-告白- デート前日 前編
親友が思いをぶつけ、幼馴染が決断した事等知らぬ彼は明日のことで頭が一杯だった。
佐伯陽平と、柊夏海。二人のデートから、一週間。現在に戻る。
デートに誘った木曜日は、真っすぐ家に帰り宿題を終わらせたり夕飯を食べたりといつも通りに過ごした。
今日の前日である、金曜日はどこか落ち着かず陽平と話していても内容が入ってこなかった。
それを悟ったなのか陽平から、遊びに誘われたのだ。
と言うことで、彼を待つこと二十分。待ってる間に、数日を振り返っていたが目まぐるしいほど色々あった。
初瀬さんのことだったり、今井さんと話したり、一番は山下と一緒に登校するようになったこと。
環境の変化に驚いてばかりだ。でも、やっと動いたなって自分でも分かっている。
唯、可愛くてバスケが上手いから彼女をずっと見て来た訳じゃない。勿論、それも一つだけど。
可愛いと言う単語を頭の中で考えたら、もう色々な姿がフラッシュバックして来てしまう。
最近の俺は、どこかおかしい。
まるで変態になってしまったんじゃないかと思うほど、彼女のことばかり考えている。
とりあえず、冷静になろうと呼吸を整えていると待ち人が現れた。
「わりーな、待たせちゃって。」
「別に大丈夫だけど・・あっつい・・。何かあったの?」
七月二十二日、土曜日の十時は例年より梅雨明けが早かったこともあり、気温が高い。
待っている間に、髪のワックスは汗で取れそうな勢いだ。
「いやさー、夏海ちゃんにモーニングコール頼んだんだけどさ。彼女、今日朝バイトだったみたいで寝ちゃったみたい。」
「モーニングコールって・・てか、朝バイトが終わる時間だと待ち合わせ時間に間に合わないだろ・・!」
「あれ・・ばれたか。ごめんごめん、本当は寝坊なんだわ。」
「嘘つかなくても、分かってるよ。」
「わりい!、後で飲み物でも奢るよ。」
「あいよ。」
立ち話も、この炎天下では辛いものがある。話しながら、目の前の店へと入っていく。
陽平とは、駅が同じと言う訳では無いので、少し遠くまで今日は来ていた。
高校生が良く来る、ショッピングモールだ。何でも、揃っている。
「ところでさ、今日は何の用があったんだ?」
静寂が訪れる。
「おいおい、明日はお前の大一番だろ?」
「そ、そうだね。」
「じゃあ、ここは何の店だ?」
「カジュアル系の服が多い、服屋だね。」
「つまり、服を買いに来たんだよ。」
「なるほど・・。」
「どんな女だって、少しはカッコいい男の方が良いに決まってる。それに、服は自分を魅せる為にあるんだぞ?告白する時の服くらい、気合い入れて行こうぜ。」
「さ、参考になります。」
昼になるまで、二時間弱俺たちは明日の服選びに時間をかけた。
その内の半分の時間は、陽平の服だったり遊びで色々な服を着てみたりしていた。
最近は、自分で適当な服を買うことが多かったけど、友達に客観的に見てもらえるのは参考になる。
決まった服は、カジュアル過ぎないよう大人しめの服。
ボーダーカットソーに、無地の麻シャツ。パンツは、ネイビーのデニム。
オシャレだけど、暑すぎないよう生地は夏用の薄いものにした。
「な、服を選ぶだけで明日のデートが楽しくなって来るだろ。」
「そうだね。お金がちょっと心配だけど・・。」
「馬鹿だな、だから安めの店に来るんだろ。俺ら、運動部がバイトする時間は中々取れないし、こういうところで頭使って行かないと。」
「はー、陽平は色々考えてんだな。尊敬しちゃうかも。」
「ま、モテる男は違うのってことよ。」
「・・・・。そう。」
「おいおい、半分冗談だって!そ、それよりさ。明日の相手、名前なんだっけ?」
「スポーツ科の山下星香。それが、どうかした?」
「星香ちゃんね・・。いやさ、お前が服を必死で選んでるってことは相手もそうかも知れないだろ?
それを、想像すると胸が熱くなるっていうか。ドキドキしてくるだろ?」
「陽平ってさ、結構恥ずかしいって言うか、そんなくさい台詞良く言えるよね。」
「ばっかっ!男子高校生なんて、皆そうだろ・・!」
誤魔化したけど、陽平から言われた途端、俺は胸の高鳴りが大きくなっているのを感じた。
と言うか、服を選んでいる彼女を妄想してしまい、もう冷静ではいられない。
今まで、異性を意識して来なかった、或いは機会や対象が居なかった彼には、ごく普通の葛藤が今まさに一気に押し寄せているのだ。
俺たちの、戯言は程々にしておき会計が終わったので、二人で昼飯を食べに来た。
同じショッピングモールの中にある店にすることに決めたは良いが、休日と言うこともあり大分混んでいる。店の列に並ぶ。
「良いか、達哉。明日も当然、混んでるだろう。そこで、必要になって来るのがトーク力だ。」
「まあ、そうだよね。無言は辛いよね。」
「ああ。でもな、意外に話せなくなるもんなんだよ。」
「陽平でも?」
「誰だってそうだ。どこかで、話のネタなんて尽きるもんだ。
ってことで、一つ俺のとっておきを教えてやる。」
「まじ?どんなの?俺に出来るかな・・。」
自慢じゃないけど、トーク力と言う物には全くの自信が無い。恐らく、何度も無言になると思う。
陽平のとっておきが俺に出来ることなら、使って行きたい。
そんな期待した目で、俺は彼を見ていた。
「それはだな。」
・・・
「相手をずっと見つめることだ。」
「・・。それだけ?」
「ああ、それだけだ。それ以上は、お前にはまだ早い。」
何様なんだと思ったが、今日の二時間で俺は彼のデートにおいての知識は認めざるを得なかった。
「見つめて、どうするのさ?」
「見つめたままさ。そこからは、お前が考えるんだ。」
「はぁ?」
思わず、大きな声を出してしまった。でも、それくらい陽平の言ってることは意味が分からなかった。
「まぁ、騙されたと思って!試してみろって。」
「・・・。お、おう。」
何処か納得が行かなかったけど、もしかしたら最高の手段なのかも知れない。
ただ、自分で考えろと言ってたけど実際にその場面にならないと、何も思い付かない程経験が無かった。
話している間に、順番が来て席に座っていた。
「髪の長さはー、大丈夫だな。女は、何より男が清潔かどうかを見て来る。これは、絶対だ。」
「清潔感ね。覚えとく。爪とかもそうだよね。」
「そうそう、しっかり切っとけよ。」
「色々教えてもらったけど、肝心なことがまだなんだよね。」
「なんだよ、不安なのも分かるけど直せる見た目の部分は言ったつもりだぜ。」
「いやさ、どこに行くか決めてないんだよ。」
「まじで?」
「本当です。」
「前日だぞお前・・、いつ告白するとか何も考えてないのか?」
「いや、俺なりに考えたんだけどさ。それで、大丈夫なのかなって。」
「んー、それはお前が決めることだな。それだけは、俺は何も言えない。」
「そう・・だよね。分かった。」
「自信持てって!顔は、そこそこだし。ずっと一緒に頑張って来たんだろバスケ部で。だったら、上手く行くって。」
「そうだと、良いな。」
「あとは、笑顔だ。」
「え?」
「好きな相手の笑顔だ。それが重要だ。覚えておいて損は無いぞ。」
「?・・分かった。」
その後は、二人でカラオケ行って彼女と来た時の予行練習と言うことで色々なジャンルの歌を歌った。
お世辞にも俺は、歌うのは上手くないけど陽平曰く楽しく歌うことが大事なんだって。
夕方になり、陽平にお礼を言って別れた。
その後は、真っすぐ家に帰った。帰った後も、ずっと明日のことを考えている。
これからどうなって行くのか不安もあるけど、もし断られても友達でいられる関係だったら良い。
いや・・!叶うなら、付き合いたい。こんな気持ちになったのは初めてだから。
淡い願いを、夕飯を食べてお風呂入りながら願っていた。
すると、どうでも良いことを思い出した。
(あ、陽平に驕って貰うの忘れてた・・)
思わず少し強張っていた頬が緩む。
(深く考えすぎても仕方が無いな。)
そして、リラックスした一之瀬達哉はデート前日の風呂を満喫した。