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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
2章 男の決意
18/48

-復帰- 辛い現実

次の日の日曜日は、復帰するために自分が出来る限界の努力をした。

山下さんとのデートは、何をするのかなと思いきやボーリングやらバッティングセンターなど

体を動かす場所に行ったから鈍っていた体には丁度良かった。

恐らく、彼女なりの気遣いなんだろう。もしかしたら、遊びたかっただけかもしれないけど。

短い時間だったが、彼女と過ごせただけで嬉しかった。

明日からは、また共に競い合う仲間に戻る。


五月十日月曜日。

放課後、真っすぐコーチのいる部屋へ向かう。

少し緊張していた。それに、何て言えば良いのか分からなかった。

ノックをする。

「失礼します。」

「よう、一之瀬。随分久しぶりだな。足は治ったか?」

「はい、もう完治しました。まぁ、時たま何故か痛む時はありますが。」

「怪我ってのはそう言うもんだ。忘れた頃に、もう同じことをするなよと警告してくれてるのさ。」

「以後、気を付けます。」

(コーチの機嫌は悪くなさそうだし、このまま本題に入ってしまおう)

「飯田コーチ、長く休んでしまいましたが今日から部活に復帰します。」


「まぁ、復帰するのは構わないがお前のポジションは無い。うちは実力主義で学年など関係ないからな。」

「理解しています。」

「サボっていたのかどうかは、プレーを見れば分かる。とりあえず、今週は十キロ走ってから練習に参加しろ。」

「わ、分かりました。」

体力を戻すのにも丁度良い。練習に早く戻りたかったが体力が戻ってなければ意味がない。

「あ、そうだ。他の部員には挨拶しておけよ。」

「はい。」


部活開始時間になる。

男子バスケットボール部の主将の集合の合図がかかる。

「うし、今日も練習を始める。が、その前にしばらく休んでいた一之瀬から一言あるそうだ。」

主将の相澤から目配せされる。円の一歩前に出る。

「怪我が治りましたので、今日から復帰します!しばらくはリハビリをしながら、元のプレーに戻れるよう尽力して行きますのでよろしくお願いします。」

一年や二年の殆どは、僕の一言に返事をし歓迎ムードだった。

三年やレギュラー陣からは厳しい言葉が飛んできた。


「一之瀬、お前サボってたろ?いくら何でも完治が遅すぎる。」

PF(パワーフォワード)の遠藤。三年。リバウンドやパスの正確さが求められるポジション。

「いきなり厳しいメニューにしてやろうぜ。」

SF(スモールフォワード)の永田。三年。シュート力が求められる点取り屋なポジション。

「なあ、一之瀬!山下と遊んでたって噂まじ?」

SG(シューティングガード)の直井。三年。主に、スリーポイントシュートのような長距離の狙うポジション。

「一之瀬先輩、また俺と勝負っすね。」

PG(ポイントガード)の横田。二年。ボールを運びコート全体を見る視野が必要なポジション。


遠藤、永田、直井は二年の時から先輩の交代要員として準レギュラーをしてきた。

先輩が引退してから、それぞれが誰にもポジションを譲ったことは無い実力者達だ。

横田は、一年頃から上手かったが二年になってから頭角を更に現し始め僕とのレギュラー争いをしていた。

事故を起こす前に、レギュラーをほぼ取られていた。

二ヶ月のブランクがあるが、僕は誰よりも練習をし取り戻さなければいけない。


「まぁまぁ、せっかく戻って来たんだ。徐々にいじめて行こうじゃないか。」

部員全員がその気になる。

C(センター)の相澤。三年。主将を務めている。チームの大黒柱であり、リバウンドを制すポジション。


「ほどほどにお願いします。と言うことで、コーチから十キロ走れって言われてるんで行ってきます。」

ガヤガヤしている。後輩は、憐れむような視線や励ます言葉をかけてくれる。


気合いを入れて校舎の外周をする。十キロなら一時間程度だろう。

ペース配分を考えて、タイムではなく一定のスピードで走り切ることを目指す。



予想以上に体力が落ちており、思う様に足も動かなかった。

(これは、やばいな)

だが、弱音を言う時間は残されていない。大会が始まるまで、一ヶ月だ。


何とか走り終わり、五分ほど休憩をし練習に合流する。

スリーメン(三線速攻)の最中だった。

トップスピードでゴールに向かって走り、パスを受け取ったら二歩で相手にパスを返す。

三歩持ったまま走ったら、トラベリングと言うファウルになってしまう。

僕は、この練習が得意だった。

しかし、十本程やった頃だろうか。足が重く感じて来た。

他の部員は、顔色一つ変えていない。

「一之瀬ー、もうへばったかー?」

一番体力がある永田が、余裕綽々な顔で声をかけてきた。

「疲れてきたけど、前の俺ってどんなもんだっけ。」

「はあ?こんなん、ケロッと終わらせる奴だったよ。」

松葉杖で歩いていた一ヶ月、歩くこともままならなかったのが響いているようだ。


反対側のコートで練習をしていた山下さんと目が合ったが、彼女は笑うことなく直ぐ目を離した。

(今の僕は、見る価値が無いってことなのか)


コーチから集合の声がかかる。

「一之瀬も戻って来たし、一年や二年にもチャンスを与えるということで3on3をする。」

「ハーフコートではなく、オールコートだ。お前ら、走れよ!」

正直、僕の体力は大分減ってきている。このメニューは精神的にキツイ。

通常の5on5はオールコート、3on3は人数的にハーフコートで行う。

つまり、疲れるのだ。


「じゃあ、そうだな。まずは相澤、永田、横田チーム 対 古林、新山、一之瀬チームでやってもらう。」

古林は、二年の中で一番センターのポジションで上手い。身長は相澤に負けている為、日の目を見ないが。

新山は、これまた二年で一番シュート成功率が高いが、永田がいる以上、試合には出られない。

(絶対、これ狙ってるだろ・・コーチめ・・。)


「先輩、俺絶対負けたくないです。」

「そろそろ、一矢報いたいっす。」

古林と新山が、闘志をめらめらと燃やしていた。二人の気持ちは良く分かる。

二年の中でそれぞれのポジションで上手くても、上がいるのだ。

でも、僕は二人のことを考えてあげる余裕が無かった。

既に、足が笑い始めていたから。


そんな僕のことは御構い無いかのように、笛が鳴る。

「一之瀬先輩、先に攻めて良いですよ。」

「おいおい、横田舐めてんのか?」

永田に小突かれる。

「まぁ、どっちからでも変わらないさ。」

主将は、その場の雰囲気に流されない男だ。


「じゃあ、行くよ横田。」

3on3は個人技だけではなく、仲間とのチームワークも必要となる。

軽くドリブルし、ダッグインで抜きにかかる。今の僕にはトップスピードは出せないが緩急を大きくする。

横田はしっかり、攻める方向にディフェンスをしてくる。

無理に抜きに行く必要はない、それよりもパスを回すことが大事だ。

「古林!」

「了解です!」

予め作戦を立てていた。古林は、相澤のマークがついている。振り切ることは難しい。

そこで、ゆっくり様々な方向に走りパスを貰おうとする。当然、パスは通らない。

新山とアイコンタクトをし、お互いが急にトップスピードを出す。

お互いがマークされていた、相澤と永田を一瞬振り抜く。

その瞬間を逃さず、新山は古林をマークしていた相澤を背中からブロックする。

古林は、新山の肩ギリギリをトップスピードで通り抜ける。スクリーンと言う技だ。

僕は、その間横田を引き付け続け、その瞬間大きくジャンプしてパスをする。

そのパスはギリギリで通り、古林がレイアップを狙う。ゴールは目の前。

三人とも決まったと思った。


しかし、僕がジャンプしてパスする間に永田が追いつきブロックしていた。

「甘いね。」

バスケは、一瞬にして攻守が変わりコートが狭い分展開が速い。

横田は、いつの間にか僕の傍におらずゴール下にいた。

「永田先輩、パスっ!」

「しまっ・・」

僕は、言い終わる前に走り出した。古林が、永田の邪魔をするがドリブル突破される。

横田にパスが通る。

しかし、その間に僕は追いついていた。

横田のシュートモーションが始まる。

追いついたと言っても、ギリギリだ。僕は上に飛びつくことしか出来なかった。

しかし、彼は僕をあざ笑うかのように圧倒的な実力を見せて来た。

シュートモーションだと思っていたが、それはフェイントであり屈伸をしただけだった。

更に、僕が着地する直前に横田は後ろにジャンプしてシュートした。

フェイダウェイ。体幹がしっかりしていなければ、バランスが崩れシュートは外れる。

しかし、巧い選手ならばディフェンスを欺ける。


当然、横田のシュートは入った。

僕らは負けた。



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