表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実的な恋模様  作者: 宮日まち
3章 彼らの恋事情
39/48

-想い- そして彼女も動き出す

その日は色々考えたせいか、いつの間にか眠っていた。人との関わりについて僕は改めて考えさせられた。

そうして気付けば朝。初瀬さんとは毎日会う訳じゃないけど、どんな顔で会えば良いのだろうか。

少し悩んだ末、僕は相手の顔を見て判断することにした。


そしてもう一人、その日の朝はあっと言う間に訪れた人物がいた。

自分の気持ちに対して、一之瀬や彼女自身が頑張らなきゃ気付かないと思われていたが、初瀬の行動により気付くことが出来た山下だ。

(どうしたら良いのかな)

自分の気持ちに気付いて、だけど何をすれば良いのか分からない。

この想いが確信に変わって、相手も同じ気持ちだと思えなきゃ告白なんて出来こっない。

バスケと違って、恋愛に関しては初心者な彼女は途方に暮れていた。

(具体的に何をすれば良いのかな・・)

色々考えていると、やっぱり告白と言う二文字が頭に浮かんでくる。

直ぐに、その言葉を頭から消し去ろうとする。でも、一度考えちゃうと中々消えない。

(そもそも、一之瀬君がどう思っているか分からないし・・)

だからと言って、このままじゃいられない。私の性格的に、うじうじしてられないし。

それに、卒業までそう長くは無いから。

夏休みは、一緒にお祭りにだって行ってみたいし。

私らしくないことを考えている自分がいて、恥ずかしくなる。

私らしい、ってのも良く分からない。なんだか、頭が混乱してきたかも。

(どうしちゃったんだろ)

いつまでも、ベッドの上で考えても仕方が無いので、私は行動に移すことにした。

まずは、一緒に登校したい。彼が、いつ登校してくるか分からないから早めに出て、駅で待ち伏せしてみよう考えた。

クラスが違うし、少しでも会える時間を作りたい。

「そうすると、自転車じゃ怪しまれちゃうよね。」

そう独り言を言い、今日は電車で行くことにした。

逆に、電車で行くことが怪しまれる原因になることに彼女は気付いていない。


どこか自分の気持ちを知って欲しい様な、気恥ずかしい様な気持ちが入り混じっている。


雨の日以外は、自転車で通学しているから電車に乗るのは一ヶ月ぶりくらい・・かな。

そうして、私は学校に行く準備を済ませ、家を出る。

駅までは、十五分程。駐輪場を借りている訳じゃないから、歩き。

段々、暑くなって来たから少し歩くだけでも汗が出ちゃう。

スポーツでかく汗と暑いから出る汗は、全くの別物で夏の汗は好きじゃない。


梅雨も明け、雨の降っていない電車の中はまだ良い方だ。

だって、雨が降っているとじめじめするし、満員電車だと見知らぬ人と密着している状況が辛い。

そんな嫌なことを考えてたら、ふと一之瀬君と一緒だったらどうだろうなんて考えたり。

顔が赤くなってるかも。そんな時に限って、前に座っている男の人と目が合ってしまう。

(もしかしたら、変なこと考えてるって思われてるかも・・)

確かに、他の人から見れば変なことを考えてることは間違いないと、一旦冷静になる。

学校の最寄り駅まで、三駅だからあっという間に着いてしまった。

さて、どうしようか。

何分待てば、彼はやってくるのだろうか。

どうやって話しかけようか。待ってる間に考えられたらいいけど。


五分経ったか経ってないかくらいで、彼の姿が視界に入って来た。

人並みに混ざりながらも、彼の顔は直ぐに分かった。改札から出て来る。

私が乗ってた電車の次だったみたい。

(どうしよう・・、何も思い付いてない)

彼の早い登場は、嬉しい様な嬉しく無い様な複雑な気持ち。

私が、彼をじっと見つめ続けていると彼がこちらに気付いた様だ。

目と目が合う。一之瀬君は、一瞬驚いた顔をしたが直ぐに笑顔に変え、右手を挙げながら近づいてくる。

何気ないその仕草に、私は胸の高鳴りが大きくなっているのを感じる。

昨日まで、自分の気持ちに気付いてなかったのが嘘のようだ。


「あれ、山下さんだ。おはよう。」

「おはよう、一之瀬君。奇遇だねー。」

一言余計だったかもしれない。

「どうかしたの?電車なの珍しいよね、誰かと待ち合わせ?」

さて、早速問題が来てしまった。どうしようかな。

「たまには、電車も良いかなって。それに・・、もしかしたら一之瀬君と会えるかと思って!」

素直に思っていたことを告げた。だって、それが彼にとっての私の姿だと思うから。

乙女心に目覚めたからと言って、直ぐには変われる訳じゃない。

「そうなんだ。じゃあ、今日は良い日かも。あ、遅れないように歩きながら話そうか?」

あれ。案外、さっぱりしてるんだな一之瀬くんってー・・。

お昼を一緒に食べた時より、大分大人っぽく見える。一之瀬君は変わったのかな。

駅の階段を下り始めた時に、一之瀬君の横顔をチラッと見てみると

顔が赤くなっていた。

「な、何ジロジロ見てんのさ。」

「べーつに。」

なんだか分からないけど、嬉しい。そんな気持ちが込み上げてきた。


前よりも、お互い話が続くようになった。

バスケ部で初めて見かけて、そこから一緒に登校することになるなんて思いもしなかった。

「なんか不思議だな。」

「え?」

「いや、山下さんと一緒に登校してるのが不思議だなって。」

「そうかもね、バスケ部に入って無かったら私と知り合うことなんて無かったと思うよ?」

「それは実にラッキーだったかも。」

やっぱり、一之瀬君らしくない。でも、大人っぽい一之瀬君も良いかも・・。

「どーした、山下さん。顔が赤いぞ?」

「べ、別になんでも。」

顔に出ちゃってた。


山下さん。そう何度呼ばれただろう。いつも呼ばれている呼び方。

それが、寂しい。なんて思う時が来るなんて。

「あのさ。さん付けしなくて良いよ?」

「急にどうしたの?」

「いや、だって・・、もう長い付き合いなのにさん付けは仲良くないみたいに感じて。」

何を私は言っているのだろうか。


「ん、俺は問題ないよ。山下。」

山下。呼び名が変わっただけ。ただそれだけ。でも、嬉しい。

「ありがとう、一之瀬君。」

「あ、俺はそのままで良いかなー。君付けって何か好きなんだよね。」

「そ、そう。」

「あ、ちょっと引いたでしょ。」

「そんなことはー、あったりなかったり。」

そんな楽しい時間は直ぐに過ぎちゃって、学校に着いてしまった。


「朝の登校が楽しかった、ありがとな山下。」

「私も。勉強も頑張れそう。」

「じゃあ、またな。」

また、またっていつ?放課後?それとも明日?先の見えない現実は嫌。

「あ、明日も一緒に登校しちゃ駄目かな?」

「別に良いけど、大丈夫?」

電車代のことを気にしてくれてるのかな。


「全然、問題ないよ!」

「そうか、じゃあ後でメールするよ。」

「うん!待ってる。じゃあ、またね!」

「おう。」



今日の山下さんは、あっ、山下はいつもと違う雰囲気を感じた。

どこが違うかと言われると詳しくは分からないけど。

昨日、初瀬さんに告白されて断ったけれど、家では自分のことを好きになってくれる人がいたことに

少なからず舞い上がっていた。

残りの高校生活を楽しむ上で、僕は彼女と言う存在が欲しいなとそう思った。

男子高校生として、普通の結論に今まで至らなかったが、昨日の告白を受けて

自分の中で、誰に対して好意を抱いているのか分かったから。

だから、今日は少し頑張ってみた。前に進まなきゃ関係は変わらない。

(でも、一緒に登校するってのはこっちから言うべきだったな・・)

山下に言わせてしまって、男らしくなかったなと反省。

授業を受けながら、朝の出来事を振り返りつつ僕は一つのことを思い付く。


二度目のデートに誘ってみようか。

一度目は、GW明けだったからもう二ヶ月以上前だ。でも、ついこの前のような感じがする。

それだけ、彼女との距離は縮まっているようで縮まっていないのかも。

それに、あの時も彼女から誘ってくれた。

今度は、男の僕、いや俺からするべきだ。心の中での一人称も変えて行こう。

彼女に見合う男になりたい。そう思い、直ぐにメールを打つ。

教師の目がこちらを見ていることには気付きもしなかった。


「昼休み、話があるんだけど時間あるかな?大丈夫だったら、教室前の廊下で待ってる。」


短い文だけど、彼女とはそれほどメールをして来なかった。と言うよりも、誰に対してもあまりメールをしない。実際に話して伝えないと、どこか落ち着かないのだ。

十分くらい経った後で、携帯が振動し返事が来た。

「大丈夫だよ。じゃあ、十二時三十五分くらいに教室を出るね。」

昼休みは十二時十分からで、昼飯の時間を取ってから会うことになった。



「なあ、陽平。女の子をデートに誘う時って、何て言えば良いんだ?」

「なんだよ、急に。あ、やっと達哉も彼女作る気になったか。あの子かー?前に教室に乗り込んできた子だろ。」

昼飯は大体、陽平と食べることが多く、これから行うことについてある意味先輩である陽平に尋ねてみた。

「まぁ、誰でも良いだろ。なんか気の利いた誘い方とかない訳?」

「否定はしない・・と。そうだな、俺だったらさり気無く土日の予定を聞いてから誘うけど。

でも、達哉だったら深くは考えずに誘った方が良いんじゃないか?」

「なんで?」

「だって、言い方悪いかもだけどデートとかあまりしたことないだろ?変に気取る必要ないんじゃないかな。」

デートはあまりしたことないけど何故陽平にそれが分かるのだろうか。と思ったけど、確かにその通りかも知れない。

「そうだな、陽平の言うとおりにしてみるわ。」

「上手く行くと良いな。彼女がいると高校生活が二割、いや五割増しに感じるぞ。」

陽平は、時々意味の分からないことを言っていたけど、それが分かるようになる時が来る気がした。

「夏海と付き合い始めて、もう二ヶ月?」

「そうそう、早いもんだよな。いやー、どんどん彼女にハマっている気がするわ。」

「そ、そっか。」

自分から話しを振っておいて、陽平から返ってきた言葉にあまり気分が乗らなかった。

夏海とは幼馴染だけあって、友達以上の関わりがあったからか彼氏と言う存在は、自分のことのように嬉しく感じると同時に、遠くに行ってしまうんだという寂しさも感じる。

バスケに没頭していたから、頭の隅に追いやっていれたが今となっては、改めて実感している。

だからと言って、俺にはどうしようもないし友達以上の関係になりたい訳でもない。

唯の俺の不満、我が儘だ。



「最初の頃はさ、お前の話ばかりするから困ったぜ。」

「俺の話?」

「そう。お前が陸上部だった時の話とかさ。彼氏の俺が言うのもなんだけど・・夏海ちゃんは。」

・・・

「やっぱ、何でもない。なんか、負けを認めてる気がするし。」

「なんなんだよ。」

「とりあえず、お前は頑張って彼女作れってことだよ!」

「あ、ああ。まあ、夏休みまでには勝負を仕掛けるよ。」

「結果に期待してる。」


話ながら食べていたら、約束の時間まで後五分も無かった。

「やべえ、俺用事があるんだよ。また今度話す。」

「あいよ、いってら。」


席を立ち、廊下に出て、山下の教室の前まで行く。

時刻は、十二時三十四分。一二三四と数字が並んだ時に、僕はたまたま時計を見ることがある。

何か、良いことやはたまた悪いことが起きるんじゃないかと考えてみたりするが、直ぐに忘れてしまう。

廊下から、教室を覗こうとしたらドアの透明ガラスに彼女の顔が見えた。

ニコッと彼女は笑い、思わず俺も笑顔になる。

女性の笑顔ってのは凶器だ。

「ごめん、待った?」

「今来たところだよ。で、話なんだけど・・。」

少し迷ったけど、陽平を信じてそのまま伝えることにした。

「今週の土日のどっちかに、遊びに行かない?」

唐突に、そう告げた。何の脈絡も無く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ