-告白- 現実的な恋模様 後編
楽しい時間と言う物は、瞬きをしたかのようにあっという間に過ぎて行く。
彼らの二度目のデートは終わりへと近づいていた。
太陽が沈み始め、空は赤く染まっている。
二人の間に会話は無く、ただ無言で歩き続けていた。いつからだろうか、お互いが無言になったのは。
美術館を見て回り、その後はカフェに入り他愛のない会話が弾む。そのことに二人は心から楽しいと感じていた。
何を話しても相手は真っすぐに答えてくれる。会話の中に自身を誇張するようなことは無く嘘偽りの無い純粋な言葉を投げ合う。対等な関係、そう感じさせてくれる。
そんな時間を過ごし、二人は往く当てもなく歩いていた。恐らくカフェに出てからだろう、お互い何かを意識し始めたのは。
「ブランコでも乗る?」
一之瀬がそう提案すると、彼の指さす先に公園が見えた。
「そうだね。楽しいかも。」
何故ブランコ限定なのか、不思議に思った彼女であったが一之瀬の提案を素直に受け取った。
「ブランコなんて、久しぶりだなー。」
「俺は小さいころ、ブランコ漕ぎながら靴飛ばしをしてたなー。」
「やったやった、懐かしいね。」
ブランコを漕ぎながら、しばらくするとまた無言になる。
一人の男が決意し、勢いよくブランコからジャンプした。彼女には沈みゆく日の光が彼の顔を隠し背中だけが見えていた。
思わず顔を手で覆う。その瞬間、目の前の彼から言葉が紡がれる。
「山下はさ・・、高校生活楽しかったか?」
彼の言葉に迷うことなく答える。
「練習とか辛いこともあったけど、振り返れば楽しいことばかりだったと思う。」
そう素直に答えた。彼は一度深く呼吸をしこう続けた。
「俺も楽しかった、一つのことに打ち込み夢中になれる日々が楽しかった。でも、俺一人じゃ楽しめなかったと思う。部員の皆と一緒に勝つために頑張ってきて支え合った来たから今があると思うんだ。」
「そうだね、私も一人じゃ最後まで続けられたか分からないし。皆、勿論男バスのみんなも含めて感謝してる。」
「俺にとって、一番の支えだったのは・・。」
そう言って、彼は口が止まる。私は彼の言葉を静かに待つ。
「俺にとって、山下は一番の憧れだったんだ。」
「いつも練習しながら山下を見ていた、その美しいフォームに憧れていたんだ。無駄のない動きに。」
「そのことを忘れて俺は怪我を理由に現実から逃げ出した。楽な方に逃げたんだ。」
静かな公園で彼の言葉が続く。まるで彼の言葉を遮らないようにと自然が配慮しているかのようにしっかりと一語一句聞こえてくる。
「腐っていた俺に最初に話しかけてきたのは、山下だったよな。」
「憧れのままの山下が、いつの間にかライバルになっていたんだって俺はその時気付いたんだ。」
「真っすぐ突き進む山下に追いつきたい、一緒に走り続けたいってそう思えた。」
「山下、俺と一緒に走り続けてくれないか?」
急な一言に思わず。
「ふふっ・・。」
「なんだよ、人がまじめに話してんのに。」
「だって、言い方が遠回しすぎだし。つまりどういうことなの?」
「だ、だから。え、伝わってないのか?」
「わかりませーん。」
「だからさ。俺は山下と一緒に進んでいきたいっていうか・・。」
「で・・?」
「あー。もう。要は、好きだってことだよ!。」
思わず笑みを浮かべていた彼女だったが、「好き」と言う言葉を聞いて恥ずかしさと嬉しさが同時に込み上げてくる。
「なんだか恥ずかしいな。」
「俺も恥ずかしいわ。で、答えなんだけどさ。」
彼女も深く呼吸をし、彼の返事に答える。
「私もね、一之瀬君と走り続けたい。一緒に勝負したあの日からずっと目で追っていたの。ずっと気になる存在だった。でも、この気持ちが好きだって気持ちになったのはつい最近のことなの。」
「私は誰かと恋愛とかしたことなんて無いし、ずっとバスケだけをしてきたから女性らしいことなんて一つも無いと思うの・・。」
「それでも良いって言うなら、少しずつ一緒に進んでいきたいなって思ってる。」
「私も一之瀬君が好きだから。」
彼と彼女の恋模様はこれからも続いて行く。何故なら二人の間には、高校生活を共に過ごした思い出があるのだから。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この物語を読んでいる時間が、少しでも有意義になっていることを祈ります。
また次回作でお会いしましょう。