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変な目で見る。偏見が生まれる。

シュウイチ君の持つ偏見。

彼は自覚していないようです。

RRRRRRR...


枕元で電話が鳴っている。

「ふぁい……」

寝ぼけ眼で受話器を取ると、高くも低くもない不思議な声が耳に届いた。

『おはよう、シュウイチ。朝だよ、起きられるかな?』

「へ、あ、アルバ!?……おはよう……」

慌てて飛び起きる。目の前にアルバがいるわけじゃないのに、髪型をちょっと整えた。

『うん、おはよ。ふふっ。今は7時だよ。これから30分後の7時30分から8時45分の間が、城内食堂の朝食利用時間だから、遅れないように気を付けてね。ボクもこのあと食堂へ行くから、会えると嬉しいな。それじゃまたね、シュウイチ』

その言葉で通話が切れる。どうやら、朝食に遅れないようモーニングコールをしてくれたらしい。……そうとわかっていれば、なんかのときのために録音ボタン(あるかはわからないが)くらいは押しておいたのに……。しょうもないことに少しの悔しさを感じながら、朝の支度をすることにした。


身支度を整え、食堂へ向かう。すると、さっそくアルバと出会った。

「おはよう、シュウイチ」

「おっ……、おはよ」

「せっかく会ったんだし、食堂のシステムを説明するね。こっちだよ」

こっちこっちとアルバは手を引く。今日のアルバは、金色の錫杖を持っていた。

「おはよう、スイト」

「アルバさん、シュウイチくん。おはよー」

「お、おはようございます」

カウンターの向こうで座っていたスイトさんがにこにこ笑ってこっちへ来る。……この人パティシエじゃなかったっけ?なんで食堂にいるんだ。この国ではパティシエも料理人扱いなのか?

「今日の朝御飯はね、野菜のおみそ汁と、お米。それから、厚焼き玉子だよ。シュウイチくん、食べられないものはあるかな?」

「あ、いや、大丈夫……だと思います」

「そっか、良かったあ。もし、食べられないものがあるか心配なときは、そこのモニターで成分表示が見られるからね」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ~」

俺が一方的にコミュ力ゼロなやり取りをしていると、会話を見守っていたらしいアルバが補足をつけた。

「食べられないものがあるときは、あそこに簡易的なキッチンセットがあるんだ。だから、あれを利用するといいよ」

「もちろん、食堂とキッチンセットをいっしょに使うことも可能なんだよー、ご飯の量が足りないときとか、ね」

「へえ……」

いろいろ自由なシステムが取り入れられているな、と思う。俺んとこでもやりゃあいいのに。食べられないものって、アレルギーの人に向けてだろうか。でもなんか、好き嫌いある人がこっそり使うのとか増えそうだよな、これ。俺も苦手なものはあるけどさ、やっぱ我慢して食べなきゃダメじゃね?俺だって我慢してるんだし。

「そうそう、シュウイチ。城内食堂は、王宮職員の申し込み制だから、食べたい日は前日いっぱいに申し込んでおくんだよ。ちなみに今日のぶんは、キミと一緒に食べたくて、ボクがお願いしちゃった。良かったかな?」

「あ、ああ、うん。全然いい」

「それなら良かった!」

「おやおや、仲良しだね~。それじゃ、どうぞ。こっちがシュウイチくんの分、こっちがアルバさんの分」

そう言ってスイトさんは配膳済みの盆を渡す。それを見たとき、驚きが俺を襲った。え、なんで俺が欲しい料理の量を知ってるの……?味噌汁とご飯がメインで少し多く、玉子焼きは控えめだ。標準とされる写真からは、明らかに量が違ってる。見れば、アルバの方も、基準よりご飯の量が控えめで、味噌汁がその分多かった。あれ、卵焼きない。卵アレルギーなのか?そして、え、これってまさか、配膳量までオーダーメイドできる系……?スイトさんと別れ、アルバと食堂の机につく。するとアルバが言った。

「シュウイチ、昨日のパーティでの食事を見る限り、そのくらいの量が適正かと思ったんだけど……足りなかったりしない?」

「あ、ああいや、大丈夫。あんまり理想のバランスだったんで、ちょっとびっくりしてさ……、え、これって量選べるの?」

「うん。申し込みのとき、選んでおくんだ。人は一人一人、食べたい量が違うから。そうしたら、ライム……ここの食堂と契約してる農家の子がいてね。その子が持ってる携帯端末に、明日必要な材料量が送られることになってるんだよ」

再び絶句。この世界、通信連携がやたらと進んでる。農家が通信端末持ってるとか、ちょっと意外だった。そういう人たちっていつまでもアナログお爺ちゃんなイメージあるから。

「それじゃ、育ててくれたライムと、作ってくれたスイト、並びに食材たちの生命に感謝して。いただきます」

「いっ、いただきます!」

アルバに続けていただきますの挨拶をする。勢い任せに手を叩いてしまったので、パァンと思いっきり食堂内に音が響いてしまった。うわあ、今絶対注目浴びてるよ。恥ずい。振り向くに振り向けず、その姿勢のまま固まっていると、それを見たアルバが俺の卵焼きを差し出してきた。

「はい、あーん?」

「えっ、いやいやいや、いいって!」

思わず顔を背けると、周囲の景色が目に入った。そこそこ騒いでしまったが、そこにいた誰にも、俺の奇行を気にするそぶりはなかった。目が合ったカウンター向こうのスイトさんが、指文字でハートを描いてきた以外は。

「"元気いっぱいありがとうしてくれてありがとう"、だって」

卵焼きを皿に降ろしたアルバが言う。さっきのあーんは、俺に周りを見せるための策だったのだ。俺、まだ来て一日しか経ってないのに、アルバに性格見抜かれてないか?という疑問は脇に置いておく。きっと王様だからだ、王様なんだからそういうこともある。自分を無理矢理納得させた。

「シュウイチ。ここに、キミを嗤う人はいないよ。でも、キミと笑いたい人は、たくさんいる」

うつむいていたから分かった。アルバは、まだ自分の皿に手をつけていなかった。俺が食べ始めるまで待っていたのだ。こんな小さなことでも、気づければ自分が尊重されているのだという気分になるものなのか。

「手始めに、今日、カケルを案内につけるよ。昨日会ったでしょ?黒髪の、元気な郵便屋の子。メルって言う、便箋型のツクモを連れている」

「あ、ああ。カケル……さんか」

「うん。彼と一緒に、商店街でお買いものしておいで。お昼は城内食堂が開いていないし、それに、いろいろと入り用でしょう?」

「そうだな、そうするよ。……ありがとな、アルバ」

「いえいえ。それでは、ご飯を食べようか」

こうして俺は2日目の朝食をアルバと過ごしたのだった。……って、気になってる、少なくとも好意的に見てる子にモーニングコールされて朝食に誘われて、そのうえあーんしてもらえるって……俺、今超勝ち組じゃね?神様ありがとうございます……!!しかしそんな舞い上がった気持ちも、わずか午後までしかもたないのであった。

冒頭で書いた通り、シュウイチは偏見を持ってます。それも無自覚に。

しかしアルバにとって、シュウイチが偏見を持っていることは、彼を助けない理由にはなりません。

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