-恋- 人を好きになる瞬間
高校生とは、多感な時期であり誰もが一瞬は彼女や彼氏欲しいなと思ったことがあるだろう。
思ったことが無い人も勿論いるだろうが、スポーツに打ち込んでいる彼らにはある。
何故なら、苦しい時に彼女がいたらどれだけ支えになるだろうと妄想するからだ。
長くて短い恋の始まりと終わりを見て行こう。
モテたい男、彼もその一人。いや、典型的な彼女募集中男と言っても過言ではない。
スポーツ科でスポーツ推薦で入学して来たものの、彼女が出来ることなく引退した直井だ。
とは言え、殆どがバスケ優先で彼女持ちはいないのだが、特に彼は一途に一人の女の子を好きで居続けた。
女バスのエース、山下星香だ。
中学時代から、彼女の名前は聞いたことがあった。
だから、同じ高校に入学したってことが分かった時は驚いた。
名前だけで顔や姿を知らなかった俺は、体育館で初めて話して顔を見た時に一目惚れをした。
俺は、馬鹿で単純だ。皆がそう思ってるし、俺もそう思ってる。
だから、あの時もコロッと恋に落ちたんだと思う。
「直井君だよね?」
不意に声をかけられ、俺は後ろを振り返る。声の正体に気付いた俺は驚く。
それが、さっきからチラチラと目で追っていた女の子だったからだ。
「えっと、どちらさまで?」
俺は、彼女が誰かまだ分かっていなかった。
「あ、私、山下星香。ポジションは、PG。よろしくね。」
名前を聞いて、顔にはっきり出るほど驚いた。名前と顔が一致し、顔が赤くなるのを感じた。
「どうも、よろしく・・。ポジションはSG。」
「で、何か用なの?」
(俺は、せっかく話しかけて来てくれてるのに・・何でこうぶっきらぼうに返してんだ)
「実は、直井君のこと中学の頃から知ってるんだよね。試合で見かけてね。だから、挨拶しとこうかなって!」
「ありがとう?俺も、山下のこと知ってたよ。中学じゃ有名人だしな。」
「そんな、有名人なんかじゃないよー。」
あまり覚えていないけど、中学の頃とかの話をした気がする。
俺は、目の前で話していたのに夢でも見ている気分だった。
「じゃあ、今度スリーポイントシュートのコツとか教えてね!」
「任せとけ!」
やっと俺らしい話し方に戻って来たころには、会話が終わってしまっていた。
中学からSGとして、ロングシュートばかり練習していたからスリーポイントには自信がある。
だから、彼女と話すキッカケの一つになると分かって嬉しかった。
この短い十分にも満たない会話で、俺は山下を好きになってしまった。
決め手は、彼女の可愛さは勿論の事だが、時々見せた笑顔で落ちた。
(あんな笑顔見せられたら、誰でも逃げられないだろ・・)
思い出しながら、にやけるのを必死にこらえつつ体育館を後にした。
彼がこの後思ったことは、二つある。
一つは、高校バスケが楽しくなりそうだということ。
もう一つは、彼女の笑顔を見るために俺はボケて笑いを取るということ。
そして、引退するときまで彼はこれを続けた。
その結果、あの日に思ったことは確かに叶った。楽しかったし、笑顔は沢山見れたと思う。
唯、直井慎也は山下星香にとって面白いバスケ仲間、友人としてしか見られることは無かった。
恋をしてなければ、彼だって満足だろう。
いつからだろうか、彼女の笑顔に物足りなさを感じたのは。
笑顔にも種類がある。
俺が求めた笑顔は別の物だったことに気付いた時には、遅かった。
単純な俺でも分かる。誰が誰を見ているのかってことを。
後悔。
俺は、後悔をしているのだろうか。いや、していない。
だって、俺はあの日。大会の四日前だ。
一之瀬と山下と一緒に帰ろうとして、山下と一緒に帰ったあの日。
俺は、自分の思いを告げたのだから。
彼女にとって、俺が恋愛対象になっていないことは分かっていた。
俺だって、一目惚れから始まった恋だ。良く分かってない。
でも、止まれなかった。下手くそな告白に山下も困っただろう。
人を好きになるってのは厄介だ。振られたからと言って、直ぐに好きじゃ無くなるわけじゃない。
それに、今ではあいつらの仲が良いのには腹が立つ。聖人君子じゃあ無いからな。
俺は、恋に破れたんだ。はっきり分かった。
だから、後悔はしていない。
(悔しいけどな)
俺は、単純だから。今回も、一目惚れから始まった恋だ。
これからも、直ぐに人を好きになる時が来ると思う。
でも、山下を好きになった瞬間のことは忘れないだろう。
前回は、今井奈美の話でした。
今回は、直井慎也の話でしたが如何でしたでしょうか。短いですが、彼の気持ちも現実に溢れていると私は思います。
次は、またサブキャラクターの話になります。