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俺と英雄の運命回避論  作者: 風見楓
始まりの英雄譚
3/5

第一章 2 俺が天国に行くのは、当然の事だ。


 ――もう、何なんだよ。今まで、俺の人生散々だったのに、死に方までクソじゃねえか。


 ――光りながら死ぬとかマジ意味わかんねえだろ。


 夕人はひたすら、愚痴をこぼす。握りしめた拳を地面に打ち付け、歯を食いしばる。


 ――…………は?……拳?


 そこで、夕人は身体がある事に気付いた。


 ――いや待て、ここは何処だ?


 周囲は暗闇だと思っていた。が、実際は目を瞑っていただけの様で、夕人は目を開ける。まずは、自らの身体を確認する。どうやら、服装はそのままらしい。

 そして下、それもなかなか近い位置に地面がある。両手と両膝から硬い感触。恐らく地面のであろう感触を感じるということは、宙に浮いてるとか、そういう事はないらしい。

 

 ――俺、今、四つん這いなのか?


 夕人はおもむろに顔を上げる。


 ――……うっ、


 灼熱の太陽から発せられる日光が、夕人の見開かれた眼を射る。全身を流れる血液が煮詰まる程の暑さ。夕人は、瞬時に季節が夏であることを悟った。

 だが、しかし。幸いにも現在の夕人の服装は、半袖のTシャツにジーンズだ。十二分にこの環境下でもやっていけるだろう。



 ようやく太陽の光に慣れ、夕人の瞳に映った世界は異様だった。今まで夕人が見てきた世界とは、異なっていた(......)

 まず、現在。夕人が居るのはどこかの大通りの様だ。周囲には簡易的な小屋の様なものが並んでおり、その中には人が入っている。小屋の前には、果物や野菜(のようなもの)パン、骨董品や食器?を置いている。推測するに、屋台だろう。 

 屋台の後ろには、様々な屋根の色を持つ煉瓦造りの建物が立ち並んでいる。奥の方には、十字架。教会だろうか。他にも、豪勢な屋敷の様な建物が建つ区域も見受けられる。そして、そのさらに遠方。そこには、白亜の城が建っていた。円錐状の屋根は、雲で霞んで判りずらいが濃い青系統の色で統一されている。そんな塔たちで構成された城の中心には、明確に周りの塔より大きな塔。その青屋根の先端には国旗であろう、旗が風になびいていた。


 夕人はそれらを見て、既視感を覚えた。自分が今まで見ていた世界とは明らかに異なるのに不思議と、常日頃からそれを見ていたかの様な、そんな気がする。

 夕人は胸が熱くなるのを感じていた。とてつもない感動と共に瞳が潤む。だがその熱が、その感動が、何に由来するものなのか思い出せなかった。

 だがまあそんな感情が、人が天国へ昇った時のそれなのだろう。そう納得し「ここは何処なのか」という思考を、夕人は放棄した。



 そう、自分は天国に昇れて当然なのだ。別段、世の中に貢献したとか善行をしたとか、そんな事は無い。だが自分は悪い事もしていない。何もしていないのだ。それに、今までの不幸な人生を考えれば、これは当然の報いなのだ。これから自分はここで、幸福に生きていくのだと。夕人は思った。



 建物から目を離すと今まで気付かなかった、()が見えてきた。そしてそれに同調する様に、周囲の喧噪が心地よく耳に聴こえ、心が躍りだす。が、次の瞬間。夕人は口をあんぐり開けてしまっていた。


「あ、あぁぁ……へ?」


 夕人の喉から細く声が漏れ、それはすぐに周囲の音の波に呑まれる。


 夕人の目には、有り得ないものが映っていた。もの、というか人が、映っていた。否、人でないもの(・・・・・・)が映っていた。猫耳、兎耳、犬耳。ふさふさの尻尾。鋭く尖った、牙に爪。それらはまるで、獣の様だった。

 正確には半分、人ではない。その者たちは、不思議なことに、動物の一部が付いているのだ。いわゆる亜人だろう。その中でも、この見た目は獣人という奴だ。

 よくよく見れば他にも、竜の様な見た目の人や、獣人だけでなく、中年男性の様な顔つきでありながら子供の様な人。逆に、筋骨隆々とした巨体の人。褐色で布面積の少ない衣服を身に着けた女性。かと思えばいたって普通の人間。

 そして、亜人には通常の人間には無い優れた能力を持っていたりして、それらを駆使し、凶悪なモンスター達と戦うのだ。


「ん?てか俺、何でこんな知ってるんだ?……ゲームに出てきた、から?いやまあ、ファンタジーRPGでは、亜人は鉄則だからな…………いや待て。ファンタジー?」


 と、夕人の頭に何かが引っ掛かる。


「ファンタジー、ファンタジー、ファンタジー?」


 よくある「もう喉のすぐそこまで出てきてるのに」状態に夕人は陥る。


「んんぁ、えぇっと」


 そこで、ずごぉぉおっと、極太の雷閃が稲妻の様に脳裏に閃いた。


「んあ、…………嘘だろ…まさか!」


 夕人がこの状況で、最も重要な事を気付きかけた、その時。


「あのー、大丈夫ですか?」


 と、黒髪の少年は声をかけてきた。

 

 

 

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