-過去- 一歩前進
ボロボロに終わった、1on1から早一週間。レギュラーになれることも無く練習試合は惜敗した。
まだ暑さが抜けない九月、僕は入部してから初めて部活を休んだ。
入部から突っ走ってきたが、疲れが出てきたようだ。
仲の良い女の子が、看病にやって来るなんて事は微塵も無く丸二日休んだ。
二日ぶりの学校だが、休む前と何ら変わらない。
「お、体調良くなった感じ?あんまり、無理すんなよー。」
少し離れた席から、陽平がやって来た。
高校に入学して、初めて出来た友達であり親友だ。
「なんとかー、まだ少しかったるいけどね。」
気の抜けた返事を返したら、思い出したかのように陽平が喋りだす。
「そういや昨日さ、めっちゃ可愛い子が廊下からクラスを覗いてたんだよねー。」
可愛い子に反応する僕。バスケをやって無い時は普通の男子高校生、可愛い子の話には目が無い。
「でも、うちのクラスを見回したら行っちゃったんだよな。おかげで、声もかけ・・」
(可愛い子、一体どんな子なんだ・・。)
(いや、でも陽平の可愛いと思う子が、僕にとっても可愛いとは限らないよな)
そんな、くだらないことを考えていたHR開始十分前。
「あー、今日は学校来てるんだね。」
聞き覚えのある声、知らない顔の女の子が僕に話しかけて来た。
「何、キョトンとした顔しているの?大丈夫?」
知らない顔だと思ったら、真正面から見たことが無いだけで
いつも練習中にこっそり見ていた顔だった。
「だ、大丈夫。山下さん、何か用事でも?」
思い返せば、まともに話すのは久しぶりかも知れない。
「いやねー、一之瀬君この前の1on1苦戦していたからさ。少し、レクチャーしてあげようかなって。」
凄いアホみたいな顔をしていたと思う。
「是非!お願いします!」
こんな機会は二度と来ないかも知れないし、人生で一番ハッピーな出来事かも知れない。
バスケも上手くなれるし、彼女と一緒に練習できるし一石二鳥のこの上ない。
「皆、おはようー。朝のHR始めますよー。」
「あ、じゃあ一之瀬君。またね。」
彼女は、自分の教室へと急いで帰って行った。
単純な思考回路である僕は今の一連の会話だけで、バスケの腕も彼女との距離も前進出来るような気がした。
沢山の女性と仲良くなれる人なんて、そう多くはいないと思います。
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