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『好き』が始まった

ラブコメの波動を感じる

あ、今回はキャラがいっぱい増えますよ!

それから、未来の技術が登場いたします。

どんな仕組みだなんて意地悪は聞かないでくださいね。

「まあ、でも……キミをこのまま一人で外に出すのは、少し心配だな。この国の文化や慣習、物価、知らないでしょ?」

「ああ、そう言われると俺も超絶心配……」

アルバは一瞬真面目な顔で考え込むと、すぐに顔をあげて笑った。

「そうだな、明日の手続きまでには何か手を打っておくよ。ではひとまず難しい話はこれでおしまい。次はお楽しみだよ?」

「お楽しみ?」

「言ったろう?お風呂とご馳走さ!どういうものが好きか聞き損ねてしまったから、ビュッフェ形式にしてみたよ。好きなものを食べてほしいな。さ、食堂へ行こう」

そう言うと、またアルバは俺の手を引いた。けれど俺はこのとき、ただその手には従うのは嫌だった。

「……アルバ」

「うん?……どうしたの?もしかして、食欲はないかな?」

「いや……、その。まだ、ちゃんと言ってなかったから……。森で、倒れてたことも、今、こうしていろいろしてくれてるのも……、アルバには、アルバなりの目的があるんだろうけど。それでも、その……下手だけど、言いたくて。あ……あり、がとう」

言えた。ちゃんと言えた。物凄く照れ臭くて恥ずかしいけど、ちゃんと言えたんだ。言わなきゃいけないからじゃなく、自分でちゃんとありがとうって言いたいって思って、言えたんだ。下手くそだけど。言えたんだ。アルバはまた両手で手を握って額を合わせた。

「ボクも、ありがとう。キミがこんな風にお礼を言ってくれて、とても嬉しい。シュウイチは不器用さんなんだね。でもその分、本当にそう思ってくれてるのが伝わるよ」

「アルバ……」

「ん?」

アルバの笑顔が心の奥に刺さる。まだ出会ったばかりで単純かもしれないが、俺は確実にアルバに惹かれはじめていた。アルバが男か女かも定かでないのに。

「あのさ、俺……っ」

思い余って何かを言いかけた瞬間、ぐうと大きな音がする。……空いた空いたと文句を言う腹の音がその正体だった。ちょっと気になってることを自覚した途端にこれでは、情けないやら恥ずかしいやらだ。

「お腹空いてるんだね、シュウイチ。コックが張り切って準備をしているはずだから、きっとキミのお腹も満足してくれるよ」

またアルバは歩き出す。俺は慌ててアルバを追いかけ、その右側についた。

「……さっき言おうとしてたこと、何?」

「あ、ああ、いや……」

特に何かを言おうとしていたワケじゃない。ただ、衝動的な発言だったから……たぶんなにか言えてたとしても『アルバのことがもっと知りたい』くらいだったろう。

「……この国のこと、もっといろいろ知りたいなって。せっかく来たんだし……」

うん、嘘は言ってない。この国の(王様の)こといろいろ知りたいんだし。将を射んとすればまず馬を射んとせよって言うし。ってアルバはガチで将じゃねーか。つーか身分違い甚だしいかなこれもしかして。そんな気持ちを知ってか知らずか、アルバは無邪気に笑う。

「本当!?わあ、嬉しいな。ボクもシュウイチにこの国のことをもっと知ってほしい。それで……好きになってくれたら、もっと嬉しいな」

うわ、可愛い。なまじ中性的な美形だから、余計にだ。落ち着け、今のは俺に言ったワケじゃない。いや俺に言ってるんだけど、国の話だ。わかっててもにやつくけど。なんだこの感覚。リア充のみなさん今まで爆発しろとか散々言ってすみませんでした。アンタらこんな世界の中で生きてたんすね、すげーよ。俺三次元のキャラにこんな気持ち抱く日来ると思わなかったよ。なんて思いに浸っていると食堂についたようで、アルバが大きな扉を手で指し示す。育ちがいいんだな……俺ならドアを指差ししちゃいそうだ。

「あ、ここが食堂だよ、シュウイチ。中に入ろう。みんな、キミを待ってるよ」

「え、みんな?」

「さっ、どうぞ」

アルバが扉を引き、俺を部屋へと放り込む。すると、数人の個性的な人たちがこちらに目線を向けていた。アルバも後ろから続けて入ってくる。

「ワタル、カケル、メル、ポスト、イット、スイト、サクラ。今日はキミたち7人だけかな?みんな、お疲れ様。この子は今日森で拾ってきたシュウイチだよ。心優しい良い子だから、ぜひ話しかけてみてね」

「えっ、ちょ、ちょっと、アルバ!?」

知らない人がこんなにいっぱいいるなんて聞いてないって!お前とワタルさんしか知りあいいねーよ!?

「大丈夫さ。怖い人たちじゃない。それに、あの子達はみんな王宮付きで働いてるんだ。そのうち城で顔を会わせるかもしれないからね」

そのあと、アルバが小さく言った。

「城中で見慣れないキミが不審者扱いされたら、お互いに嫌な思いをするでしょ?疑いの目はできるだけ潰しておかなくちゃ」

言われてはっとした。そうか、王宮にはアルバだけがいるわけじゃない。第三者から見れば、俺はじゅうぶん怪しいものなのだ。と、同時に猜疑心が湧く。アルバは俺を助けるとき『キミが悪い人じゃないか観察する意味もある』と言っていた。それは王様として。……ということは、これも王様としての仕事の一環であって、純粋に俺のためではないんじゃないかと思うと、チクリと胸が痛んだ。アルバのことが気になってなかった頃は、それが楽だったのに。人間って勝手な生き物だ。(人間じゃなくて、お前が一人で勝手なんだよ)また、あの声が聞こえ――

「それじゃ、みんな。グラスは持ったかな?せーの、乾杯!」

アルバの声が、それを掻き消した。俺の手にはいつのまにかグラスがあった。中身は水だ。

(俺が、水を好きだって言ったからか)

見れば、他の面子もそれぞれジュースだったりお茶だったりカクテルだったりを自由に手にしている。どうやら基本は立食パーティのような形式だ。が、簡単なテーブルセットもあり、ドレスコードは決まっていない。それぞれ自分の仕事着を着ているような感覚を受けた。ワタル先生に至っては私服だ。白衣は置いてきたらしい。適当に料理をつまんでいると、そのワタル先生がこちらに話しかけてきた。

「こんばんは。食欲はあるようで、なによりです」

「こ、こんばんは。先生は仕事着じゃないんですね……」

「病人相手の仕事ですから。白衣なんて、どんな菌があるかわかったもんじゃない。食事どころには持ち込めませんよ」

「ああ、なるほど……」

「今日は初日ですからね。ほどほどにどうぞ。アルバはガンガン行きますから、勢いについていけなくなったら止めてもいいですよ、止めれば止まりますから」

「は、はい。覚えときます……」

「……こういう場で知り合いを増やしたりするのは苦手ですか?」

「そうですね……苦手ですね」

「じゃあ、気を付けた方がいいですね。そろそろ来ますよ」

「え?」

何がだろう?と思っていたら、目の前にさっきの人々がこぞって現れた。え、なになんで。俺悪いスライムじゃないよ。スライムですらないよ。

「……こういう場で、新しい知り合いを作るのが得意な人たちです。僕らはもうみんな顔見知りですから」

それじゃ僕はこれで、とワタル先生はアルバの元へ立ち去る。え、そりゃないよ先生!俺もそっちに連れてってー!なんてやってる間に残された人々に捕まる。

「なあ、アンタよその国から来たんだって?俺、カケル。ワタルの大親友。よろしくな、シュウイチ!」

郵便屋風の服を着た、さっぱりした短い黒髪の好青年が帽子を取って胸の前に掲げ軽いお辞儀をする。さすがは王宮付きと思える礼儀の仕込まれっぷりだ。

「ど、どうぞよろしく」

すると、小さな顔つきの便箋に細い手足が生えたようなのが横から飛び出してきた。え、なにこいつ虫?

「あ、コイツはメルだよ。俺のツクモなんだ」

「ツクモ?」

わけのわからない言葉が出てきたな、と思う。すると、妙に機械的な、栗色ボブヘアの青年が後ろから出てきて言った。カケルと同じような服を着ている。

「ご説明イタシます。外国にツクモ文化はないデスからね。ツクモとは、ボクらの才能を教えてクレル、精霊ノようなモノデス。フォルテフィアの民ニ、生まれレタときから一人ズツついてイテ、ヒトそれぞれ、いろんなカタチをシテいます。ちなみニ、私のツクモはコチラ、『イット』です」

青年は手乗りサイズの郵便ポストに顔と手足が生えたようなものを見せた。カケルが横からツッコミを入れる。

「ポストお前、肝心の自己紹介忘れてるって……」

「ソウデシタ。私はポストです、郵便配達のタメに生まれてきたヨウナ名前でショウ。ふふふ。イゴお見知り置きヲ」

「あ、ああ。ええっと、カケルに、メル。ポストに、イットな」

名前を確認するので精一杯だ。あと何人いたんだっけ?ええと、アルバとワタル先生を抜いて……

「あとは僕たちだけだね。ポスト、こーたい」

「兄サン。そうデスね、交代デス。私ドモ、後退イタシます」

郵便屋グループが下がり、今度は大人っぽいお兄さんが出てくる。カフェ店員みたいな格好だ。ギャルソンって言うんだっけ?アシンメトリーな髪型の上に、シルバーからエメラルドにグラデーションするような不思議な色が乗っていた。耳元にシルバーのピアスが光っている。そういえば、アルバもピアスをしていた。王冠の形で、ゴールドだったっけ。

「僕はね、スイトって言います。ケーキが大好きでね、パティシエをしてるんだ。良かったら今度、食べに来て欲しいなあ」

柔和な笑みを浮かべ、スイトは言う。カケルとポストが後ろから口々に言った。

「今日の料理、スイトさんが作ったんだぜ!」

「特に兄サンの作るデザートは、フォルテフィアデ一番デス」

「ありがとー」

なんというか、のんびりほのぼのとしたオーラを持った人だなあと感じる。まさに絵に描いたような『優しいお兄さん』って感じだ。うちの兄貴は、こんなんじゃなかったけど。

「スイトの料理が美味しいなんて、当たり前じゃない!あたしが見込んだのよ!」

突如甲高い声が響く。まだ誰かいたっけ?

「あ、この子はサクラだよ。ボクのツクモなんだよ、可愛いでしょ。タマゴから生まれてね……」

「その話はいいから!」

見れば、茶髪ポニーテールの小さなウェイトレスに妖精の羽根が生えたようなのがスイトの周りを飛び回っていた。

「スイトに、サクラな。えっと、俺はシュウイチ。……しばらく、城で世話になるので、よろしくお願い……します」

挨拶ってこんなもんでいいのかな。ていうか城だし、上流階級なりの挨拶みたいなのしなきゃいけなかったんじゃないか。と思いつつそろそろと頭をあげると、今挨拶を終えたみんながこっちを見て笑っていた。

「うん、仲良くしてね」

「ええ、よろしくね」

「シクヨロデスヨ」

『Nice to meet you vv』

「よろしくな!」

『to you v』

口々に言う彼らにほんの少し安心感を覚え、パーティは続くのだった。


一時間弱でパーティは終わる。アルバが言うには、元々、城内で不定期に行う、食事と顔合わせ程度の軽い集まりだったらしい。それも自由参加だから、職員が全員いたわけでもないとか。なんというか、自由な国だ。

「お疲れ様、シュウイチ。次はお風呂だね。露天風呂と個人風呂、シャワー室もあるよ。どれがいい?」

「うーん……露天風呂、入ってみたいな」

「好きなのかい?」

「あー、元いたところが、火山の多い土地でさ。地熱が高くて、そのせいで温泉がいっぱいあったんだ。それで、興味あるのかも」

「そっか。火山のお陰で、地下水があっためられたんだね。キミの故郷は、本当に水に恵まれた土地なんだ」

「言われてみれば、そうだな……。あそこにいた頃は、気づかなかったけど」

「いいね。ボクもキミの故郷を見てみたい。火と水が一緒に暮らしてるなんて、きっと素敵な土地だ」

……俺も出来るならアルバ連れてってみたい。まあ帰る方法もわかんないから無理だけど。アルバも忙しいだろうし……

「フォルテフィアのお風呂も、気に入ってもらえると嬉しいな。さ、どうぞ中へ!」

アルバは俺を風呂へ放り込む。そしてこんなことを言い出した。

「……あ、シュウイチってお風呂は一人で入りたい方かな?露天風呂なら広いし、ボクも一緒に入ろうかと思ってたんだけど」

え。いやいやいや。ちょっとそれは遠慮したい。ほら、俺の下心とか下心とかあるわけだし。アルバが危ないかなって。でも男女どっちかを見極めたいしってああ、女子だった場合ヤベーじゃんつーか男でも俺がヤベーじゃん。

「……今日は一人でゆっくり浸かりたいかな……」

「そっか。じゃあ、また後で。お風呂上がったら、部屋まで案内するから、この辺の通信機器で呼んでね。そうそう、お風呂もちょっと特殊なシステムだから、ここにあるガイドを持っていくといいよ」

電話やタブレットが置かれた一角を指し示すと、アルバは立ち去った。……危なかった、と惜しいことをした、が同時に自分の中でせめぎあった。


「おお……すげえ」

露天の間を覗くと、そこには大小様々な風呂があった。こんな良いところを、俺が一人占めしてもいいのかと疑問が湧く。なんかすっごい贅沢だ。……と、思っていたら、壁にモニターと、同じ内容のラミネートフィルムを発見した。

『王宮城内露天風呂はすべての国民へ開放いたしております。公平な機会の平等を図るため、基本は混浴ですが、指針として、以下に開放時間帯を示します。なお、これは遵守するものではありません。お互いに相手を思いやり、気持ちよく入浴しましょう』

『本日の基本的指針

(優先であり、義務ではありません)

八時~ 女性 九時~男性 十時~その他(完全混浴)

王様から赤ちゃんまで、みんなで入るお湯です。

汚さないように気を付けましょう』

その他ってなんだ、その他って。とは思わなくもないが、きっとこの国では必要なんだろう。なんせ、アルバの時点で性別がよくわからない。風呂のシステムを一応聞いておこうと、ガイドを手に取った。すると、センサーが反応したのか自動的に起動する。

『あなたは文字が見えますか?見えなければ、機体を振り、見えればボタンを押してください。ボタンを押すのが困難である場合、そのまま画面が移り変わるまで待機してください』という質問が、音声と共に表示される。見えるので素直にボタンを押した。すると、音声ガイドがオフになる。

『あなたは王宮露天風呂を利用したことがありますか?』

ディスプレイの質問に、いいえのアイコンを押す。

『システムを説明します。まず、現在地である脱衣場に、かごの入った更衣用のロッカーがあります。中まで移動してください。マップを表示、ナビを起動します』

ナビにしたがってロッカーに移動すると、また通知音が鳴り、自動的に画面が変わった。え、コイツ俺の位置把握してんの?技術凄いわ。

『ここで衣服を脱ぎ、かごにいれます。かごの中にある水着を取り、身に付けてください。水着は、自分の身体的状況にあったものを選びます。着替えに手助けが必要であれば、私に向かいヘルプと言うか、ヘルプマークを押してください』

「水着?水着じゃ身体を十分に洗えないんじゃないか?」

思わず機械相手にひとり言を呟く。すると、また通知音が鳴って、新たな画面が表示された。

『*プライベートゾーンの洗浄について

――露天風呂内のスペースに、磨りガラスが目印のシャワールームがあります。身体全体を洗いたい方はこちらをご利用ください。

(プライベートゾーン図解)

(シャワールーム位置図解)

*シャンプー、スポンジ、バスタオル等持ち込み自由ですが忘れ物にはお気をつけください』

……これ、ちょっとした呟きにもQ&Aで対応してくるよ。凄いよ。だいたい聞けば返ってきそう。『よろしいですか?』という吹き出しが出てきたため、大人しくそれをタップする。スマホの温泉特化版のようだと思った。とりあえず着替えて水着になったはいいが、そこで気づく。

「あ、俺タオルとかシャンプーとか着替え、持ってない……」

短い通知音のあと、画面が光る。

『*着替えを忘れた人へ

――脱衣場にバスローブと全自動洗濯機があります。ご自由にお使いください。

*タオルを忘れた人へ

――脱衣場にタオルが用意されています。使い終わったら洗濯をして元の場所へ戻しましょう

*シャンプー・石鹸を忘れた人へ

――備え付けのものがシャワールームにあります』

ガイド技術の優秀さと、王宮露天風呂のサービスレベルの高さに戦きつつ、俺はバスタイムを楽しむのであった……

(次回へ続く)

まずは第三話までお読みいただき、ありがとうございます!

さて、シュウイチが人を好きになり始めましたね。また、自分の意思で言葉を使い始めました。『ありがとう』という言葉は、もう完全に彼のものです。

また、キャラクターがいっぱい増えました!

彼らには彼らの物語がありますが、今回はシュウイチが主人公です。彼らとシュウイチの世界が交わることによって、よい影響は与えられるでしょうか。

第三話読了、ありがとうございました!

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