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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
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-大会- 一之瀬達哉の前夜

一之瀬達哉の前夜は、慌しく始まった。

ユニフォームが見つからないのだ。

どこに置いたのかも、全く覚えていない。

こういう時に頼りになるのは、母親と言う存在だ。

常日頃助けてもらっているが、困ったときには一層助かる。

母親に言われた通り、自室の本棚の上に他の服と重ねて置いてあった。


一安心した僕は、明日のことを考えていた。

恐らく、初戦だからと言って温存する考えは無いだろう。

当然、僕の出番は無い。

だが、勝ち進めば試合に出れることもあるだろう。

何故、そこまで試合に出たいのか。

今まで頑張って来たから、力を試したいから、仲間と共に勝ち取りたいから。

色々思い付いた。どれも正解だろう。でも、しっくりこない気がする。

とりあえずお風呂に入り、少しゲームでもして気分転換しようかと思い動き出す。

この3年で体つきは大分変った。特に上半身の筋肉がかなり付いた。

お風呂と言うのは、体を休めるのに効果的と言うが

実際は、お風呂に入り早く寝ることで意味を成す。

癒すのと同時に、エネルギーを消費しているからだ。

僕は、いつも疲れた体で風呂に入ると、その後は何もしないで寝ることが多い。

調整のお蔭で、体力に問題は無い。

(むしろ、試合に出られないならもっと無理するべきだったんじゃないか・・?)

自分に足りないモノ、個人技。それを補う練習を来週はもっと取り入れて行こうと決心した。


ホットミルクを飲みながらゲームをするために、自室へと向かう。

テレビの電源を入れたその時だった。

ふいに、携帯からメロディーが流れる。

(こんな時間に、珍しいな)

誰からだろうと確認するために、ベッドの上の携帯へと手を伸ばす。

そのメロディーはメールでは無く、着信だったことに気付く。

そして、ディスプレイに表示された名前は

「山下星香」

(え・・?)

僕は意味が分からず、携帯を持ったところで固まった。

今まで、殆ど電話などして来なかった相手だ。

我に返り、着信が終わる前に出る。

「もしもし。」

「あ、山下だけど。起きてた?」

「大丈夫。気分転換にゲームでもしようかなと思ってたところ。」

立ち上がり、テレビの電源を切る。

「どうかした?」

「いや、私も良く分からないんだけど・・」

「?」

「電話したくなったのかな?」

「何で、疑問形なの?」

僕は意地悪く、そう答えた。

「ううん、電話したくなったみたい。」

「そ、そうなんだ。」

山下さんは一年の頃と大分印象が変わってきている。

学年が上がる毎に、気が強くなってきている気がする。

でも、今の言葉を聞いて昔と本質は変わってないんだと安心した。


無言が続く。

こういう時に、話し上手な奴を羨ましく思う。顔を見ているわけじゃないから、余計何を話せば良いのかわからない。

そもそも、彼女は何故僕に電話をしてきたのだろうか。

何か理由がなければ、僕に電話して来ないだろう。

僕は無言の間、あらゆる可能性を考えた。

「山下さん。」

「なに?」

「明日も応援してるから。」

「え、どうしたの急に?」

僕は、思っていたことを素直に言った。

「今までも影から応援してたけど、明日は全力で男子を応援しつつ山下さんのことも応援する。」

「あ、ありがとう・・。」

またしても、静寂が訪れる。でも、さっきの無言の時とは違う雰囲気に包まれていた。

「もし、緊張したらさ。僕が山下さんの連絡先を聞いた時のことを思い出してよ。」

ぶふっ。と耳元で笑い声が聞こえる。

「変なこと、思い出させないでよ。笑っちゃうじゃない。」

あの時僕は真剣な顔のつもりだったのだが、山下さん曰く面白い顔だったらしい。

心が痛むが、彼女が笑ってくれるならそれで良い。

「一之瀬君、ありがとね。元気出た!」

「なら良かった。」


しばらく他愛の無い学校の話で盛り上がる。

今度は、彼女から突拍子もないことを言われる。

「あのさ・・。」

「あ、もう寝る時間とか?」

「いや、それは大丈夫。・・・。」

「こんな事言うのは、無神経かもしれない。でも、私の願いだから言うね。一之瀬君が、試合で活躍してる姿を見たいなって。」

そんな彼女の一言は、一見とても嬉しく感じる様に思えるが今の一之瀬には辛い一言だった。


少し考えているのか、一之瀬君はまた静かになってしまった。

私は余計なこと言ってしまったのだろうか。でも、今まで頑張って来た一之瀬君と一緒に上を目指したい。

それは、一年生の頃から思ってきたこと。いつ、この気持ちが湧いて出てきたのかは分からない。

彼にとって辛いことかも知れないけど、まだ諦めて欲しくなかった。

でも、それは私の我が儘。

(やっぱりさっきの言葉は無かったことにしようかな・・)

「あ、一之瀬君、さっきのはやっぱり・・」

「分かった。」

「え?」

「引退するその日までに、レギュラーを勝ち取って、山下さんの前で活躍して見せるよ。」

「これは、約束だ。俺は、二度と約束を破らない。」

急に、彼が格好良いことを言い出す。私は、心の内に何か得体の知れない感情を感じた気がした。

「その代わり、俺が試合に出るまで負けないでくれ。」

これは、私と彼の勝負。約束を賭けた勝負。

「もちろん!」


その夜、彼は決意した。誰かの為に、全力で挑むと。



いつからだろうか。

何が?それを聞くのは野暮な話だ。

今は、少年少女の奮闘記の真っ最中なのだから。



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