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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
3章 彼らの恋事情
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-恋- 彼女は絵を愛する

私は、恋をしない。


盛大に振られてから、もう何年が経っただろう。

好きな人を呼び出して、勇気を振り絞って

告白をした。初めての告白だったんだ。


私は、振られた。

覚悟はしていた。だって、あまり話したことは無かったし良くは思われてないと分かっていたから。

でも、その後の出来事は私の予想を超えていた。


「おーい、みんな!成宮が俺のこと好きらしいぜー。」

彼は、教室に戻り私の告白を馬鹿にするかのようにクラスのみんなに言いふらしたのだ。


私は、恋をしたくない。



絵を描き始めて、もう何年が経っただろう。

絵は好きだ。思いを形に残せるから。

言葉に出来ない思いを絵にする。私は、今までそうしてきた。

桐ヶ丘高校に入学して、芸術コースに入学した。けど、最近の私は何を書きたいのか分からなくなってきていた。

この前書いた絵は、廊下に飾って貰っていた。

どうやら、私の描く絵は評価されているみたい。だけど、自分では上手いのか分からない。


雨の日ぶつかって来た男の子は、私の絵を褒めてくれたけど他人の評価は興味ない。

特に、男子は極力関係を持ちたくない。彼の言っていることにどこか反発してしまっていた。

芸術コースにも男子はいるし、絵の上手い人もいる。

何故か分からないけど、執拗に話しかけてくる奴もいる。


恋はしないけど、友達は欲しい。


「雫ってさ、何で男子と話そうとしないの?」

中学でも、高校でもこの手の質問は聞かれた。

「怖いから。」

いつも、そう答える。無邪気な心が怖い。人を思いやれない心が怖い。

素っ気無く答えると、彼女はもう私に話しかけてこなかった。


成宮雫。それが、私の名前。いつも、絵のタイトルの横に書かれている名前。

絵を見てくれた人は、私の名前を見てどんな人なのかと想像するのだろうか。

想像した私とは、一体どんな人物なのだろう。

最近、私はそう考えることが多い。


私は、絵を通じて思いを告げている。

でも、本当は口に出して思いを伝えたいのだ。

あの日から、話すことも怖くなってしまっていた。


梅雨が明けて、暑い日のこと。

廊下で、一人の女の子が目の前の男の子に話しかけていた。

雰囲気で分かるものだ。あれは、告白だろう。

私は、初めての告白を思い出しそうになって直ぐにその場を立ち去ろうとした。

でも、どこか気になり男の子の顔を見た。

どこかで見覚えのある顔。

それは、雨の日にぶつかって来た顔と、私の絵に見入ってた顔と同じだった。

どこか複雑な気持ちに陥った。

一言二言話しただけの彼に、好意など抱いてはいないが彼がどう返事するのかは気になった。

彼女は振られて、落ち込むのだろうか。私みたいになってしまわないだろうか。


ふと自分で抱いたその考えに疑問を抱いてしまった。

(私みたいにって、なに・・?)


まるで、今の自分に不満があるみたいな。

放課後になって、いつも通りに絵を描き始めても考えがまとまらない。

今までの自分じゃないみたい。


「成宮さん、大丈夫?たまには、休んだ方が良いんじゃない?」

優しい声で、私に話しかけてくる男の子。いつも、執拗に話しかけてくるから最近は返事もしていない。

しかし、その日は悩んでいたこともありイライラしていた。

そのせいで、言う必要も無い言葉を言ってしまう。


「キミに、私の何が分かるのさ。いい加減、あまりしつこく話しかけないでくれる?」

話すのが下手な私は、余計なことを言ってしまう。デッサン室の雰囲気も悪くなるのを感じてしまう。

その場に居ちゃいけない気がした私は、走って出て行く。

ドアから出た瞬間に聞こえた言葉は、

「ごめん。」

その一言だった。


「でも、成宮さんは何も教えてくれないじゃないかっ!」

彼の悲痛な訴えは、彼女に届かなかった。



眠れなかった。眠れなくなる日は、いつも絵が描きたくて仕方が無い時だけ。

でも、今日は家に帰っても絵を描く気にもなれなかった。

昼間に頭に過った、今の自分に不満があるのではないかと言う悩みを再び思い出していた。

絵は、決して現実逃避の手段じゃない。

これだけは、ハッキリ言える。でも・・。

クラスの笑い者にされたあの時から、殻に閉じこもっているのは確かだと思う。

自分でも分かっているのに。時々、こうやって過ちを犯さなければ認めない。

そんな自分が嫌い。


彼が儚いと言った「存在」と言う絵は、私の心の中を表している。

上半分は、私の望む自分。下半分は、今の自分。

本当は変わりたくて、もがき苦しんでいる存在が私。

彼は、私の絵を見てどう思ったのだろうか。それを知る術はない。


でも、少しだけ自分の気持ちが変わっているのを感じる。

廊下で見た、女の子の勇気を出した言葉や顔が鮮明に思い出され、私の心を動かしていた。

(逃げてばかりじゃ、前には進めないんだ。)



何日か経った頃、私はいつも通り余裕を持って学校に向かっていた。

少しずつ、絵だけじゃなくて言葉で自分を表したいなと思いつつも中々実行に移せていなかった。

人間、そんな簡単には変われない。また、自分で逃げ道や言い訳を考えている。

学校に着き、自分の教室へと続く廊下を歩く。

T字路を左に行けば、私たち芸術コースの教室がある。

目の前の教室は、国際コース。

ふと、先日見かけた女の子が気になり、遠目から教室を覗く。

時間も早いので、教室の中には数人しかいない。その中に、彼女はいた。

名前も知らない彼女。

でも、分かることが一つだけある。彼女は、私よりも勇気があり負けない心があること。

だって、彼女は朝早くから教室で勉強をしていたのだから。


少しの間、彼女を見ていた。

もしかしたら、告白に成功して順風満帆な生活を過ごしているのかもと一瞬思った。

でも、彼女の後ろ姿は寂しかった。

見覚えのある後ろ姿は、かつての私を思い出させる。振られた私を。

(だめだったんだ・・)


何故か、私も一緒になって落ち込み始めた。

彼女を見続けたせいか、気付かれてしまった。

逃げようと思い、足を動かそうとするが動かない。まるで、彼女に話したいことがあるかのように。

すると、彼女が笑顔でこちらに歩いて来た。



「どうかしたの?私に何か用かな?」

笑顔でそう言ってくる。でも、元気が無いことは私には分かった。

「辛く、ないの?」

え・・?と彼女の消えそうな声が返って来る。告白の日から何日も経っている訳じゃない。

また、私は失敗したかなと思った。それでも、聞きたかった。

告白のせいで、私は逃げ出したから。

逃げ出さずに、頑張っている彼女に聞きたかった。


「キミは、強いんだね。」

彼女が、無言になってしまったから私が一人で呟く。聞こえたか分からない声で。


「強くなんて・・ないよ。今だって、泣きそうだもの。」

私は、彼女の言葉を静かに聞いていた。

「一年生の頃から好きだったんだよ?直ぐに気持ちを切り替えるなんて出来っこない・・。」


「でもね・・。落ち込んだままの私じゃ駄目なの。もし、彼に会った時に笑顔じゃない私は見せたくないの。それにね、もっと良い女になるって宣言しちゃったから!」

少し涙目で話していた彼女は、最後には笑顔でそう言い切った。

こんなにも強い人がいるなんて。

「そう・・。やっぱり、キミは強いよ。」


「あなたにも、辛いことがあったの?」

初めて話した彼女に、心配されてしまった。自分のことで精一杯だと思うのに。

それに気付いた私は、いつまでくよくよしている自分が恥ずかしくなる。


吹っ切れた。彼女の勇気と強さを見習いたい。私の本心だった。

「もう、昔のこと!」

そう答えた。彼女と初めて話した今から私は変わる。変わって見せる。

「変なこと聞いて、ごめんね。話してくれてありがとう。」


そう言って、私はその場から立ち去る。

一歩先へ進むために。


「ねえ、良かったら名前を教えてくれないかな?」


「成宮雫。芸術コースの・・絶賛友達募集中よ。」


「雫さんね、良い名前!私は、初瀬楓。これから、よろしくね!」


「こちらこそ。」


笑顔で別れる。顔がどこかにやけている気がする。

本音を言って、素直に答えてくれた。

(初瀬楓さん、キミと会えて、話せて良かった)



私は、恋はまだしない。

でも、恋をしたくない時は終わった。

まずは友達を作っていこう。私の本心を伝えられる友達を。

自分をさらけ出して行こう、絵にも人にも。


私は、絵が好きだ。

少しずつ、好きなものを増やして行こう。


(まずは、彼と話してみようかな)

しつこく話しかけてくれる彼だったら、私のことを理解してくれるかもしれない。

もう逃げない。だって、私の最初は勇気の告白から始まったのだから。



3章は、彼らの恋事情。

主要キャラ以外のキャラも入ります。

感想お待ちしています。

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