんか違う気がするし、だからと言って俺が「それ分かる、そういやさあ……」とか得意気に会話の先導権を持っていっていいものか!?こんなときはどうしたらいいんだ、助けてアルバ……。あ、俺情けねえ。

「ライムは元気そうデシタか?」

「うん、元気そうだった」

「それは何ヨリです。なんせ、アルバ王がライムのこと心配なさってマシタからね」

「ははっ、お前ってホントアルバ好きだよな~」

「えっ?」

なんか今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ?アルバがなんだって?

「おっ、どーしたシュウイチ?」

「あ、い、いや、なんでもな……」

「ははーん……シュウイチさん、サテはアナタ……」

ポストが開いた親指と人指し指を顎にあてながらこちらを見据えてくる。え何ごめん会話遮ってごめん公開処刑はやめてください。

「アナタも、アルバ王のファンのクチですネ?」

「……え?」

「ああ、始まった。シュウイチ、付き合ってやってくれ」

「いいデスか、シュウイチさん?アルバ王は、そのカリスマ性ゆえ、一部から熱烈……イエ、最早熱狂的と言える支持ヲ受けてマス」

「一部ってか、ポストとライムだけだからな。そこまで熱狂的なのは」

「我々、アルバ王ファンクラブは、いつイツでもアナタの入会ヲお待ちしてマスよ、シュウイチさん」

……アイドルみたいな扱いなのか?ファンクラブにとっては。ってかさっきのライムって人もそうなの?ポストもだけどさ。なんか意外。人って見かけによらないな……。

「え、ええと……、ファンクラブがどうとかはよく分かんないけど、アルバのことは知りたいかな……お世話になってるわけだし」

「ほう、ホウ!良いデショウ、良いデスね。ファンの素養を感じマス。OK、丁度私このアト午後から非番デス。ランチを食べた後、アナタにアルバ王の基礎をレクチャーイタシましょう。よろしいデスか?」

「ああ、それは……ちょっとありがたい、かな。……カケル?どうしたんだ?」

「……ソイツ、際限なく語るから、程ほどで止めた方がいいぜ。とりあえず三時間は覚悟だな……」

え……そ、そんなに!?まあでも、三時間くらいなら……いい、のか?大学の講義2コマ分って考えると、そう長くないのかも?しかも、アルバの話だし。

「た、多分大丈夫……アルバの話なら」

「お前、ホントにファンクラブの素質ありそうな……」

こうして、2日目の午前をいろいろな人と過ごしたのだった。

次回、アルバファンクラブ。にはなりません。

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