央都を翔けた流れ星
それはあまりに美しく、
苦しいほどにまっすぐで、
涙が出るほど一途な祈りの流星だった。
よく晴れた昼下がり。
この街は今朝から、そんな話題で持ちきりだった。
剣術に魔法に機械技術、
様々な文化が集まるこの央都で、
どこを歩いても同じ話が聞こえてくる。
それは、私がこの街に来てから
初めての経験といえるもので。
ことの発端はどうやら、
月の綺麗な昨夜のこと。
夜空を翔けた一筋の光らしい。
「あーあー……
そんなに綺麗な流れ星なら、
私も見たかったなぁ」
きらりと光る流れ星には、
誰だって願いごとを口にしたくなるものだよね。
それに加えて魔法の国の魔導士が、
何かを祈って、流れ星を降らせたのだ。
そんなロマンチックな話も
しきりに飛び交っている。
西の魔法の国では、
願いを込めて星を降らせる
願い星という文化があるらしい。
私はそんな、いろんな人や噂の行き交う
央都の賑やかな町並みを歩いていく。
この辺りはちょうど機械文化を色濃く受ける通りで、
今日のお目当ては愛剣を研磨してもらうことだった。
「すっごくキレイだったね。
どんな人が降らせたのかな……」
そんなことを言うのは
目を輝かせて、空を見上げる、
お母さんに連れられた女の子。
その横顔を微笑ましく眺めていると、
通り沿いに並んだ店舗から不機嫌な男の声が聞こえてきた。
「どんな人でも構わねーけど、
ちったー時と場合を弁えて欲しいよなー」
驚いた私がそちらに目をやると、
すぐ近くの商店でカウンターに座る、
同い年くらいの男の子が頬杖をついて、
親子の方を見据えていたのだった。
「ちょっと。なによあなた」
思わず歩み寄って睨み付ける。
親子には聞こえていないと良いけれど。
「なにって、見ての通り店主代理だぜ。
おまえさんはそんなこともわかんねーのか?」
両肩が震える。
さすがの私も、これには頭に来た。
「あのね、私は
そういうことを聞いてるんじゃないの。
あなたこそ、そんなことも分からないの?」
目をパチパチと瞬きさせた少年は、
「あんた、おもしれー嬢ちゃんだな」
とカウンターから身を乗り出した。
その発言にも怒りを覚えるものの、
ここはできるだけ温厚に切り出す。
「弁えて、といったのは、
願い星の人のこと?」
めんどくさそうに頭をかいた彼は、
そーだよ と答える。その続きは1呼吸空けて語られた。
「ここの店長が、願い星とやらのせいで
今朝から飛び出してってなー。
お陰で俺が店番をしてるっつーわけだ」
やれやれと片手を額につけてため息をつく。
「お店番というには、
お客さんが見えないけれど?」
他のお店はみな、
品定めや談笑をする人で
溢れているなかで、
このお店には彼の姿しかない。
「この街の人間は珍しいもんにゃー目がねーけど、
価値のあるもんを見る目ってのがなくて困ったもんだぜ」
偉そうにそんなことを言う。
そしておもむろに私の背中の剣に目をやったかと思うと
「見たところ、おまえさんは剣士の真似事をしてるよーだが、
女の子が背負うにゃ荷がおめーんじゃねーか?」
と口の端をつりあげた。
この街に来てから、
もう何度聞いたか分からない言葉。
「……試してあげようか?」
背中の愛剣に手をかけて、
少しだけ引き抜く。
「せっかくのお誘いだが遠慮しとく。
それよか手入れしねーと剣が泣くぞ。
俺が引き受けてやろーか?」
ぺしぺしとメニュー表を叩く少年。
研磨1本2500プレアからとある。
「お生憎様。
私には行き付けのお店があるの」
なんて奴なんだろう……!
せっかくのお休みが台無しだ。
これ以上付き合うのも馬鹿馬鹿しくなって、
私はお目当てのお店へと歩き出した。