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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
3章 彼らの恋事情
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-告白- 現実的な恋模様 中編

食事を終え満腹に達した彼らは、街並みをゆっくりと歩いていた。

時刻は十三時三十分を過ぎた頃。休憩がてらに散歩をしていたが意味も無く歩いている訳では無い。

彼は自然と誘導するように駅から二百メートル程の場所にある公園に向かっていた。

「この先の公園で少し休憩して行こうか。」

「そうだね、お腹も一杯だし急には動けないかも。」

二人とも学生限定の大盛り無料と言う広告を見てラーメンを大盛りにしていたのだ。美味しくお腹も一杯になったは良いものの彼女は少し苦しい様だ。

(山下が彼女だったら、少し食べて上げれたんだけどな・・。)

そんな明るい未来のことを想像して頬が緩む。



公園に着き大きな池の前にあるベンチで腰を下ろそうとする。そこでまたも佐伯陽平の言葉を思い出していた。

「公園のベンチに座る時は、ハンカチを彼女に渡してあげるんだよ。」

その言葉を思い出し咄嗟に彼女に持って来ていたハンカチを渡す。

「・・?」

しかし彼女にはその意味が伝わらない。そう言った経験が無かったのだろう。

「そのハンカチを下に敷いて座ると良いよ。」

彼は一言付け加える。

「え、そんな駄目だよ。汚れちゃうし。気にしなくていいからね?」

陽平の言葉には続きがあった。

「さりげなくベンチにハンカチを敷いて上げるんだ。そうすれば座りやすいだろ?」

格好付けながら、片目をウインクしながらそう彼が言っていたことを見たくも無かったウインクまでも思い出しながら実行する。

返って来たハンカチを彼女が座る前に敷くことに成功した。

「そんな気を遣わなくていいのに・・。でも、ありがとうね!」

ちょっと強引だったかもなと彼は思い反省しつつも彼女の感謝の言葉を聞き満足気であった。

10分くらい休んだ頃だろうか、彼女が立ち上がりこちらを向き言葉を発する。

「もう大丈夫。次行こ!」


再び歩き始める。歩きながら先ほど気付いたことを彼は口に出して彼女に伝える。

「山下ってイヤリングするんだな。」

「あ、気付いた?私だってアクセ着けたりするよ?」

「悪い悪い、そういう意味じゃなくて着けてるの初めて見たからさ。」

「んー。」

彼女は少し悩んで、昨日今井奈美に選んでもらったことを一之瀬に伝える。

「実はね、昨日買ったんだこのイヤリング。奈美が選んでくれたの!」


そう言った彼女は凄く嬉しそうな顔をしている。どうやら親友の今井さんが選んでくれたことが、余程嬉しかったのだろう。

「今井さんが選んだんだそれ。納得かも。めっちゃ山下に似合ってると俺も思うし。」

「そうかな。」

少し照れているのだろうか。お互い顔を見ながら話しをしていたのに急に彼女が正面を向いてしまう。

我ながら恥ずかしいことを平然と言っているなと自覚した彼も思わず照れ始める。

ゆっくりと駅前にある広場まで歩いて行く。



駅前広場に着く間に次はどこに行こうか話し合っていたところに、思いがけない相手から話しかけられる。

「こんにちはー。リニューアルした美術館です。いかがですかー?」

とアルバイトらしき女性がチラシを渡して来たのだった。

「そこのお二人さん、今なら入場料半額ですよー。」

そう付け加えられチラシを受け取り、その場を後にする。彼女がそのチラシを覗きに来る。

どうやらリニューアル記念に有名な画家の絵画展をやっているらしい。

「どうだろうか・・。」

「んー安いし行って見ても良いかも?」

彼女の疑問形に納得も行く。彼らの専門外と言っても過言ではない。ただデートスポットの一つとも言える場所に興味が沸いているのも事実であった。

「試しに行って見ようか。」

一之瀬のその一言で次に行く場所に決定。駅に近いショッピングモールに行くというプランを一之瀬は元々立てていたが、現在の場所からは美術館が近いと言うことでまずは行って見ることに。



美術館のある場所は駅から十分程歩いた場所にあり、遊技場とショッピングモールの中間地点に位置していた。美術館の内装だけではなく外装もリニューアルされているらしく綺麗な外観の建物である。

駅から徒歩で行ける距離なのとリニューアル記念であるため客足も多い様だ。

「その画家さんって有名らしいけど、一之瀬君知ってる?」

「さっぱり。美術で教わる昔の人しか知らない・・。」

「そ、そっか。」

雲行きが怪しいまま二人は美術館の入口へと歩いて行く。

「高校生二人でお願いします。」

「かしこまりました、入場券二枚で千五百円になります。」

入場料半額と言うことで普段は千五百円の所が七百五十円となっている。

料金を支払い、彼女に入場券を渡すと共にお金を手渡される。

「はい、七百五十円!小銭ぴったし!」

「サンキュ。」

彼女が昨日のうちに小銭を用意していたことに彼は気付いていない。千円分の小銭をわざわざ揃えて持って来るのが山下星香という女性である。


美術館と言う場所は騒ぐことは出来ないが、落ち着いた雰囲気で普段見ることの出来ないものを見れる場所として水族館や動物園等の人気スポット程では無いものの人気がある。

また会話の話題が思い付かなくても大丈夫なことも良い点であろう。何故なら、静かに一緒に作品を見て感想を言い合う。それだけで楽しむことができ、デートとして成り立つのだ。

「どこから見に行こうか?その有名な画家さんの人の絵を見てみる?」

「そうだね、どんな絵なのか気になるし。行ってみよ!」


美術館を回りつつ、目的の場所へと向かう。

「どうやらこの絵らしい。」

絵画展に展示してある一際大きな絵を見て、彼はそう呟く。

「そうみたいだね・・。うん。」

「うん・・・。俺には分かんないかもな。良さが。」

「私にもちょっと分からないかも・・。」

二人とも首をかしげているのをお互い見合って、少し笑ってしまう。

こんな状況になりつつも二人は楽しめていた。


彼女の顔を見た後、彼女の奥に居る女性が気になった。どこかで見覚えのあるような顔立ちである。

「あ。」

「え、どうかした?」

そう彼女が答えると同時に、彼の声が届いたのか奥に居た女性がこちらに気付く。

どうやらあちらも二人で美術館に来ているようだった。

「どうも。」

「偶然ってあるもんなんだな。成宮さんもこの人の絵を見に来た感じ?」

一之瀬は大きな絵に向かって指を指しながら話しかける。

「そう。画家の名前も知らないキミが居るのは驚きかな。」

「なっ、なんで知らないって知ってるの・・?」

「界隈で有名なだけだから。」

「そ、そうか。」

美術館に入る前の会話を聞かれていたのかと思いヒヤリとしたがどうやら違うようだ。


「あの。一之瀬君、こちらの方は?」

「ああ、ごめん!成宮雫さんって言って芸術クラスの人だよ。」

「そうなんだ。スポーツクラスの山下星香です、よろしくね!」

「よろしく。」

少し間が空き、彼女は早々と立ち去ろうとする。

「ちょ、ちょっと待ってよ、僕の紹介は?」

「した方が良いの?」

「だって成宮さんの隣に居るのに、紹介されない方が逆に不思議に思うよ。」

「(伊瀬翔太(いせしょうた)。クラスメイト。以上。」

「寂しい!せめて、クラスメイトじゃなくて友達にして欲しいなって・・。いや、なんでもないよ。うん。

とりあえず二人とも、よろしくね。」

同学年と言うこともあり堅苦しくなく、互いに紹介し合い軽く話しをする。

「俺は一之瀬達哉。理系コース。よろしくな。俺らは元バスケ部繋がりなんだ。」

「キミってバスケ部だったんだ。」

「言ってなかったっけ。」

「そもそもあまり話したことない。」

「そう、だったな。あの時は悪かったな。」

雨の日にぶつかってしまったことを再度謝る。こちらの不注意であったことは間違いない。

「気にしてないって。」

一之瀬と成宮の二人が話している。それを見た伊瀬は山下に話しかけようかと思ったが話題が思い浮かばなかった。


「じゃあ、邪魔しちゃ悪いしここら辺で。学校で会うことがあれば。ではまた!」

「うん。二人も楽しんでね。」

伊瀬の言葉に山下はそう答える。


少し離れて成宮達の会話が聞こえて来た。

「成宮さんって、誰に対しても同じ態度なんだね。」

「文句ある?そう言うあんたは鼻の下伸びてたけど。」

「え、本当に!」

彼が咄嗟に鼻元に手を持って行き覆い隠す。

「嘘。」

キミとあんた。どちらが親密な呼び方なのかは人それぞれだが。

休日の今日、二人で出かけているなら親しい証拠なのだろう。

彼女に男友達が出来たと言うことでもある。

悩んでいた過去も現在も知らない一之瀬と山下であったが、成宮雫が笑顔を見せていないが心の中では笑っているのだと話をしている彼女を見て分かった。


彼女らは一之瀬たちと別のルートを辿ったのか、それ以来会うことも無く美術館のデートは終了した。

会話が弾むことは無かったが互いに初めて見る物に関心を抱くと共に鑑賞している様を互いに見ていたのだった。

恋とは自然と好きな相手を目で追ってしまう。まさにそれだった。



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