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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
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-大会- 開幕、そして怒涛の進撃

僕は、目覚めた。

脳は覚醒し、眠気も無い。天気は雲一つなく、清々しい朝となった。

ふいに昨日の電話を思い出す。

耳に残る、山下さんの声を思い出しテンションが上がる。

(僕は変態か..)

まるで、声フェチなのかと疑われるほど、彼女の声がいつまでも耳を離れない。

(僕は声フェチだったのか..)

朝からくだらない事を考え、いつも通り元気よく家を飛び出す。

今日は日曜で、どの家も静かだったが僕の闘志は煩いほど燃えていた。

僕が二年生の時、三年の香田先輩から言われた言葉がある。

「体育館に入った瞬間、試合は始まる。そして体育館に居る全員が選手だ。」と

この言葉を聞いた当時は、今と同じようにレギュラーになれず、悔しい思いをしていた時期だった。

僕は今日は応援、控えだが同じ選手なのだと。燃えないわけが無い。


一回戦の相手は、花富山高校。

決して強い高校では無いが、侮れないことは確かだ。

僕ら、桐ヶ丘高校バスケットボール部の面々は集合時間よりも早く試合会場へと着いていた。

「随分と気合が入ってるな、一之瀬。」

「そーゆう、相澤だって気迫凄いぞ。」

敵を寄せ付けないオーラを感じる気がする。

あくまで気がするだけで、そんなものは僕には分からない。

「まあ、俺にとっていや俺らにとって通過点にすぎないからな。」

「頼もしい事言ってくれるじゃん!」

何故か後ろから、直井が僕の背中を叩く。

「痛い。」

「なっ、急に冷めんなよー。」

誰のせいだ、全く。割と痛いからタチが悪い。

各々、緊張感を味わいつつ控え室へと向かう。控え室と言っても、予選は各高校で行われる為立派な場所など無い。

倉庫や、横断幕の裏などで着替えたりするのだ。

高校の名前が書いてある控え室は、まだまだ先だ。


各自、着替えを済ませベンチメンバーまではユニフォームを着る。

ユニフォームを着ることが出来ないと、試合に出るなど遠い話ということだ。

僕はユニフォームを纏い、スタメンと一緒にウォームアップを始める。

試合前は意外に時間がなく、あっという間に試合が始まってしまう。

そして、長いようで短い試合がいつの間にか終わるのだ。


「準備は出来たか?」

飯田コーチが全員を集め、そう投げかける。

部員全員、やる気に満ちた顔で答える。

「初戦からフルメンバーで行く。相澤、遠藤、永田、直井、横田。この五人だ。」

「はい!!」

呼ばれた五人が前へ出て、闘志をむき出しにする。

「第一クォーターは、ランアンドガンだ。とにかく走ってシュートを決めろ。まずは体を動かして慣れろ!」

ランアンドガン。速攻を主体とした、とにかく走って攻める戦い方。

展開の早いこの攻め方は、スピードと連携が物を言う。


コーチからの指示を受け、彼ら五人はコートの中へ進む。

この白線の向こうへは、僕はまだ行くことができない。


「それでは、県予選一回戦、桐ヶ丘高校対花富山高校の試合を始めます。礼!」

「おねがっしまーす。」

恒例だが、あまり聞き取れないお願いしますだ。

笛の音と共に、ジャンプボールから始まる。

さも当然のように、開幕のボールを相澤は取る。それを横田にパスし、試合が始まった。

基本的な攻めは、Gがボールを運び、SやPFなどが中央を固め、SFやSGは外からのシュートを狙うのが通常である。

しかし、バスケは常に動くスポーツでマークが付いているので、動きながら連携を取っていく必要のあるスポーツだ。


僕は、彼らの実力を読み間違えていたかもしれない。

開始二十秒、横田は相手のガードを抜き去り、中央突破と見せかけ、直井にパスをした。

直井はスリーポイントシューターが得意だ。

しかし、ここで安易にスリーポイントを狙わず、相手を引きつけ相澤にバウンドパス。

パスを受けた相澤は、シュートフェイクからのレイアップ。

開始早々、先制点を決めた。


ディフェンスは、相手が攻めてきてからハーフコートだけを守る。

ハーフコートディフェンスで、徹底したマークを心掛けた彼らは、相手の攻撃を封じていた。

花富山高校の人たちは、苦しい顔をしていたが決して諦めず立ち向かっていた。

苦し紛れのシュートは、逆にこちらに攻めるチャンスを与え速攻で攻める事で、相手に休む暇を与えない。

点数はじわじわと離れていき、第一クォーターが終わる頃には二十八対六と大差になっていた。

バスケは、一クォーターが十分あり五分休憩を挟む。第二クォーターと第三クォーターの間の休憩だけ十分。

計四クォーターで四十分戦うスポーツである。


休憩中、応援席にいる僕らは席を立ち、ドリンクやタオルの準備をしっかりとする。

主役は彼らであり、僕らは補佐だ。

五人の様子を見てみると、程よく緊張が解けたのか、試合開始前より明るくなっていた。

「一之瀬、今日は出番無いかもなー。」

「横田が代わってあげたら?もう疲れたんじゃ無いー?」

永田と直井が、そんなやり取りをしていたが軽く聞き流していた。

僕はそんな事よりも、横田の技を盗む事しか考えていなかった。


そして、あっという間に休憩どころか試合が終わり大差で勝利を収めた。

「うっし、まずは一勝!」

珍しく相澤が柄にも無い話し方をしている。

「どした、一之瀬?」

「いや、相澤もうっしとか言うんだなと思って。」

「やっぱり勝ちは嬉しいもんだからな。」


男子、女子共に一回戦を勝利し、二回戦、三回戦も順調に勝利した。

その間僕はと言うと、試合後も自主練を重ね個人技を磨く日々だった。

果たして、僕の出番は来るのだろうか。

そんな不安が、少しずつ大きくなっているのを感じていた。


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