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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
3章 彼らの恋事情
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-想い- 気付いたその心のままに

朝から色々あったせいで、1限目から授業に集中出来ていなかった。

(だめだ、引退したんだから授業はしっかり受けないと・・)

そう思っても、先ほどのやり取りを思い出してしまう。

すると、制服のポケットに入っていた携帯が振動する。普段、学校ではあまり携帯を使わない彼は授業中も携帯をいじることは滅多に無い。

(もしかしたら、初瀬さんかな・・)

別れ際に、メールすると言っていた初瀬さんの言葉を思い出す。

机の下に携帯を隠し、画面を見ると案の定初瀬さんからのメールだった。

彼女も、授業中にメールすることはしないだろうし事の重大さを感じる。

メールを開く。


「授業中にごめんなさい。でも、早く言っておきたくて。

さっきの言葉は、突然で驚いたと思う。でも、もう抑えておくのが辛くて思わず言ってしまいました。

今日の放課後、ゆっくり話したいです。」

そう、端的に書かれていた。バスケ一筋で疎い僕でも、さっきのは流石に分かる。

下にスクロールすると、まだ続きがあった。

「P.S.

授業中に携帯見たらダメだよ?しっかり勉強頑張ってね。」

(お互い様じゃないか)

「おい、一之瀬。この問題解けるか?」

いきなり教師に名前を呼ばれ、心臓が一瞬止まったかと錯覚する。

「いえ、全く分かりません・・。」

「しっかり聞いてろよー、ついて来れなくなるぞ。」

「はい、気をつけます。」

進学校であり、理系コースに所属している。レベルは高いし、ついて行けないのが現状だ。

色々と問題は山積みだと察し、一之瀬はため息をつく。

(恋ってなんだろうな)

今まで、人を好きになったことは無いと思う。尊敬や親しみと言う感情はあったけれど。

ただ、高校に入ってから周囲の環境は大きく変わって来たのは、僕も感じていた。

幼馴染の夏海と友達の陽平が付き合い始めた事。相澤に彼女がいること。直井や遠藤が彼女を求めていること。

中学では、陸上にひたすら打ち込んでいたが、夏海やその他の女の子と特別仲良くはならなかった。

でも、バスケ部でそう言った話が出ると僕も少なからず意識するようになってきた。


二年の夏合宿の時のこと。

バスケ部の合宿は、遠征が多いがその年の夏は校内合宿をしていた。

校内と言うことで、日ごろ慣れた体育館での練習が別物に感じる様な連日の辛さだったが、寝る時はどこかリラックスしていた。その日も馬鹿みたいな会話を繰り広げ、いつの間にか淡い恋バナへと変わっていた。

「で、誰かいない訳。」

「何がよ?」

「そんなん、彼女に決まってんだろ!永田!」

「いや、知らんけども。まぁ、こんだけいるんだ誰かいるだろ?」

こんだけ居ると言っても、その部屋はいつものメンバーしかいなかった。

流石に男バスの連中が一部屋で収まる訳が無い。

遠藤と永田の問いかけに、一同は静まり返る。

「え・・、誰もいないの・・、それはそれで寂しすぎんでしょー。」

「そう言う慎也だって・・いないか。」

「ちょーい、待て待て。何その諦めたような顔は!」

「いないだろ?」

「い、いない。」

「てかさ、一之瀬はどーなの。」

「え?」

後ろで、直井が呆気なく自分のことは終わってしまい騒いでいる。

「山下とはどーなのって聞いてるの。」

何故か、永田までもがこの話題にノリノリだ。そして、ピンポイントで聞いてくるから困る。

「どうもしないけど。あまり話さないし。」

「嘘つけー、お前がいつも山下のこと見てるの皆知ってんだからな?」

周りの奴らも、肯定なのか頷きだす。

「いやいやいや。そんなことないから。相澤主将、永田に言ってやってくれよ!」

一人、我関せずと本を読んでいた相澤に助けを求める。

(しかし、そんなに露骨に見てたつもりは無いんだけど)

「そうだな、時には男らしく行動した方が良い結果が出るかもしれないな。」

「俺は、そんな気持ちで見てる訳じゃ・・無いと思うんだが。」

「一之瀬や、自分に素直になれや。男は、下半身で生きているんだぞ?」

流石の皆も、この直井の一言には場が凍った。

「あれ、どーしたのみんな。」

「直井、お前にはちょっと厳しいかもな。」

「えー・・。じゃあ、主将は居る訳?」

「ああ、この前出来たばかりだ。」

予想外の答えに、またしても場が凍る。あまり興味の無い僕でも驚いていた。

「まじ!!?何で言わないんだよ?」

「直接聞かれなきゃ言わないだろ。それに、お前が悔しがりそうだったからな。」

「そりゃ悔しいだろ・・俺だって副主将なのに・・。」

恋愛に役職は、関係して無いんじゃないかと思ったけど言わないでおいた。

「まぁ、お前らも頑張れよ。」

その言葉で、その日は締めくくられた。


あの時の会話を思い出していた。でも、当の相澤はその後も彼女が出来たからと言って特別変化は無かったので、僕も恋愛はそんなもんなのかなと思い込んでいた。三年になるまでは。

三年になって、山下さんと初めて二人で遊びに行った時に僕の気持ちに変化が起きていた。

二人で遊ぶことで、普段見ない彼女の素顔を見て、素直に良いなとそう感じた。

健全な高校生が、可愛い女の子とデートしたらその気になるなんてことは当たり前だろうが、一之瀬にもその当たり前がどうやら通じたようだ。


その日は、ずっと考えていた。

初瀬さんから思いを告げられたこと。彼女は自分にとってどういう存在なのかを。

考えても分からないことはある、唯一つ分かっていることは、考えながらもどこかに必ず山下さんのことを考える自分がいるということ。

生まれて初めて、自分に対して好意を示してくれた人がいたことで、僕は自分の気持ちがどういった物なのかを理解した。

初瀬さんにも、山下さんにも友達としての好意は存在する。

でも、初瀬さんに関しては友達以上の気持ちは沸いてこなかった。

あくまで、僕と彼女はこれまで通り友達でいたいなと、そう答えが決まった時には放課後になっていた。


「なあ、達哉。今日、どっか寄って行かないか?暇でさー。」

「悪い、陽平。俺、予定があってさ。」

「そっかー、残念。じゃあ、また今度な。」

「うん、今度は俺から誘うよ!」

陽平には悪いけど、これは大事な問題だ。僕にとっても彼女にとっても。

教室を出て、二つ隣の国際コースの教室へ顔を出す。

初瀬さんと目が合い、合図し廊下で待つ。

「お待たせ。ごめんね、忙しくなかった?」

「大丈夫、それに大事なことだしね。」

「ありがとう。どこで話そう・・帰りながらとかかな?」

「初瀬さんは、それで良いの?」

「なんだか、面と向かってだと上手く話せない気がして。」

「そっか、それならゆっくり帰りながら話そうか。」


二人で、下駄箱へ行き、正門を出る。正門から歩いて五分程経った頃だろうか。

自転車のカラカラと言う音が妙に鮮明に聞こえていた。そして、静けさが終わる。


「私ね、一年生の頃からずっと好きだったの。多分、一緒にクレープ食べに行った時から。ううん、もしかしたら初めて話した時からかも。一之瀬くんは忘れてたけど、高校に入って初めて話したのは一之瀬くんだったから。」

「どっちも覚えてる。初瀬さんが思い出させてくれたから。感謝してる。」

一年の頃、掃除当番が一緒になった時に話したけど、その前に部室棟を案内してくれた。

「一之瀬くんは、私のことどう思ってるのかな・・。」


僕は、必死に考えた言葉を言おうとしたが、少し迷っていた。

この先のこともしっかり考えていた。もし、僕が初瀬さんと付き合ったらと言う仮定。

初瀬さんは、短期留学に行っちゃうけどお互いを応援し合えると思う。

今なら、ビデオ通話だって何時でもどこでも出来る。ケンブリッジの街並みやあっちの生活に対して楽しく話している姿も想像できた。夏休みが終わったら、進路を決めてもしかしたら一緒の大学を目指すことになるかも知れない。

今までスポーツしかしたことない僕にとっては、経験したことのない日々が送れるかもしれない。

彼女のことは好きだ。友達として、女性としても好きだと思う。

優しく、いつも応援してくれていた。

男だったら、断ると言う行動が間違いだと誰もが思う相手だ。男子から絶大な人気がある彼女だから。

初瀬楓と言う女性は、理想的な彼女だと思う。誰もが考える理想。

でも、僕は彼女の気持ちに応えることは出来ない。


「ごめんなさい。俺は、初瀬さんとは今まで通りお互いを応援し合える友達でいたいんだ。だから、付き合うことは出来ません。」

この答えが僕のそのままの気持ち。信頼できる友達でいたい。それが僕が望む現実。


恋愛漫画を僕は時々読む。幼馴染の夏海が好きだったから良く貸してくれていた。

少年漫画の恋愛漫画の定番なのか知らないが、好きな人物がいてその人と同じくらい好きな人物が現れて告白されたら付き合うと言った良くある話だ。結局、その恋は長く続かず彼女を傷つける。

好きであっても中途半端で終わることは、僕はしたくない。

それは、まだ僕が大人になれていないからなのかも知れない。恋愛とは、止めようと思っても止まらないのかも知れない。だから、僕は恋愛漫画の主人公を否定するつもりも無いし短く傷つく恋も本当の恋なんだと思う。


僕は、悔いの残らないようしっかり考え、ハッキリとそう答えた。

結局、彼女を傷つけることには変わりないのだと、その時気付いた。

「そっか・・、そうだよね。ごめんね。なんか私だけ突然・・、変なこと言ってごめんね。」

隣を歩く彼女は、今にも泣きそうで崩れそうな声でそう答えた。

「初瀬さん、聞いてくれるかな。」

彼女の気持ちに応えることは出来ない。だけど、しっかり君とのことを考えたことを伝える。

これは、言い訳かもしれない。自分を美化する綺麗ごとかも知れない。

でも、嘘じゃない。

「分かった・・。ありがとね、真剣に考えてくれて。」

その先、僕は何も答えれなかった。


何分も経ってないだろう。駅にあまり近づいていないのがその証拠だ。でも、何十分も歩いている感覚になる。最後に余計なことを、僕は言った。

「初瀬さんは、俺たち男が皆初瀬さんのことを気になっちゃうくらい素敵な人だと思う。」

「・・・。」

「だから・・。俺なんか目じゃないくらい、素敵な人に出会えると思う。」

「それは、励ましてくれてるのかな?」

「あ、ごめん。今言うべきじゃ無かったよね・・。」

「よし!」

両手をグーにして、気合いを入れるようなポーズをする。

「じゃあ、一之瀬くんが私を振ったことを後悔するくらい良い女になるから・・!卒業して、同窓会があった時にはもう遅いからね?」

「うん。」

僕は、それ以上何も言わなかった。

「ごめん、一之瀬くん。ちょっと、先帰るね・・。」

「ああ、気をつけて帰ってね。」

「うん。今日はありがとね!じゃあね。」


お礼を言うのは僕の方だ。初瀬さんが勇気を出して気持ちを伝えてくれたから、僕は考える機会を得られたし自分の気持ちを理解することが出来たんだ。



涙が止まらない。前が霞む。

一之瀬くんが見えなくなった辺りで、私は自転車を降りて立ち止まる。

彼が私の告白を受けてくれるとは思っていなかった。

だって、彼にはいつも誰かがいたから。私は、バスケ部じゃなかったけど時々体育館を見に行ったりしていた。その時に、彼の視線の先にはいつも同じ女の子がいた。

私の告白が遅かったから?バスケ部じゃなかったから?クラスが違ったから?

自分に問い詰めても、どんどん苦しくなってくるだけだった。

私に対して、言い寄って来る男子は確かにいた。でも、そんな人たちはいつも中身じゃなくて外見しか見て来ない。だから、一之瀬くんが咄嗟に助けてくれた時は嬉しかった。

その時のクレープの味は今でも覚えている。

(一之瀬くんの、ばか・・)


そうして、彼女の初めての恋は結ばれることは無かった。だが、その灯は消えない。

淡い思いや、悔しさが次の自分の将来の夢への糧となる。

恋は一文字では表せない難しさがあると思います。


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