-約束- 交わした約束
夕刻でも、少し汗ばむ気温のせいか僕の身体は汗だくになっていた。
自転車でこんなに速いスピードを出したのは、初めてかもしれない。
余計な思考は一切考えずに、無心でペダルを漕ぎ続ける。
高校の自転車置き場を通り過ぎ、体育館に直行した。
本当は、指定の場所までしか自転車の乗り入れは禁止されているが、配慮しようと言う考えは削除された。
体育館から聞こえる音に、どこか期待している自分がいる。
申し訳無い気持ちと、もし居たらと言う淡い期待を含んだ顔で中を覗く。
そこには一年生の何人かの部員が居たが、彼女の姿は無かった。
露骨に残念がる僕を見かけたのか、一人の女の子が話しかけて来た。
「あれ、君。一之瀬君だよね?どこ行ってたの?星香、ついさっきまで待ってたよ。」
「あ、今井さん。実は急な予定が入っちゃって・・。」
彼女は、山下さんの親友の今井奈美さん。中学の頃からの仲らしいが、僕がこうして彼女と話すのは初めてのこと。
「ふーん、そっか。星香だったら、まだ近くにいるかもね。」
「どうも!」
軽く会釈して、体育館を後にする。
「あらら、速いなー。どこに行ったのかも聞かないなんて。」
(これは、体育館空けといた方が良いかな。)
「みんなー、帰りにミスド寄ってこー。ほら男子たちも、帰ろ。」
「もしかして、奈美の奢りー?」
「そんな余裕ないよー。」
「疲れたし、山下も帰ったみたいだから帰るかー」
「あんたら、星香目当てならもっと頑張んなよー。」
「目当てとかじゃなく、見てるだけだよ」
「ああ、目の保養だな」
「はあ..。今の言葉、本人が聞いたら二度と口聞いて貰えないよ..。」
「そりゃ大変だ」
数人の男女が楽しく放課後を満喫していた。
敷地面積は高校の中でも大きい方で、体育館は2つもある。
出口は4つあり、正門、裏門、東門、西門。
バスケ部が使う体育館は、東門の近く。
東門を通り過ぎ、正門へとやって来た。
(もう帰っちゃったのか?)
前に自販機の前で偶然会ったから、帰る方向は同じだと思う。追いかけてみることにする。
そう思って、自転車を跨がろうとした。
足を振り上げた時、背中に衝撃が走る。
「バシィ!」
「痛っ、背中、てか股ぶつけた..」
痛みを堪え、後ろを振り返ったら怒っている山下さんの姿があった。
「ふぅ、これで許してあげる。何かあったか知らないけど連絡くらいしてよね。」
「申し訳ないです..。あっでも俺、山下さんの連絡先知らなくて。」
山下さんの優しさと痛みで涙目になる。
「そっか、そう言えばそうだね。」
何かを考えるかのように、しばらく彼女が唸っている。
「それじゃあ、私と1on1で勝てたら教えてあげる。」
彼女の顔を見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
主人公に優しい世界。