-出逢い- ある日の帰り道
彼女、山下星香を初めて見かけたのは、バスケ部体験入部の時だった。
その時は知らなかったことだが、スポーツ科の生徒は推薦入学が決まると中学三年の時から練習に参加し始める。
息の合ったプレーに、端っこでドリブルの練習をしていた僕は目が釘付けになった。
当時の僕は、バスケをかじった程度の初心者みたいなもの。
バスケ部に入部を決めたのも、女バスの可愛さが一つの理由だったのかも知れない。
そんな邪まな考えの奴らの殆どは、夏が来る頃には退部して行ったが。
自分の想像以上に、バスケにハマっていた。始めた頃だったこともあったが、指導もしっかりしており上達するのが目に見えて、楽しくて仕方が無かったのだ。
バスケに夢中だった僕は、すっかり彼女の存在を忘れていた。男子高校生らしからぬ出来事だ。
夏が近付いて来たある日の部活帰り。
その日の練習はいつも以上にハードで、二十時まで練習が続いたのだ。当然、足はフラフラで自転車で帰るのも辛く途中で休憩することにした。
自動販売機の前に座り、スポドリを飲みながら携帯を取り出す。
時刻は、二十時三十二分。家までは学校から十km近くあり、まだ半分も進んでない。
疲れで、少し眠りかけていた時。
声が聞こえる。
「・・ねえ、大丈夫?生きてる?」
「え?」
僕は突然の出来事に、声が裏返った。ふと体験入部の時に見た、彼女の姿を思い出していた。
「キミ、男バス(男子バスケットボール)の人でしょ?こんな所で寝てると風邪引いちゃうよ。」
・・・
「あ・・、はい!気を付けます!」
思わず、敬語になってしまった。
「何で、敬語?同じ学年だよね多分、タメ語でいいよ。」
「じゃあ、私帰るから。明日も練習頑張ろうね。」
緊張して、思う様に言葉が出てこない。
「あの・・!俺、一之瀬達哉って言います。」
何を口走ってしまったのか、一瞬理解できなかった。
「え・・?あ!私は山下。山下星香。一之瀬君、よろしくね。」
彼女はそう言って、あっという間に姿が見えなくなった。
山下さんと初めて話した、ある部活帰りの出来事であった。
女バスはとっくに練習が終わっていたはずなのに、彼女が今帰っていると言うことは残って自主練習をしていたのだろうか。
それにしても僕と同じ学年だと何故分かったのか不思議で仕方が無かった。
人生とは、運が回って来ている時と、運に見放されている時があるのだと
僕は、この後知ることとなる。
実は、前回の話で名前が出てこなかったのは
過去の出逢いで自己紹介するからと言う設定にしてみました。
また、明日も頑張ります。