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現実的な恋模様  作者: 宮日まち
1章 出逢いは始まり
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-約束- 初めての勝負

どういう展開なのか、イマイチ呑み込めていない僕は呆けた顔をしていた。

「だって、レクチャーする約束だったし。どうせなら勝負した方が早いかなって。」

「な、なるほど。」

確かに、山下さんの言うことは一理ある。しかも、連絡先もゲットできる可能性があると聞いちゃ黙ってられない。先ほどまでの暗い気分が、どこかに行ってしまった。

「是非、お願いします!」

「はい、お願いされました。あ、また敬語に戻ってるよ?」

「気を付けま・・る。」

意味の分からない日本語になってしまった。

「一之瀬君って、面白いね。」

彼女のはにかんだ笑顔に、僕は心を奪われつつあった。何て言っても単純な男子高校生だから。

「さ、時間も遅いし急ご!」


早々と体育館に向かったところ、中には誰もいなくなっていた。

「あれ、奈美達帰っちゃったのかな。」

「そうみたいだね。まあ、これで人の目を気にせず思う存分出来るね。」


「うし、本気で頼む。」

先攻は僕だ。香田先輩に挑んだ時と同じようにスピードを活かして攻める。

右ドリブル速攻、急ブレーキをかけた様に止まると同時に、左へフロントチェンジし左右に揺さぶってからのクロスオーバードリブル。

(抜けた!)


「後ろが隙だらけだよ。」

ポロッとボールが手から離れて行き、自分より先にボールが転がって行った。

何が起きたのか一瞬理解出来なかった。

彼女は、わざと僕に抜かれて僕の意識がボールからゴールへと移った瞬間、右手を体に触れることなく伸ばしていき、ボールだけを正確に狙ったのだ。

(漫画かよ今の・・)


「一之瀬君、他のドリブルテクニックで出来るのある?」

「えっと、ビハインドドリブルなら」

体の後ろでつくドリブル。後ろから股を通して、前に持ってくる技としても用いられる。

「なるほど、試しにやってみて。」

言われるままに、右から左へ体の後ろでドリブルをする。ボールを相手に近づけるようなドリブルしながら、ボールが反動で後ろに来た瞬間、股の間を弾ませて通し左から抜きにかかる。


抜きにかかるどころか、彼女は何も揺さぶれてすらいなかった。

「一つ言えるのは、後ろでドリブルする時慣れてないからぎこちなさがハッキリ分かるよ。」

「ドリブルは、ハンドリングが物を言うから練習あるのみだね。」


「じゃあ、今度は私が攻めてみようかな。」

そう言った瞬間、彼女の体が急に消えた気がした。

驚異的な低さのダッグインだった。背がそんなに低いわけでもないのに、

一瞬消えたかと錯覚するほどの低いドリブル。

「もっと、腰を落として。膝が伸びてたら、足がついて来れないよ。」

それから何本も勝負をしたが、ボールを取ることが出来なかった。


「よし、次でラストにするね。全力で足を、私が攻める方を読んで出してみて。」

「分かった。」

ゴクリと喉が鳴った。そう言えば、飲み物をしばらく飲んでいない。

しかし、今は集中するんだ。この一本を死ぬ気で止める。

彼女のドリブルが始まった。左に抜きに行くと見せかけ、右から抜き去るクロスオーバーだと直感し

フェイントに騙されず、僕から見て左に飛び出した。

「・・っ!」

彼女の顔が変わった。

何故、顔を見てしまったのか。一瞬でも止められると思った油断からか、ボールから目を離した。

その隙を彼女は逃さなかった。

左足を軸にして反転させ、僕の方に背中を向け、逆足で僕を巻き込む形で右から抜けて行った。

バックロールターン。スピンムーブとも言う。

「シュッ」

ゴールネットの音がした。疲れ果てた僕は、その場で崩れた。

「流石に、強いね。」

彼女は意外にも得意げな顔をして、

「へへ、まだまだ負けないよ。」

お互いの実力を知って、まるで認め合ったかのような空気だった。

「でも、私から一つ技を引き出したんだから、この短時間でも成長してるよ!絶対!」

「そう言って貰えると、頑張った甲斐があるよ・・。疲れた・・。」

いつもの練習より疲れた気がする、緊張していたからだろうか。


「さっきの技、スピンムーブって言うんだけど練習してみて。フェイントで更に攻め方増えるから。」

「了解。使えるようになるまで、こっそり自主練していく!」

「香田先輩や他の部員に追いつけると良いね。」

「何とか頑張る。」



こうして、彼女との初めての1on1は終わった。

少し、距離が近づけた気がする。僕にとって、最高な一日だから今日は眠れなそうだなと考えていたら。

「一之瀬君さ、一つ約束しない?」

「約束?」

「そう、約束。引退するその時まで、何があっても諦めず努力し続けるって。」

「確証はないけど、一之瀬君が頑張ってる姿見ると私も頑張れる気がするんだ。」

僕は、彼女が何故そんな事を言って来たのか深く考えず

「よし、分かった。何があっても逃げ出さない!山下さんもだよ。」

「勿論。」


「約束だよ。」

体育館の窓から差す、九月の夕日。その光が彼女を照らしていた。

彼女の何度目か分からない笑顔を、僕は目に焼き付けた。


帰り道、彼女と別れ僕は最後の勝負を思い返していた。

一度目は止められた。しかし二度目は抜かれた。

なら、次は二回止める。そう決意した。


(あ、また連絡先聞けなかった・・)


今週の土日は、用事がありますので更新は1回だけだと思います。

大体、12時、18時、22時が目安の更新時間です。

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