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王たる言葉

アルバが魔王みたいな台詞を吐きます。

でも、魔王だって王なんですよね。

背後でドアが開き、アルバが部屋へ入ってきた。俺はベッドの上で背中を向けているから、アルバの表情は分からない。ドアが閉まる音がして、アルバが背後に座った。

「シュウイチ。……罪悪感と、無力感を感じているようだね。城のみんなから話を聞いたよ。キミは今、心がとても危険な状態に陥っていることを、自覚できるかな」

「………………」

アルバに、どんな顔をして、どんな言葉をかければいいか分からない。俺がいかに厚顔無恥な存在だったかってことが、この国の人たちの暖かさに触れれば触れるほど分かるんだ。

「ねえ……ボクって、どのへんが怖いのかな。出来たら、聞かせてくれると嬉しいけど……難しい、よね」

アルバは言う。やはり、気にしていたんだ。ああ、俺なんかが、あんなにもみんなに愛されているアルバの心を傷つけた。俺なんかが。

「シュウイチ。今、キミは何を考えているのかな。……俺なんかどーせ、とか思っていない?」

心を読んだのかと、ちらりと背後に目線を向ける。アルバもこちらに背を向けていたから視線も表情も読み取れなかったが、それより驚いたことに、アルバの髪が輝く太陽のような金色から大樹の幹のような茶色になっていた。

「アルバ、髪……!」

思わず声をあげると、笑っていない顔のアルバが振り向いた。その目は、髪と同じ茶色をしていて、いつも着ている王族の煌めく衣装は着ておらず、麻と綿で作ったような飾りっけのない服を着ていた。

「……ようやくこっちを向いてくれたんだね。これは、ボクが人間だった頃……『アルバ』という名前すら持たず、ただの『日向ひまわり』という個人だった頃の姿。キミが、人間でないボクを恐れるというのなら、ボクはこうして精霊に頼み込んで、キミに関わる間の姿形だけでも人間だった頃に似せよう。でも、それだけじゃないんだよね?……キミが、その、黒くてどろどろした気持ちを抱えている理由は。ボクは、たとえ傷ついてもちゃんと自分で治せる。だけど、その立ち直りまでの苦しみを知っているからこそ、その期間が僅かで済むように、苦しむキミの回復を手伝いたいと思うんだ。シュウイチ、ボクを傷つけることを恐れないで、助けを求めて。……ね?」

アルバ……ひまわりがほほえむ。この姿は、例え自分を傷つけた感情でも受け入れるという覚悟の表しなのだ。人間の姿を捨てることになったものが、一時的にその姿を借りるのは、一体、どれほどの葛藤が必要なのだろう。それを思うと、一晩中かかってでもアルバに気持ちを伝えるべきだと思った。例えそれが、自分の思い込みでも。

「俺、俺……は……」

「うん」

話し出そうとすると嗚咽が混じる。涙が次から次に溢れてくるのだ。アルバが背中を撫でた。

「ゆっくりで大丈夫だよ。話し終わるまで、ボクはここにいるから」

「……アルバ、俺……っ」

堰を切ったように話し出す。こうなると、もう止まらないのだ。

「俺、ずっと辛くて……っ、みんな、優しくて、賢くて、優秀なのに、俺だけ、ほんとなにも出来なくて、その上、アルバのことまで傷つけて、みんなを暗い気持ちにさせて、サイテーだ俺、辛いのは俺じゃなくて、みんなの方なのに……俺なんかのために辛い気持ちを味わってるみんなのが、よっぽど辛いはずなのに、俺はみんなよりこんな風に辛いって思うべき存在じゃないし、みんなに優しくされるほどの価値なんてない存在だし……っ、そして、そんな風にぐるぐるしてたら、どんどん悪い考えが起こってきて……」

「よし、よし……、辛い気持ちが、いっぱい溜まっていたね。全部吐き出しちゃおう。悪いものはぜんぶ、身体から追い出さなくちゃ……悪い考え、って?」

「……ぜんぶ、アルバのせいだって。あのとき、森で拾われなかったら、こんな風に優しい世界知らずに済んで、今ごろはもう、こんな苦しみも感じないようなところにいたのに……って、思ってしまうんだ。……あのとき出会ってなかったら、こんなに苦しまずに済んだのに……って」

「シュウイチ……」

「ごめん、ごめんなさい……アルバは悪くないって分かってるんだ。俺がぜんぶ悪いんだって……」

アルバは俺の頬を叩くように両手で挟んだ。そしてこう言った。

「いいかい、シュウイチ。キミは今から、生きる苦しみのすべてをボクのせいだと思うんだ。いや、ボクのせいだと思え!今ここでぺちゃんこに潰れるくらいなら、すべてをボクのせいだと恨むがいい。ボクとの出会いを恨んで呪って、キミが今感じてる苦しさはすべてボクが生み出したのだと信じ、それを糧に立ち上がるがいい。……それでもキミに、生きる力はつくのだから」

最後にアルバは悲しそうに呟いた。

「……生きる力を欲してよ、シュウイチ」

これがきっと、アルバの本音だったのだと思う。アルバの目から一筋の涙が流れた。俺はそれを目にしたとき、泣いてほしくないと思った。それを思ったとき、目の前にいるのが、人とか人でないとか、男とか女とか、自分が無力とか不釣り合いとか、そんな些細なことはどうでもよくなり、ただ、俺のために本気で涙を流してくれる人の涙を止めたいと思ったのだ。アルバの頬に手を触れ、その涙を拭う。自分からアルバに触れた、初めての瞬間だった。

「……俺が、生きる力を欲したら……アルバは泣き止んでくれるのか?」

「うん、きっと……」

アルバは涙を拭う俺の手にそっと寄り添った。

シュウイチが初めて自分の意思で手を伸ばしました。これが彼の最初の一歩です。

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