-告白- デート前日 後編
一之瀬達哉が、佐伯陽平と街で色々準備をしている時、彼女たちもまた準備をしていた。
奈美からデートの準備をすると言われたけど、何をするのかは聞いていない。
(特別な準備とかいるのかな・・)
前日の準備よりも当日のことで頭が一杯だった私は、考え事をしてて電車に乗り過ごしてしまった。
予定より少し遅くなるけど、待ち合わせには間に合いそうでほっとする。
準備を手伝って貰うのに、私が遅れるわけにもいかない。
今日は奈美の提案で女の子には人気な街へと出掛ける。服と言うよりは、アクセサリーだったりエステとかそう言った店が多い場所。
私にはまだあまり縁が無かったけど、前から行って見たかった場所だから嬉しい。
次に来た電車に乗ること四十分、私は目的の駅へと着いた。
(待ち合わせの五分前・・ギリギリになっちゃった)
少し駆け足で、改札を出ると切符売り場の前に奈美が立っていた。
「ごめん!待った?」
「大丈夫、さっき来たところだから。星香がギリギリに来るなんて珍しいね。何か考え事でもしてた?」
「え!?何でもないよ、ちょっと寝坊しちゃっただけ。」
「ふーん。まあ、深くは聞かないでおくとしますか。じゃあ行こっか!」
(奈美の不敵な笑みが気になるけど、明日のことを考えてて電車に乗り遅れたなんて恥ずかしくて言えないし・・)
「まずは、どこから行くの?」
「アクセサリーとか買いに行こうか。星香、あんまり持ってないでしょ?」
「ネックレスとかなら持ってるけど、色々見てみたいかも。」
「よし、じゃあそこからだね!」
駅から五分くらい歩くと、周りにお店が並んでいる通りに出る。
私は滅多に来ないけど奈美は良く来るのだろうか。親友だからか気になってしまう。
同じ女の子として、お洒落に関しての知識があまり無いことにどこか恥ずかしさを感じた。
だから戸惑いながらも私は彼女に尋ねる。
「化粧とかって、した方が良いのかな・・。」
「化粧かー、来年から大学生になれるかもだしナチュナルメイクは出来るようになった方が良いかもね。
でもデートは明日だし、これから少しずつ勉強していけば良いんじゃない?
私だって化粧の技術はまだこれからって感じだし。それに星香はそのままで可愛いから。」
「か、可愛くないと思うけど・・。」
「おっと、その発言は大勢の女を敵にする発言かも?」
「奈美の方が可愛いと思うけど。」
「嬉しいこと言ってくれちゃって。あ、店着いたよ。」
「本当だ。」
ジュエリーショップにやってきた。暑さもあって、私たちは真っすぐ中に入っていく。
店内を見渡すと女の子だけなのかと思いきや、意外とカップルもいる。
(私もいつか男の人と来たりするのかな..)
「男の人もいるんだね。」
「あー、ペアリングとかじゃない?お熱いことで。」
奈美はちょっと羨ましいのかむくれた顔で言って来た。
「星香も、一之瀬と一緒に来たりするかもね。」
「ええっ!?そうかな・・。」
「付き合ったら、いつかは買いに来るでしょー。」
あっという間に、星香の顔が赤くなる。全く、いつからこんなに可愛くなっちゃったんだか。
恋する女は特に可愛らしくなると言うのはどうやら本当の様だ。
(これも、一之瀬のせいなのかな)
私としても、星香の可愛いところを見るのは楽しい。
(でも!なんか、複雑な気持ち・・)
「奈美?どうかしたの?」
「何でもない!さて、何にしようか。私の見立てではイヤリングとか良いと思う。」
「私もイヤリングが良いかなって。いつでも着けられるし。」
「ピアスの方が可愛いの多いみたいだけど、ピアスって着けたことないんだよねー。」
「奈美とか似合うと思うけどなー。」
「星香は分かってないよ、典型的な運動バリバリやってました的な私に似合う訳無いでしょ。」
「そ、そんなことないよ!奈美なら絶対似合うよ。私より背が高いし!」
その良く分からない理由で似合うと決められてしまったが、似合うって言われて少し照れながら本題に戻そうとする。
「とりあえず。私のことより星香が買う物決めないと!」
「んー、せっかくの買い物だし一緒に楽しみたいから。ねっ、お互いに似合うの探すってのはどう?」
星香と買い物に来るといつもこうなる。星香自身のことよりも、相手の私のことをいつも気にしてくれている。
そんな彼女だから、私は星香が好きで3年間ずっと親友なんだけど。
(でも、こんな日くらい・・。)
少し考えて今日こそはと決心した私だったが、彼女の顔を見てしまうと
「・・分かった。じゃあ、私もイヤリング買うからお互いの探そ!」
「うん!」
これはこれは、とびっきりの笑顔なことで。これを見た一之瀬の顔を見てみたい気もする。絶対、赤面することだろう。女の私が見ていて恥ずかしくなるのだから間違いない。
十五分程、イヤリングのコーナーを二人で見ていた。
三年間一緒にバスケをしてきて、一緒に遊んで、一緒にお昼を過ごして来た一番の親友。
そんな彼女に似合いそうなイヤリングを探していたら、明日のことは頭の隅に少し残っているくらいで探すのに真剣になっている私がいる。
星香は動き回って落ちないように後ろからネジを回すように締められるタイプのイヤリングを探していた。
ふと目に映ったイヤリングを、彼女は一目見て確信した。それは、雫型の様なイヤリング。
(この黄色のイヤリング可愛い。水晶みたいに透き通っていて奈美に似合うと思う。)
そのイヤリングを手に取り、奈美に話しかける。
「奈美、これなんてどうかな?奈美に似合うと思うの。」
「あ、丁度私も星香に似合うかなーってイヤリングを見つけたところ。この、水色のイヤリング良いと思わない?」
奈美が差し出して来たイヤリングを見る。
サファイアの様な色で四角い形をした石が連なっている。位置は少しずつずれて階段のような形になっていて、色はグラデーションのように耳に近づくほど濃くなっていた。
「それ、欲しいかも。」
思わず口に出た言葉。瞬間的に発した言葉で、奈美も驚いていたが自身満々の笑顔を返して来た。
「でしょ!じゃあこれにしよう。星香が選んでくれたイヤリング、実は私もさっきそれ見てたの。星香のお墨付きみたいだし、私もそれに決めようかな!」
「良かった。絶対奈美に似合うと思ったから付けて欲しいなって。」
何だかまるで付き合っているカップルのように周りからは見え、微笑ましい光景であった。
イヤリングを買った後、明日のデートの服装を奈美に指摘され当初着て行く服の予定を変更して新しい服を買いに行くことに。
「明日のデートで着て行く服は決まった?」
「んー、多分?」
「試着してみた?」
「これからしてみるつもりだけど、一之瀬君がどう感じるのかなーって。」
この服は奈美にも勧められて私も気に入ってる。ただ・・、一之瀬君はどう思うのだろうか。
「星香。服は自分を飾るものであって、星香の全てじゃないでしょ?そんな気負わずに好きな服着れば?」
「そっか。そうだよね!サイズ確かめてくるね!」
なんて格好付けて言ってみたものの、私の服装を見てくれるのは女友達しか居ないというのに。
(彼氏か・・。)
明日のデートの準備が終わってからは、他愛のないいつも通り。
緊張してたけど、いつの間にか忘れていたのは奈美のおかげかな。
(明日も、緊張しないと良いけど・・無理か。)
夕暮れ時。夕ご飯を食べて帰ろうと決めて、美味しいパスタ屋さんと噂のお店へ向かう途中。
「でさ、結局。」
「どうかしたの?」
「星香から告白するの?」
奈美のその一言で落ち着いていた心が騒ぎ出す。鼓動が早くなるのを感じる。
「え、えっと。」
「星香なら自分から言っちゃうのかなって思ったからさ。」
「どうだろ・・。その時になってみないと分からないかも。」
実際、いつもの私なら奈美の言う通り言ってしまうかも知れないが、告白となれば別だ。
歩きながら、悩んでいると
「まぁ、男から告白してくれた方が嬉しいか。」
そう言った奈美は、それ以上はこの話をしなかった。
その後、夕ご飯を食べながら今後の進路の話をしたり、憂鬱な勉強生活にまだ終わりが来ないことを二人で嘆いていた。
「じゃあ、また月曜日!頑張ってきなね~。」
「うん。今日はありがとう。」
すっかり夜になり、明日が本番と言うことでお開きになった。
手を振り笑顔で別れる。
不安は勿論あるけど、せっかくの一之瀬君とのデートだから。
(明日は楽しい一日になるといいな。)
デート前日、山下星香の一日が終わる。