-大会- それぞれの前夜
都道府県大会予選一回戦、前夜
僕が所属する高校は、東西南部に分かれ、一つ五十校以上ある激戦区だ。
二百校近い高校が激突し、東西南部を勝ち上がった一校。計四校が決勝リーグへと参加出来る。
その先は、まだ見ぬインターハイに繋がっている。
高校バスケにも、常連と言う言葉はある。毎年、インターハイの切符を手にする高校は
バスケをやってる者としては、有名な高校ばかりだ。
東西南部を勝ち上がって行くと、県大会に進むのだが、僕の高校は県大会出場が最高だ。
強豪校で無ければ、県大会を勝ち進み関東へ進むのは、現実では難しい。
一方、女子の方は何度か関東大会の切符を手にしている。
スポーツ科もあることで、女子は力の入れようが違うらしい。
しかし、男子は私立高校に勝つことが難しい面がある。施設や指導の差もあるからだ。
かと言って、始まる前から臆病になる奴は、僕の仲間にはいなかった。
男子バスケットボール部、主将、相澤の前夜。
彼がバスケを始めたのは、小学生の頃からだ。
彼は、決して才能に恵まれて技術がずば抜けている選手では無かった。
しかし、歳を重ねるごとに身長に恵まれセンターとして役割を果たせる体格へと成長した。
主将を任されてからは、一度もレギュラーの座を譲ったことは無い。
だが、そのことに驕ることなく、日々練習に励んできた。
彼は、真面目だし。堅実な男だ。恐らく、主将になったことで成長して行ったのだろう。
「明日は、必ず勝つ。まだ、スタートラインじゃない。」
彼は、関東大会を誰よりも夢見ていた。明日は通過点であり、勝たねばならない初戦だ。
男子バスケットボール部、副将、遠藤の前夜。
彼も同じく小学生の頃から始め、現在はスポーツ科クラス。
規律を重きを置き、遅刻や欠席を殆どしない。
フォワードとして、リバウンドに競り勝てる筋肉を身に着けるために
人並み以上に筋トレを続けていた。プロテインの摂取は不可欠と言う彼の決め台詞は彼を印象付けた。
他人に厳しく、自分にも厳しい。簡単なようで、自分に厳しくするのは難しい。
それをいとも簡単に行う彼は、真っすぐな芯があるのだろう。
「いざと言うとき、引っ張るのは俺だ。」
相澤を信頼しているが、優しいところがある分、彼がその役割を果たす。
男子バスケットボール部、永田の前夜。
彼は一見、影が薄い。私生活でも、あまり目立つことをしたがらない。
普段の彼は、川の流れに沿って生きている。
普段以外の彼は、まるで別人である。特に、部活中の彼は最早誰だか分からない。
一度シュートを決めれば、彼を注目するのは必然。
バスケ中と、プレイして無い時では、口調も変わる謎の多い男だ。
謎が多い彼だが、試合中に置いて彼のシュートは誰よりも信頼されていると言えるだろう。
「活躍したら、彼女出来るかな。」
絶賛、彼女募集中らしいが果たして叶う日が来るのだろうか。
男子バスケットボール部、直井の前夜。
一言で言えば、お調子者だ。
以上。と言いたいがバスケの実力は本物であり、ここぞ言う場面でスリーポイントを決めて来る。
そういう時に限って、騒ぎ出すのでやはりお調子者だ。
知っての通り、山下星香に惚れている。
知らなかったって?・・・。
以上だ。
「そろそろ、イチかバチかで勝負を仕掛けるしかねえか。」
念入りにバスケシューズを拭き、今後のことを考えていた。
男子バスケットボール部、横田の前夜。
彼の初公式戦となる。意外にも緊張していた。
強い言葉を発していたが、彼もまだ十六歳の青年になりたてだ。
己の力が、どこまで通じるのか期待と不安が入り混じった前夜となった。
「眠れねえ・・。」
バスケットボールをクルクル回しながら、暗闇の天井にそう呟いた。
女子バスケットボール部、主将、今井奈美の前夜。
彼女自身、自分が主将になるとは思ってもいなかった。
だが、その性格と態度から先輩後輩問わず人気があった。
サッパリとした性格で、感情に振り回されることはあまりない。
そう言った性格からか、浮いた話は無いが仲の良い友達感覚で男子とも話している。
早めにお風呂に入り、いつもと変わらず星香とメールしている。
例え、前日でも動じないのが彼女の良いところだろう。
「星香ー、何かメール多くない?緊張してるの?」
星香と共に、全国大会を目指す。
山下星香の前夜。
何度か、試合には出ている。いつも全力で挑むだけだった。
でもそれは、次があると分かっていたから。
今回は、負ければ次が無い。エースとして、チームを勝たせる責任がある。
彼女は、その責任を重荷とは思わない。一年生の頃から、エースとしてやってきた自信があるからだ。
先輩からは、あまり良く見られてこなかった。女子の確執とやらは難しい。
だからと言って、途中で投げ出すことなく自分の信念を貫き通してきた。
彼、一之瀬達哉との約束も出来た。なぜ、彼に約束したのか。
二年近く経った今でも、分からない。
いや、それは嘘だ。彼女自身、その気持ちには薄っすらと気付いてはいる。
ただ、今はその時じゃない。
何をするべきなのか、間違えてはいけない時期なのだ。
私は、いつもより長めのお風呂に浸かっていた。
色々と、昔のことを思い出していた。
しかし急に彼女は立ち上がる。今は、まだ昔の思い出を振り返る時じゃない。
そう思い、お風呂を出て自室でのんびりすることに。
親友の奈美から、メールが来ていたことに気付いた彼女はすぐさま返信をする。
何度かメールをした。普段通りにメールをしていると思ったら、いつもより多く送っていたようだ。
「どうだろ、やっぱり最後だし緊張してるかも。」
不安を素直に打ち明けた。
「じゃあさ、一之瀬君にメールしてみたら?」
まるで、小悪魔のような笑みを浮かべながら今井奈美はそう返信した。
「なんで、ここで一之瀬君の名前が出てくるわけ?」
脈絡もない話に、星香は戸惑っていた。
「自分の胸に聞いてみたら?私は、そろそろ寝るよー。」
「うん、わかった!明日は頑張ろうね!」
「あーい。」
そんな気の抜けた返事を最後に、奈美とのメールを終えた。
(自分の胸に聞け、か・・)
登場人物の紹介を兼ねて、出てきてもらいました。
読んでいる皆さんに、少しでも物語の世界に入って頂けると嬉しいです。