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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
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-大会- 予想外の出番、一之瀬の意地

桐ヶ丘高校の男子、女子バスケ部共に四回戦へと無事に進んでいた。

四回戦は予選リーグ準決勝だ。早いもので一回戦から一週間経っている。

一週間で三試合が行われるペースにも驚きだが、学校には公欠を頂けるので有難い。

その後の授業に関しては、今は触れないでおこう。

予選を制覇し、県大会を制覇し、決勝リーグを制覇することで、全国大会(インターハイ)へと進むことが出来る。

順調に勝ち上がった僕達だったが、段々とレギュラー陣の研究を行っている高校とぶつかり始める。

準決勝は一筋縄では行かない気がしていた。


そして、決定的な事件が起きた。その日は、午後からの試合。

準決勝も、僕らはリードしていた。いつも通り連携を取り、相手の裏をかきながら点数を決めていた。

しかし、十分休憩の後、第三クォーターが始まった時異変が起きた。

ボールを前線へ運んでいた横田に対し、相手はダブルチームを仕掛けてきた。

要は、一人に対して二人がマークに付くということ。これは、こちら側としては動きやすくなるが横田の負担が大きくなる。

案の定、横田は二人を振り切るのに苦戦していた。

二人相手に個人技を強いられれば、簡単に言うと2倍の疲労が蓄積していく。

横田のキレが悪くなり始めていた。

それを見かねた直井が、横田のフォローに回ろうとする。

しかし、マークを外せずフラストレーションが溜まった横田は無理なプレイをしてファウルを取られる。

その後も、お互いの点数の差は縮まらなかったが、思うように攻めれていなかった。

また、連携を崩された他のチームメンバーもミスが目立ち始めていた。


「まあ、若いってのは脆いってことだからな。」

飯田コーチが僕に話しかけてくる。応援席もあまり良いムードでは無い。

「一之瀬、お前ならこの状況で何が必要か分かるか?」

何が必要か。二人を突破する圧倒的個人技。それも必要だろう。

だが、チームスポーツとして必要なことは違う気がした。

「相澤も遠藤も、普段なら出来ているだろう。しかし、今は試合中だからな。」

その事を聞き、僕は確信する。

「必要なこと、分かりました。」

そう、強く答える。

「うし、じゃあ一之瀬。メンバーチェンジだ。タイムアウトはまだしない。それが必要な時は、まだ先だと俺は思っている。」

「はい!俺らで解決して見せます。」

飯田コーチに背中を押され、笛が鳴る。


そして、僕は始めて目の前の白線の中へと進む。

怖気付いたりはしない、僕がやるべきことは分かっているから。

「横田っ!、交代だ。」

横田は何とも言えない顔をしていたが、素直に拳と拳を突き合わせ、交代する。


ベンチに座った俺は、いつも以上に疲労していた。

「横田、ゆっくり休んでる暇は無いぞ。」

コーチが、そう俺に告げる。

「今から、一之瀬がすることをしっかりと見てろ。そして、四クォーター目には戻って貰う。」

「え。」

てっきり、俺はもう出ることは無いと思っていたから予想外の言葉に驚いた。

「お前らは、もっと伸びる。こんなところじゃ終わる奴らじゃない。しっかりと見ておけ。」

「はい!」

俺は、熱くなっていた頭が冷えてくるのを感じた。だが、心は熱いままだった。



僕は、飯田コーチと横田のやり取りを聞いていた。

俺は横田の代わりと言う訳では無い。そのことを改めて痛感したが、僕は今すべき事する。

チームのみんなの元へ走る。

「相澤、上を目指すのは勿論だがまずは目の前の試合だ。Sとして主将としてやるべき事をやろう。」

相澤は深呼吸し、素直に答えた。

「やるべきことか。それは、ポジション取りが甘いって警告か?」

少し笑みを浮かべながら言ってくる。

「その体で負けんなよ?」

ぬかせ。と返ってくるが続きは答えない。

それで相澤は充分だと感じた。


「遠藤、どうした。さっきのパスミスはお前らしく無いぞ。」

「分かってるさ。」

言葉と裏腹に、遠藤は理解していない気がした。

「本当に分かってるのか?さっきのパスは、普段なら通ったはずだ。でも、パスコースと体の向きが合っていなかった。パスは手だけでやるもんじゃない。遠藤が、俺に教えてくれたことだ。」

そう笑顔で伝える。

的確な答えに遠藤は、一瞬驚いた顔をしたがお陰で冷静さを取り戻したようだ。

「抜かせ。次は、相手に渡さないさ。」

おう、頼むぜ。そう言って後にする。


しかし、時間は待ってくれない。

試合が再開されてしまう。

まだ、永田と直井に大事なことを伝えられていなかった。


僕は、この試合が初試合になるとは夢にも思っていなかった。

今日の朝も、いつも通りにしっかりと朝ご飯を食べ

両親から応援されて、試合会場へやってきた。

心の中では、今日も出番は無いだろうと確信していた。

応援してくれている両親に顔向け出来ない、といつも一人で悩んでいた。

二ヶ月と言う、空白の時間を僕は悔いていた。

結果は変わらなかったかも知れない、横田にレギュラーを取られていたかもしれない。

それでも、努力しなかった時間があることに、僕は納得できなかった。

それが、自分の選んだことだとしても。


僕たちからの攻撃だ。口で説明する時間は無いので、プレイでいつのも動きを取り戻してもらう。

ガードとして、ボールを運ぶ。速攻では無く、ゆっくりじわじわと前へ進む。

この1プレイは重要だと言わんばかりの慎重さ。

相手は、横田の時と違いダブルチームでは来ないで、マンツーマンディフェンスだった。

要は各自一対一の対決だ。

バスケには、攻める時間が存在する。ゆっくり攻めたくても二十四秒以内に必ずシュートをしなければいけない。

しかし、一回でもボールがリングに当たればその時間はリセットされる。

頭脳をフル回転させ、各自が二十四秒以内にシュート出来るようにプレイする。

僕は、この初めのプレーでは今日の試合で点を取れていない直井に決めてもらうことだけを考えていた。

バスケに置いて、スリーポイントは勝敗を分けるとも言えるだろう。ダンクシュートは確かに華があり見応えはあるが、点数としては二点だからだ。

そして、直井がシュートを決めることで点取り屋の永田も、目を覚ますだろうと確信していた。


僕のマークは、今まで横田をマークしていた奴だった。

見た感じ、疲労が目に見えている。

ドリブルは、強くすればするほど良い。ボールが手から離れている時間が短くなり

手のひらに直ぐ戻って来る。その分、相手にカットされにくくなる。

ドリブルをクロスさせつつ、レッグスルーと呼ばれる股下を通しながら相手を揺さぶる。

ただ、レッグスルーするだけでは相手に効果は無い。

しかし、前へ進んで相手を抜かすぞと言う姿勢と動きを同時にすることで、相手も釣られて動いてしまう。

相手が、一瞬釣られて右手を突き出した瞬間。

僕は、左からスピンムーブで相手に背を向け、相手を巻き込むように抜いて行く。

彼が、右手を突き出したお蔭で横に隙間が出来て、抜けることが出来たのだ。

すかさず相手のチームは、フォローに回ろうとディフェンス範囲を広くする。

フォローは大事で、仲間をカバーすることは大切なことだが

3ポイントシューターの直井に、パスすることが容易となる。

「直井、1本決めて、カッコいいところ見してくれ!」

そう叫んで、全力のパスを出す。

フォローに入ろうと、下がった直井のマークが裏目に出る。

僕のパスは、綺麗に直井に通った。

そして、直井は一呼吸置きながら半歩下がり3ポイントラインの外から、ボールをゴールリングへと抛る。

その一連の流れに、直井のマークは追いつくことなくボールは綺麗な弧を描き

シュッと言う音と共に、綺麗に入って行った。


そして、それを見た永田も、負けるかと言う気持ちが誰にでも分かるようなオーラを放ち

いつもの彼のプレーに次第に戻って行った。


走りながら、コーチと目が合う。

どうやら、僕の出番は終わりの様だ。

そう、僕は控えのメンバー。

二ヶ月の空白と、力のある後輩により僕はその席を逃した。

だからと言って、ここで終わりたくはない。

自然と、もっとコートの中で一緒に戦いたい。

そんな気持ちが溢れていた。

心の中は悔しさで一杯になり、今にも泣きそうだ。

これで交代して、引退試合まで、いやもう出番は無いかも知れない。


この交代する前の、最後の一プレーに僕の全てをかける。


一方で、一之瀬が気付かない間に午前試合だった女子バスケットボール部の人たちが

応援に駆け付けていた。その中に、山下星香や今井奈美の姿もあった。

女子が初めて応援に来た日、一之瀬達哉が初めて試合に出た日。

それは偶然だったのだろうか。


そして、彼、一之瀬達哉は動き出す。

最初で最後、最高の一プレイをするために。


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