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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
3章 彼らの恋事情
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-恋- 好きな人と好きになってくれる人

「好き」って言葉は、頭の中で言うのは簡単だ。

だけど、実際に口に出して言うのは難しい。それが、本気で好きな相手に対してなら尚更だ。

だから、俺は彼女から「好き」と言われたことが無い。



俺の親友の、一之瀬達哉は最近自分の気持ちに気付いたらしい。

達哉の好きな子のことは詳しくは知らないけど、鈍いあいつを好きにした子だから強者だろう。

達哉とは、一年の頃からの仲だから彼女も出来て欲しい。

それに、俺にとってはあいつに彼女が出来て貰わないと困ることがある。


佐伯陽平と言う男の子は、男女関係無く友人が多い。彼に、男の子と言う言葉は似合わないかもしれないが。

サッカー部所属と言うこともあり、体型も良くそれに身長も高い。

そんな彼に、三年のGWの時に彼女が出来た。

それは、柊夏海と言う女の子。彼女は、違う高校の生徒だが同じ地域なのでそこまで遠くは無い。

陸上部の部長で、同じ運動部として話が合い今に至っている。



二人の仲は、誰もが羨むカップルになっている・・とは言い難い。

学生時代の恋は、必ずしも本気の恋とは限らない。

少し興味があるなと言う理由で付き合う人もいるだろう。

それは、付き合っている当人たちの問題だ。

だけど、中途半端な気持ちの恋には亀裂が入るのも早い。


二人の関係が、まさにそれだった。


自慢じゃないけど、俺は何人か付き合った人がいた。

チャラいかチャラくないかの区別なら、チャラい方だと思う。

経験から、相手が自分のことどう思っているか。付き合っている途中で、相手の気持ちが変わっている時とかも分かってくるようになる。

自分を求めていなかったり、話の中で上の空になっている時がある。

俺も、相手に興味が無くなっていれば自然と別れ話になったりするだろう。

だけど、俺はそんな気持ちになっちゃいない。

付き合い始めて、三ヶ月も経っていないし何より俺は夏海のことが好きだ。

デートをする度に、もっと彼女のことを知りたくなってくる。

こんなに好きになった相手は、初めてなんだ。


だから、俺は彼女の中にいる俺よりも好きな相手の存在が辛い。

達哉が夏海の幼馴染だって聞いた梅雨の時期が、つい来ないだな気がする。

そのことを聞いた時は、俺はあいつに相談に乗ってもらえる相手が出来て良かったと思っていた。

ところが今は、危機感を覚えている。

夏海は、俺の彼女だ。だけど、夏海に達哉の名前を出した時の顔は俺の脳裏に焼き付いている。

だって、あの顔は必死に気持ちを抑えていた顔だったから。

それに、達哉の名前を出した時から会話の流れの中に、達哉の存在がいつもあった。


今から話すのは、ちょっと前の話だ。

達哉が、デートの誘い方を聞いた日から一週間前くらいだろうか。

俺のかっこ悪い話だ。



その日のデートも、二人で楽しく過ごしていた。

休日は、デートに誘っている。毎日会えるわけじゃないからと言うのが誘う理由となっているが。

本当は彼女が離れて行ってしまうのではないかと俺が不安になっている。

(以外に、女々しいんだな俺って)


ショッピングモールに行ったり、晴れていたから大きい公園でゆったりとしていた。

静かな時間。周りにもカップルがいるけど、二人だけの空間。

ふと、レジャーシートに座る彼女の顔を見た。

デートでは、いつもそうしている。

何故なら、話していない時の彼女は何かを考えているようだから。

気付かぬふりをする、俺は自分の心の中に不安を押し沈めていた。

だが、付き合い始めて二ヶ月。デートも十回近くはしてる。

歯止めが効かず、俺は・・こう言ってしまったんだ。


「達哉のこと、考えているのか?」


「え・・。」

夏海は、その短い一言しか返して来なかった。多分、図星だったんだろう。


「そんなことないよ。」


ハッキリとした否定じゃないことに、俺は苛立ちを覚えた。

「あいつは・・唯の幼馴染だろっ!」


「・・・!佐伯君に何がわかるのさ・・!」


唯の幼馴染と俺が言った。俺が言った言葉だが、生まれた頃から一緒にいるってことはだ。

十八年間、お互いの存在を知る仲ってこと。

対して、俺は出会って二ヶ月。

その差は、歴然。なのに、俺は唯の幼馴染と決めつけたんだ。


彼女は、お手洗いに行くと言って公共の施設に入っていった。



柊夏海と言う女の子は、生まれた時から一之瀬達哉と一緒に過ごして来た。

中学の時は、陸上に誘い一緒に頑張っていた。

当然、達哉も高校で陸上を続けると思っていた私は、陸上の強い青柳高校に進むことに決めていた。

それが、私の人生における分岐点だったことに気付いた時には遅かった。

結局、彼とは違う高校に進んでしまった。

達哉が好きだった。その思いを伝えることが出来なかったのが今の私の現状。

達哉と話して、区切りを付けたつもりだった。

区切りの一つが、佐伯君。

彼は、とても話しやすくて気が利くから直ぐに惹かれて行った。


(私が悪いのは分かってるの・・)


彼と付き合っている。当然、好きだからだ。

でも・・。彼には、悪いけど私の中の達哉が消えてくれないの。

長い年月で培った思い出が彼女を縛っていた。


告白して、振られることのできなかった、私の弱さが彼を傷つけている。


あまり長く一人にさせちゃうと申し訳ない。

何も解決してないけど、私は顔に出さないよう歩き出す。

自然公園の一角にあるこの施設は、どうやら昔のこの地域の写真を飾っている場所みたい。

昔の写真を見て、達哉を思い出してしまう。

自分の頬を叩く。深呼吸をして笑顔を作る。

エアコンの効いた室内から出る為、自動ドアへ近づいて行く。

外に出たら、彼が近くで立っていた。


「ごめんね、時間かけちゃって。」


「いや、大丈夫だけどさ。」


嫌な空気が流れている。俺の経験から言って、これから起きることは良くない。

だから、俺は先手を打つことにした。


「なあ、夏海。今、お前の傍にいるのは誰か分かるか?

俺なんだよ。今のお前の彼女は俺なの。夏海が、困っている時に駆け付けられるのは俺なんだよ。」

恥かしい言葉を、静かな公園で俺は叫んだ。それが、俺の思いで叫びだった。


「夏海の一番は俺じゃ無いかも知れない。それでも良いんだ。いつか、一番になれれば。」


「少しずつで良いから、俺のこと好きになってくれないかな。」


「俺は、夏海が好きなんだ。」


付き合い始めて、二ヶ月が経つカップルの言葉じゃ無いかも知れない。

それはまるで、告白する時の言葉の様だった。

俺は、言いたいことは言った。



彼女が黙っているから、不審に思い下を見てた目線を彼女に向ける。

すると、彼女は泣いていた。

グスッと、鼻をすする音が現実だと認識させる。

「だ、大丈夫か?」


また返事が返ってこないのかと思いきや、彼女は途切れ途切れになりながらも返してくれた。

「佐伯君の気持ちに・・本気で答えられていない・・自分がいるのは、分かってたの。

自分の気持ちにケジメを付けなきゃって分かってるのに・・ごめんね・・佐伯君。」

彼女が真剣に悩んでくれたことに俺は嬉しかった。けど、聞きたいのはごめんと言う言葉じゃなかった。


誰かと付き合うのは初めてだった。ずっと達哉が好きだったから。

でも、告白は出来なかった。「好き」なんて言ったことが無い。

そんな、私に彼は好きだと言ってくれた。

彼と付き合い始めて、偶然朝に達哉と会った日があった。

その時に、私は達哉の中に目指す誰かがいるのが分かった。だから、私は自分の言葉で待つのは疲れたと言ったんじゃないか。

なのに関わらず、彼に中途半端な態度を取ってしまっていた。

別れ話をされても、文句は言えないと思う。

そう思っていた。

だから、外に出て無言になった時に覚悟をしていたんだ。

別れ話を切り出されることを。

こんな甲斐性ない女の私に、彼はもったない。

なのに。

佐伯君は、そんな私を好きだと言ってくれた。

思わず涙が出てしまう。彼の言葉に涙が止まらない。

「ごめんね・・。」


私の思い出が頭の中で過る。達哉と話したこと、小学生の頃にバレンタインのチョコを頑張って作ったこと、それが本命だと気付いて貰えなかったこと、陸上部に誘ったこと、放課後に一緒に帰ったこと。

思い出を振り返っていたら、私は気付いちゃったんだ。

達哉と、本気でぶつかったことが無い。喧嘩したのは幼稚園の時だけで、それ以降してないってことに。

(あ・・、私は達哉が好きだけど好きじゃなかったんだ)

何を言っているのか分からないかも知れない。

本心を伝えて拒絶されるのが怖い。だから、本気で好きになれていなかった。

初めての恋は、私の勘違いだったんだよ・・。

今の涙で、何もかも流れていく気がした。


目の前の彼は、本音でぶつかってくれた。

もう待たせる訳にはいかない。

それに、私自身の気持ちも決まった。

私を好きと言ってくれた、彼を本気で好きになると。

これは、決して義理なんかじゃない。


「私、陽平君が好き。これから、もっと好きになる。覚悟しといてね?」


だって、私が生まれて18年。「好き」って言ったのは初めてだから。


「ま、まじか!てか、俺の名前・・!」


「だって、彼女だもん。名前で呼んだ方が嬉しいかなって。」


達哉以外の男の子を初めて、下の名前で呼んだ。

これからは、何もかもが初めてだと思う。

いや、今までだって初めてのことばかりだ。デートも実は彼が初めてだったし。

初めては、何もかもが楽しくて、それを思い出した今、これからが楽しみで仕方が無かった。


短編みたいにしないように、時系列や物語の続きであるように意識して書きました。

それに、恋は色々なところで生まれては消えています。

同時に進展したりすることもある。そう思って書きました。


ブクマが増えて嬉しいです!ありがとうございます。

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