表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と英雄の運命回避論  作者: 風見楓
始まりの英雄譚
1/5

プロローグ 時計の針は巻き戻され、 


『アアアアアアアッ!!』

 

 月夜の王都に響き渡る魔獣の咆哮。


 周囲の建物、その外壁が衝撃波で崩れて下敷きになった者の断末魔が聴こえる。外壁を構成していた煉瓦は真紅に染まり、その下には血だまりができる。

 辺りには砂埃が立ち込め視界が霞む。相対する神の使いたる獣は、そのシルエットも凶悪そのものだった。

 

 魔獣の咆哮は反響し、遠方へと広がっていった。「声」は広がるにつれて「音」となり意味を成さなくなる。遂には王都の中心に聳え立つ王城にまで届く。城内に響くのはただの奇怪な音(....)

 だが、それでも。不思議と、それが魔獣の勝利の雄叫びだということは容易に解った。同時にそれは、『英雄』が敗北したのを理解したということでもあった。

 

 

 ある母は床に崩れ、ある子供は恐怖に震え。

 

 ある兄妹は抱き合い、ある使用人は泣いた。

 

 ある姫君は最期を悟り、ある騎士は焦燥に駆られた。

 

 

 そして、皆が諦めた。ただ、一人を除いて。

 勝利を信じて立ち上がる『愚者』


「……絶対に諦めねェ。何度だって立ってやるッ!!」

 

 満身創痍の身体(からだ)を生ぬるい地面から引き剝がす。全身の感覚は遠く、痛覚、触覚は皆無に等しい。自分の身体ではない様な、石像をあるいは銅像を無理くり動かしている様な、動きの鈍さ。そして、全身が鉛にすり替わってしまったのかと錯覚してしまう程の、重さ。言ってしまえば、最早戦える身体ではなかった。

 では、何が愚者をそこまで立たせるのか。その答は。


「もう俺には、みんなを助ける為とか…そんな大層な理由は、無い。」

 

 傍から見れば自暴自棄だ。だが彼は、確固たる意志を持ってそこに、その場所に、立っていた。

 その狂気じみた意志を宿すその双眸で、竜の容姿をした魔獣を睨みつける。


「ただ俺は今、あいつ殺したお前を殺すために居る」


地面に突き刺さる剣を、気合で引き抜き、瞬間―爆発的なスタートダッシュ。

 魔力を放出し、バネとして脚力を上昇させる。地面を蹴った刹那のスパークで地面が抉れる。


「はあああああッ!!」

 

 裂帛と共に放たれた渾身の一撃。自らの体内から全ての魔力を絞り出し、纏わせ、放つ。

 魔獣の弱点である首を狙った一撃は見事に命中する。が、魔獣の強靭な肉は断ち切れず、刃は止まる。やがて束を握る手は離され、勢いは無くなり、だらしなく赤く染まった傷だらけの腕が垂れる。

 力を使い果たした身体は直立状態も維持出来なくなり、再び地面に倒れ伏す。

 そして、その上には大きな影。


 「もう…駄目なの――」

 


 ぐしゃりっ。



 そんな音と共に鮮血が飛び散る。

 『愚者』死す。

 そして、そんな光景をただ唖然と見つめる者が居た。遅過ぎる、騎士長の到着。


「くそッ……僕が絶対、君たちを死なせない!」

 

 その日、王都は壊滅した。 



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ