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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
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-大会- 二十四秒の死闘

飯田コーチが交代のタイミングを見計らっていた。

これが僕にとって、最後のプレーになるだろう。そんな気がする。


僕が動き出す3分前。

女バスの人達が、体育館に入り二階へと上がって行っていた。

「あれ、一之瀬が試合出てるじゃん!」

えっ。そんな奈美の一言に答える声よりも視線をコートに移す事を優先した。

「本当だ・・!」

いつからなんだろう。私は、もう少し早く来れたらと落ち込む。

でもそんな考えは、彼が動き出したら払拭されていた。


相手チームは、横田にした様に僕に対して二人でマークに付いていた。

当然、動きは制限され無理にマークを振り切ろうとすればファウルになってしまう。

他の四人は、先ほどのプレーで動きは良くなっている。多分、このままでも試合は負ける事は無いだろう。

でも、僕は悪魔か天使か分からないが心の中で囁く声が聞こえた気がした。

目の前に立ちはだかる二人を、ドリブルで抜けと。

僕は賭けに出た。今コート上にいる誰よりも体力が余っている筈。


一度直井にパスをした。テンポの悪いパスは、直井のリズムを崩しシュートは外れてしまった。

しかし、相澤はリバウンドボールをしっかり取ってくれた。普通なら、ここで、永田や直井にパスをし、シュートをもう一度狙う場面だ。だが。

「相澤、パスをくれ!」

僕はそう叫んだ。

誰もが、僕の意味不明な行動に戸惑ったと思う。でも、相澤は僕を信じてパスをくれた。


「どうしたんだろうね、一之瀬。」

・・・

「勘なんだけど・・、一之瀬君は自分で点を決めるつもりじゃないかな。」

分からないけど、私はそんな気がした。

「ええ!この場面で?二人マークついてるんだよ!?」

奈美の驚きも当然だと思う。一之瀬君が失敗すれば、恐らく相手に点数を取られて交代させられる。

でも、私は一之瀬君がシュートを決める瞬間を見たかった。


「一之瀬、無理はするな。」

そう、相澤は口パクをし僕は頷く。

オフェンスとディフェンスのファウルの差はシビアである。

ディフェンスは、オフェンスに対し体では無く手だけで道を塞げばファウルになってしまう。

逆に、オフェンスに対してディフェンスはわざと転んだりする。

これは、スポーツであり勝負。つまり駆け引きなのだ。

目の前にいる二人は、パスを警戒し少し離れ気味だ。

二人でマークするダブルチームは、片方が少し下がるのが基本。

どうやら、僕に対して警戒をしていないようだ。

僕の読み通りに事が運んでいる。さっきの無理なパスは、布石だ。

相澤からのパスを、ジャンプし二歩で受け取ったのでもう歩くことは出来ない。

バスケは、ボールを持ちながら三歩歩いてしまうとファウルになる。

だが、歩かずドリブルから始めれば歩くことは出来る。

ドリブルを始める前にピボットと呼ばれる、片足を軸足にし動かさず、二歩目の反対の足を使って体の向きを変える。

パスコースを警戒し、僕の動きに合わせてマークも動いてくる。

恐らく、彼らにはパスをする動きに見えているだろう。

そして、僕は動き出す。


ピボットで、相手に背を向けたまま僕はボールを離す。

相手は、パスを警戒していたにも関わらず、一人がボールに手が届く位置にいた。

しかし、突き出した手を避け僕はドリブルを開始する。

空振りに終わった相手は重心を崩し、戻りが遅れる。

チェンジオブペース。速度に緩急をつけ、重心を崩した相手に対し自分の腰を低くする。

腰を低くすることによって、ドリブルも自然と低くなる。

重心を崩された一人目を抜くために、フェイクを何重にもかける。

ドリブル突破するように見せかけ、ボールを前に出すがすぐさま後ろに持って行く。

体だけでは無く、頭も疲れさせる。

揺さぶりも相手に効いて来たので、僕は一気に攻める。

パワードリブルを仕掛ける。腰を低くした体制で力強くドリブルし素早く抜きにかかる。

フェイクにより、よろめいた体を元に戻すことは出来ず一人目を抜くことに成功する。

しかし、マークは二人だ。

二人目が立ちはだかる。それに、モタモタしていたら一人目も戻ってきてしまう。

掛けられる時間は、四秒だろう。

それに、二十四秒以内にシュートを決めなければファウルになってしまう。

僕が、相澤からパスを貰い一人目を抜くのにかかった時間は十三秒だ。

残り十一秒でシュートを決める。現在の位置は、スリーポイントラインに僕はいる。

スリーポイントは得意じゃないから、もう少し前に進みたい。

そのためにも、目の前の壁を越える必要がある。

それに、横田も抜けなかった二人に勝ちたかった。


一人目を抜き、僕は止まらず二人目抜きにかかる。

先ほどのチェンジオブペースで、同じく相手のペースを崩す。

恐らく、僕は綺麗には抜けないだろう。

ペネトレイトと呼ばれる、相手に体を接触させギリギリで抜いて行くことにする。

ファウルにならないことを祈るばかりだ。

ドリブルのテクニックは、練習すれば相手に対し色々な戦い方が出来る。

ダッグインで相手の脇を無理矢理通ろうとするが、スピードに反応されてしまう。

僕は、自然と山下さんとの1on1を思い出していた。

後ろでドリブルをしたり、股の間をクロスさせたりするが目の前の彼は僕の目を見ていた。

目線は次にどちらから攻めるかを示す。

ドリブルの手や僕の動く体に対して、何も見ていない。

つまり、彼には僕のフェイクが一切通用しないことを物語っていた。

僕は焦りを感じていた。

しかし、時間は無い。残り九秒だ。

意を決して、僕は攻める。少しずつだが、ゴールへの距離は近づいている。

右手から、左へクロスさせると見せかけ、ボールを持ったまま手首を外側に返すインサイドアウトをする。

要は、右から左へ抜けて行くかと思わせて右から抜いて行く。

だが、相手は食らいついてくる。

相手は、僕の目を見ている。これが彼を抜くポイントだと僕は考えた。

一度、後ろに下がる。

そして、右前にトップスピードでドリブルをする。途中で、また後ろに下がる。

最後に、彼の顔の目の前にボールを持って行く。

「うわぁあ!」

当然、彼にボールを当てたらファウルだ。顔の前に持って行き直ぐに元に戻す。

すると、彼は驚いて尻餅を付いてしまった。アンクルブレイクという技だ。

まぁ、もっと難しいフェイクが必要になってくる技なのだが彼には効いたようだ。

右から、二人目を抜く。

体育館全体で、歓声が起こる。残り六秒。

僕は、ドリブルからシュートモーションへ移動する。

しかし、一人目が追いついてしまいジャンプでシュートコースを遮る。


僕は自然と笑みがこぼれた。横田にやられた技を使う時がきたのだ。

シュートのテンポを遅らせ、後ろにジャンプしシュートをする。フェイダウェイだ。

彼の手は、僕のシュートボールに届くことは無く綺麗にゴールへと吸い込まれていった。

僕の前と後ろには、二人が膝を付いていた。時計を見ると、残り二秒だった。


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