-デート- 眠れない前夜
何がどうなって、こうなったのか訳が分からないが、僕の心臓が飛び出しそうなのはハッキリと分かる。
(何を考えてるんだ、山下さんは)
完璧に、バスケのことなど頭から飛んで行ってしまっている。
二人きりで遊びに行くのは初めての事で、高校生になってから初のデート?だったからだ。
夏祭りや文化祭など、偶然一緒になったことはあるが
友達がいたり一瞬だけだったりと想像するような甘い展開は無かった。
(やっぱり、明日の予定考えた方が良いかな)
(でも、どこに行くか分からないし..)
そんなことを悩んでいたら、あっという間に時間が過ぎていき日付が変わっていた。
(と、取り敢えず色んなシーンを考えといて掛ける言葉を考えておこう)
つい先日、夢で彼女との出逢いを思い出していたが、今夜は何故かクラスメイトの友達を思い出していた。
それは、明日のデート?と何か関係があるのだろうか。
高校一年の十月。
山下さんとの1on1から一ヶ月余りの月日が経って、
僕は未だにレギュラーとは程遠い位置にいたが、充実したバスケ生活を送っていた。
練習試合の次の日で、コーチも用事があると言うことでオフ日になったその日は、
急に暇になったので何をしようか途方に暮れていた。
することも無いし、家でのんびり過ごすことに決め、帰り支度をする。
教室を後にし、廊下を歩いていると見慣れた顔を見かけ、声をかける。
「初瀬さん、また明日ね。」
「あれ、一之瀬くん。真っすぐ帰るの?」
「そそ、今日は部活休みだから。」
そう言って、通り過ぎようとする。
女子と話すのは緊張するがこの前の一件以来親しくなり、他の女子よりは普通に話せるようになっていた。
「じゃあ、もし良かったら帰りにどこか寄って行かない?」
バスケだけの僕の高校生活に彩が訪れているのかも知れない、そうポジティブに考える。
「あ、いいよ!暇してたんだ。前回の埋め合わせにしようかな。」
「本当?やった、何か奢ってもらおう。」
「良いけど、や、安いので頼む。」
そんな会話をしながら、二人並んで歩いていく。自転車置き場へ行き、お互い自転車を手で押して行き、正門へ向かう。
東門は体育館、西門はテニスコート、裏門はグラウンドがそれぞれ付近にあり
地元に住んでいる人は、主に裏門から帰っている。
駅から、商店街やショッピングモールなどが正門へと続く道のりにあり
住宅街が、裏門への道へ広がっている。
「私、いつも裏門から帰ってるんだ。」
「この近くが地元なの?」
「そう、二十分くらいかな。学校の最寄り駅よりも隣駅に近いの。」
「じゃあ、この近くの中学校からこの高校に入学したんだ?」
「うん、近いし偏差値もそれなりだったから。」
そんな他愛の無い話で盛り上がれることが、素直に楽しかった。
部活をしていなければ、毎日放課後をクラスメイトとエンジョイ出来るのだろうか。
バイトや恋をして、青春を謳歌している自分を想像しようとするが
(全く、想像できない。特に恋が。)
それに僕は今の生活に不満は無いし、バスケに励む毎日を楽しんでいるから。
しばらく歩いていると、どうやら目的の場所に着いたようだ。
「ここのクレープ屋、中々気付けないけど女子の間じゃ人気なんだ。」
勝手な持論だけど、女子はみんなクレープが好きな気がする。
「そうなんだ。確かに、どれも美味しそう。何味がオススメ?」
「甘いのは大丈夫?」
「大丈夫、甘過ぎは苦手だけど。」
「そっかー。じゃあおかず系とデザート系どちらが良い?」
「お腹も空いて来たし、おかず系にしようかな。」
「ツナピザチーズとかは?甘くないけど、ボリュームあって満腹になるかも。」
「お、美味そう。それにしようかな。初瀬さんは、デザート系?」
「うん!私は、ストロベリー生クリームかな。」
「定番なやつだね。お兄さん、クレープ二つお願いしますー。」
強面で頭にタオルを巻いているが、聞こえてくる声は優しそうだった。
「おう、兄ちゃん。カノジョさんかい?よし、イチゴ増やしてやる。」
「そ、そんな・・。」
「お兄さん、俺らはそんな関係じゃないけど。でもイチゴは二割増しで頼みます!」
「そうだね・・。」
何故か、初瀬さんが大人しくなった。ここは、空気読んでそういうことにしておくべきだったかな。
「はい、お待ち!二つで九百円だ。」
「じゃあ、俺が払うよ。」
「本当に奢ってくれるの?」
「もちろん。」
「ありがとう。」
クレープを受け取ると、クレープ屋のお兄さんが初瀬さんのことをじっと見つめていた。
「兄ちゃん、その姉ちゃん上玉だから離すんじゃねえぞ。」
「お兄さんも、良い人見つめてね。」
「言うじゃねえか、また来てくれよ!」
言い方はアレだけど、気の良いお兄さんだった。
何でクレープ屋をやってるのか気になったけど、それよりこのツナピザチーズクレープがどんな味なのか気になった。
(随分、重い。中身がズッシリしていて食べ応えがありそうだ。)
商店街を、クレープを食べながら歩き回る。
初瀬さんは、クラスの中でも人気があり特に男子の人気が高い。
綺麗な黒髪ロングが、風になびいている。
クレープを食べるときに、髪を耳にかける姿に思わずドキリとした。
(これは、人気の理由が分かった気がする・・。)
僕は隣を歩いていて、周りの視線が気になった。特に、男たちの視線が彼女に注がれている。
「この、クレープ美味しいね。」
「だね、でもお腹一杯になって来た・・。」
勿論、お腹一杯だったのだが周りの視線が気になって話しに集中できない。
「あ、気にしないで。いつものことだから。ジロジロ見られるのには慣れているの。」
そう彼女は言ったが、どこか悲しげだった。
当然だろう、感謝や敬いではなく好奇や羨望な目で常に見られ続けているのだ。
いつもは察しの悪い僕だけど、その時だけ直ぐに察することが出来た。
そっと、彼女の左前に出る。彼女は僕より身長は低い、百六十センチくらいだろうか。
少しでも、人の目から逃れられるよう僕なりに考えた行動だ。
初瀬さんは、ポカンとした顔をしていたが次第に元気になり笑顔を見せて来た。
「ありがとう。」
仲の良いクラスメイトと楽しい放課後を過ごせて良かったと、改めて思った。
笑顔も見ることが出来たし。それが一番の理由だったかも知れない。
あれから、一年半が経った今、彼女とはクラスは変わってしまったが今でも仲良くやっている。
(今思えば、あれもデートだったんだろうか。)
そうして現在に戻り、五月八日土曜日の朝がやってきた。
お世辞にも体調は万全では無かったが、やる気と興奮と緊張は極限状態であった。
そんな心情とはうって変わって、まるで秋晴れの様な良い天気だった。
今日丸一日、空いている時間に執筆しました。
気付いたことは、登場人物の背景、姿、性格が文章にて伝えてない、伝えられてない。
1作目の反省とし、しっかり受け止めて行こうと思います。
今後も、物語の中に入れて行くつもりです。
次は、デートの話です。また読んで頂けると嬉しいです。