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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
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-大会- 幕引き、そして引退へ

体育館に歓声が舞い上がる。

その試合を決定付けるワンプレーだった。

僕はバスケを始めて最初で最後の最高のプレーが出来たと感じていた。

「おいおい、俺が外したシュートがめちゃくちゃ恥ずかしいじゃねえか!」

直井に肩パンされるが、その顔は笑顔で本心は讃えてくれている。

他の部員も、やりやがったなみたいな顔をしていた。


私は呆気に取られていた。今のプレーは、私の本気かそれ以上のテクニックだと直感が言っている。

「星香!一之瀬って何でレギュラーじゃないんだろうね?今の動きは横田以上でしょ!」

私もそう思う。同時に彼にもっと早く復帰を促すべきだったと後悔する。

(ま、まあサボってた一之瀬君が悪いんだけど!)

「星香ー、聞いてる?てか、見てた?」

「見てた見てた!一之瀬君、かっこよかった!」

「私は、別にかっこよかったかは聞いてないよ?」

「え。」

顔が赤くなるのを感じる。あまり顔に出ることは無いのだけれどどうしたんだろう。

「星香もさ、本気になった方が良いかもね。」

「え?いつも本気でプレーしてるよ?」

奈美が当たり前のことを言っていて、首をかしげる。

「んー。この前電話したんでしょ?」

「したよー。」

「どうだった?」

「どうだったって・・、リラックス出来たかな?」

「そう。」

奈美は満足した様で、それ以上は聞いてこなかった。私はまたしても首をかしげる。

いや、気付いてるのに気付かないフリをしているだけなのかも知れない。


試合はまだ5分残っている。

相手からの攻撃が始まる。僕は急いでディフェンスへと切り替え走り始める。

しかし。

審判の笛の音が鳴る。

「桐ヶ丘高校、メンバーチェンジです。」

僕は、予想していたことだから感情を表に出すことは無かった。

だが、その感情は誰にも言い表せないほど悔しさで一杯だった。

「横田、行って来い。」

飯田コーチと目が合い、そう切り出した。

「コーチ、この勢いのままこの試合を乗り切る方が良いのではないでしょうか。」

「横田あ?お前は、負けたままで良いのか?言っておくが、今出て挽回しなきゃ次から出番は無いぞ。」

横田の顔が一瞬で、情けや同情が無くなり挑戦者への顔になったのを僕は見逃さなかった。

そして、横田が上着を脱ぎコートに入って来る。

僕は、コーチの指示に従うしかなかった。急ぎ足で、コートから出る。

会場から、戸惑いの声が上がる。

「なんで、あいつが交代しなきゃいけないんだ?」

そんな声が。僕にとっては、嬉しく、そして悲しくて涙が出そうだった。

「一之瀬。交代させられる理由は分かっているか?」

「俺が、無断で部活をサボっていたからです。」

はぁ。とコーチがため息をつく。横に座れと僕に言って来た。

座ると同時に、試合が再開される。

「確かに、サボっていたことに関しては当時は許していなかった。けどお前が、復帰してから人一倍努力してきたのは知っている。」

僕は、コーチの言葉を黙って聞いていた。

コーチの視線が、僕の足へと向けられる。

「落ち着いて自分の足を見てみろ。」

僕は、ゆっくりと足に視線を向けた。

「あれ。」

僕の足が震えていた。(いつからだ)

「一之瀬、立ってみろ。」

その言葉と共に、立ち上がろうとする。

「あれ。」

気付かぬうちに、僕は同じ言葉を二度発していた。

足に力が入らず、全く動けなかった。

「交代した理由が分かったか?お前は、自分の出せる力以上を出したってことだ。」

「はい・・。」

僕は、そのまま立ち上がることが出来ずに試合は終わった。

「一之瀬、さっきのプレーは良かったぞ。」

そう言って、皆を集合させる。僕は、座ったままだった。

全力を出して挑んだプレーは、自分の全力以上を求めた。その結果が今に至る。

だが、そのお蔭で後悔は無かった。


そして、僕は引退するまで試合に出ることは無かった。

彼らは、勝ち進み県大会へ進出し、決勝リーグ手前まで進んだ。

だが、そこに僕は立っていなかった。

あの日、最後のプレーが僕にとっての引退試合となったのだ。

贅沢を言えば、メンバーとして最後まで戦いたかったが

気持ちは晴れ晴れとし、満足していた。



彼の三年間のバスケ生活は終わりを告げた。

だけど、高校生活はまだ終わっていない。

彼と彼女の物語は、この先が始まりかも知れない。いや、終わりに向かっているのかも知れない。

現実の恋が、実るのに有する時間も枯れるまでの時間も人それぞれなのだから。

そして、恋とは出逢ってから長いから始まる訳でもない。

突然の出逢いが、恋へと発展することもある。


だが、恋とは別の部活と言う高校生活における青春の一ページはここで終焉を迎える。

しかしそれらは、彼らにとって今後の人生における糧となるだろう。


これにて、2章完結です。

ですが、物語の時間は飛ばずに続きます。

次回からの3章に、ご期待ください。

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