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偽・信長公記――信長に転生してエクスカリバー抜いた俺――  作者: 曖昧


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12話

 織田領内に入ったところで、信長の前に迎えが現れた。

 信秀が遣わせたものだ。

 京での噂は聞き及んでおり、そろそろ帰る頃だろうと配していたらしい。

 信長は遣いの者に導かれるがまま、清洲城へと入る。

 もう日は暮れているが、後日と言うわけにはいかない。

 マーリンと藤乃を伴って城内を往く信長はふと疑問を抱く。


「(清洲城って織田のもんだったか?)」


 今更史実も糞も無いのだが、それでもふと気になってしまう。

 清洲城は織田家のものになる、しかしそれは何時頃の話だったか。

 桶狭間の頃には信長の居城となっているが……。


「(親父殿のことだ。聖剣ゲットを利用して俺が居ない間に色々やったんだろうな)」


 強かな父を想い、元気なようで何よりだと軽く笑みを浮かべる。


「それでは信長様、拙者は此処までで。お連れの方は……」

「マーリンが入るのは確定だろ? 仲間外れは良くねえ」


 藤乃は一応、対外的には信長の家臣で、その末席に入ることになる。

 本来なら外で待たせるべきなのだろうが、信長としては藤乃を自慢してやりたかった。

 良い女を捕まえたんだぜパパ! と。

 前世において父が蒸発しただけに、色々と困る部分も多いが愛を注いでくれる信秀には甘えたいのかもしれない。


「親父殿! ただいま戻った!!」


 意気揚々と勢い良く戸を開き、中へと入る信長だが直ぐに神妙な表情に変わる。

 灯かりに照らされたほんのり薄暗い室内。

 信秀の他にも信勝やら他の家臣が居るわけだが、それはどうでも良い。

 それよりも目を引く異物が二つ。


「(女……親父殿より一回りぐらい上か?

ホスト時代に関わったアウトサイダーな人間……の中でも上位に来る奴らとおんなし空気してるぜオイ)」


 一人は老齢とも言って良い女。

 信秀の傍に侍女のように控えてはいるがどうにも鼻につく。

 敵意や悪意と言うわけではないが、油断ならぬ人物であると経験と直感の両面から注意喚起して来るのだ。

 表面上は知性をたたえた穏やかな印象を与えるが、所詮は表面上。

 腹の中には中々のドス黒いさを秘めた難物だろう、そう判断した。


「(もう一人は子供……男……いや、女か。歳は八、九歳ぐらいか?)」


 老女の横で正座をする一見少年のようなポニーテールの童女。

 眉目秀麗、形の良い目鼻口、男装はしているが女であることを隠しているわけではないのだろう。

 でなくば頭も剃って居るはずだ。

 子供、子供ではあるのだが大器と言うべきか。信長はいずれはひとかどの人物になると判断した。

 ホストやってる時分ならば先行投資でバリバリ接待をしていただろう。信長はこの手の有望な人材を見抜き、固定客にすることが得意だった。

 ちなみに年齢は五、六歳であり読み違えだ。

 この時代、栄養状態が悪く発育不良も珍しくはないが、この童女は珍しいことに発育過剰気味だった。


「よう帰ったな信長! 息災そうで何より。父は日々お前のことを案じておったぞ。風邪など引いておらぬかと」

「俺も親父殿を案じて居りましたよ。しかし親父殿」

「ぬ、何ぞ?」


 気になることはなるべく早く知りたい。好奇心の赴くままに信長は口を開く。


「見慣れぬ顔が二人。新たに親父殿が娶った方ですかな?

そして、そちらはその連れ子……と言うには幼過ぎるし、孫か何かでしょうか」


 そう言うと信秀はカラカラと笑った。


「ハッハッハ! いやいや、俺も女好きだがお前ほど元気ではない。流石にこの歳から室は増やせんよ」

「またまた御冗談を。男は生涯現役でしょう」

「そう在りたいが身体がのう……お前が羨ましい。そちらの女子、中々の者と見たぞ」

「(話を逸らされた……)」


 普通に答えてくれると思っていただけに少しばかり不満だったが、後で政秀にでも聞こうと思い直す。


「ええ、旅の中で得た宝の一つです。名は木下藤吉郎。

俺の女でもありますが、察しの通り中々優秀でしてな。末席に加えようと思っております」

「ほう、昼でも夜でも役立つか。重宝するな、さしずめ木綿藤吉と言ったところか。大事にせいよ」

「言われずとも」


 木綿藤吉、米五郎左、掛かれ柴田に、退き佐久間。

 史実において織田家家中ではそのような風評があった。

 だが、まさか此処で木綿の評価を与えられるとは――未来を先取りし過ぎである。

 時代の先端を往く織田家とか言ってみようか。


「して、信長よ。宝は藤吉郎だけではなかろう? 親父に見せてくれんか」


 言うまでもなく聖剣エクスカリバーだ。

 今の今まで避けて来た話題だが、信秀を含め他の人間も一度は傍らに置かれたそれに目を向けている。


「ふぅ……分かりました。とくと御覧あれ」


 顔の前で一文字に聖剣を掲げ、ゆっくりと引き抜く。

 ほの暗い室内は刀身より放たれる光で昼の如くに顔を変える。

 おお、おお、とあちこちから感嘆の声が上がり誰もが聖剣に視線を釘付けられていた。


「見事! 御見事!! ようぞ持って帰った!!」


 一番早くに復帰し口を開いたのは当然の如くに信秀だ。

 いや、ほぼ同じタイミングで復帰していた謎の老婆も居る。

 彼女は口を開かなかっただけだ。


「わしも若い頃に京で聖剣の試しに挑んでみたがどれだけ粘っても抜けず仕舞い。

諦めの悪さで現地の者らにさんざ笑われたが……息子が踏破してくれるとは……感無量じゃ!!」


 はらはらと男泣きに泣く信秀。

 しかし、そんな父を見て信勝は心底忌々しげな顔をしていた。

 こう言う場でぐらい表情を取り繕えと思った信長だが、今は聖剣に目が行っている者ばかりなので良いかと思い直す。

 信勝の素直さだし、そう言うところも嫌いではない――そう思ってしまう信長はやはり身内贔屓なのだろう。


「信長、御主は既にこの父を超えおったわ! その聖剣が何よりもの証左よ!!

それを否定する道理は無く、否定する者がおるとすればそれはくだらぬ私情によるもの、底抜けの阿呆じゃ」


 これは実質、最終宣告だった。

 聖剣と言う何よりもの証拠があるのに信長を認めないのか?

 くだらぬ私情で目を曇らせ、真を見抜けぬ愚か者こそが織田家の膿である――と。

 その宣告によって、信勝派の――勝家を除く者達は意識の変遷を辿った。


 家督を継ぐことは認めてやろう。

 さりとて、これまでのうつけの行状が消えるわけではない。

 素直にうつけの下に着く気にはなれん、代わりに信勝を中心として家中で発言力を得ることにする。

 決して無碍には扱えないように、これから一致団結して信長に対抗しよう。


 自分の身を護るためでなく浅ましい益を得るためにも。

 当主信長が率いる織田家の内部で信長ですら簡単に手を出せぬ派閥を築く。

 表だって敵対はしないが、最低でも信長が必要とあらば頭を下げざるを得ないほどに大きな力を持つ派閥を。

 聖剣の光を以ってしても目の曇りは取れず。


 信秀も家中の者らが何を考えているのか分かっているのだろう。

 内心で深く深く溜息を吐くが、同時に信長の能力の高さを改めて確信する。

 聖剣と言う証左があれども、侮りを完全に捨て去ることが出来ぬほどに信長の偽装能力は高いのだ。

 それは役に立つ力で、ならばこの場は良しとしようと信秀も気持を切り替える。


「信長」

「何でしょう?」

「今日より、この清洲が御主の居城じゃ。那古野は信勝――ああ、元服して名を改めたのよ、あ奴も。兎に角、信勝にくれてやれ」

「分かりました」


 清洲城は信秀が手ずから指揮を執り、改築を行った。

 信長に譲り渡すために出来るだけの手を尽くした自慢の城だ。

 だからこそ信長も、この清洲を後々まで愛用していくことになる。

 美濃に居城を移そうとも、観音寺――否、安土に城を築こうとも度々清洲を訪れるほどに。


「祝いの宴を催したいところではあるが……御主も長旅で疲れていよう。今日はゆっくりせい」

「ええ、ゆっくり女達と楽しませてもらいましょう。新たな家で、ね」

「フフフ……お盛んよな」


 信秀はマーリンに視線を向ける。


「魔女殿、道中、息子が御世話になり申した。心よりの感謝を」

「いいえ、私にとっても実り多き旅でしたので感謝などと」

「いえいえ、それではこの信秀の面目が立ちませぬ。何ぞ、わしに出来ることはありましょうや?」

「ならば一つ、御願いの儀が」

「(茶番だなぁ……)」


 信長は今にも寝転がってケツをかきながら屁をこきたい気分だった。


「これからも変わらず、信長様の御傍に置いてくださいまし。禄は要りませぬゆえ」

「分かりました。ならば、後見役の御一人として息子をお頼み申す。無論、給金は出しまするゆえ」

「心遣い、感謝致します」


 と言うわけで、今日はこの場でお流れとなった。

 父を城門まで見送ることもせずにこの場で別れを済ませる。

 マーリンと藤乃以外の者が居なくなったところで、信長は思い切り屁を扱く。


「ったく……阿呆な茶番しやがって」

「大人同士の御約束と言うやつよ、信長様も御理解は出来るし、いざとなればやれるでしょう?」


 気に入らないのは自分の意に沿わぬからだ。

 クスクスと笑いながら寝転がろうとした信長の頭を自分のふとももへと乗せる。

 膝枕の役をさらりと盗られたことで藤乃はギギギ、と歯軋りをするもマーリンは余裕の表情だ。


「むぅ……」


 とは言えむくれていても何が変わるわけでもない。

 藤乃は気持を切り替え、気になっていたことを口にする。


「ところで信長様、あの御老体と童女、何者ですかね?」


 信長が老婆と童女に興味を引かれたように、藤乃もまた同じく目をつけていた。

 目端が利く彼女ならば当然と言えよう。


「おお……やっぱお前はよく気が付く奴だなぁオイ。俺も気になってたんだが……見当がつかねえ」


 一応、童女の方は見当がつかないでもない。

 とは言えそれは史実と言うファンタジー混じった戦国時代では万能とは言えないが、それでもそこそこ役に立つ物差しがあるからだ。

 曰く、幼い頃、徳川家康は今川方へ人質に送られる際、護送を担当していた者が織田に寝返り家康を連れて織田家へと向かったらしい。

 そこで数年過ごすものの、信長の身内が今川方に確保され、それと引き換えに家康は今川へ送られたと言う。


 性別が違うことは、秀吉が既に女である時点で意味を成さない。

 ただ、正確な時期やら年齢があやふやだったので信長としても童女が家康であるとの確信を持てないでもいる。

 しかし、家康ならば目を引かれたのも納得だ。

 戦国三英傑の一人であり、最終的な勝者なのだから。


「マーリン、お前は分かるか?」

「うふふ……ええ、老婆の方は。でも直ぐに正解を言うのもつまらないでしょう?」

「当てて見ろと言うことですか。御婆ちゃんは意地が悪くて困ります」

「あんですって!?」

「うーむ……分からん……分からんぞ……」


 史実で何か思い当たることはないかと記憶を辿るも思いつかず。

 そもそも、正確な年号や詳細な出来事を覚えているわけではないのだ。

 一応、勉強は熱心にやっていたが学校で信長が織田を継ぐ前のことなどやるわけがない。

 うんうん唸っている信長を見て、マーリンはクスクスと笑う。


「ねえ信長様、それにお猿さんも。あの老婆を見てどう言う印象を受けた?」


 油断ならない、やり手、などとそれぞれ印象を口にし。

 言葉を揃えて締め括る。


『蛇――それも毒蛇の類』


 二人が答えに辿り着き掛けている頃、信秀は自身の居城である古渡城へ向け馬を歩かせていた。

 信秀を先頭にして、後に臣が続く形だ。

 普通は真ん中に置くべきなのだろうが信秀がそれを拒否した。


「どうじゃ、わしの倅は? 真っ先にお前とあの娘に注意を向けおったぞ」


 横に並んでいる老婆は軽く頬を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。


「やれやれ、こんな何処にでも居る婆の何が気になるのかねえ」

「抜かせ。御主のような婆がそこらに居てたまるか。もし居るならわしは夜も眠れんわい、家を乗っ取られぬかとのう」

「フン! 虎と謳われる男が随分と弱気じゃないか。あたしより若いってのに、老いたもんだよ」

「頼りになる後継が居るからのう、存分に老いられるわい。そっちはロクに老いることも出来ず難儀よな」

「口の減らない爺だ」

「御主よりは若いんだがの」


 往年の友人が如くに、語り合う二人。

 とは言え別に彼らは友人でも何でもない――どころか昔から殺し合っていた仲である。

 いや、だからこそか。殺し合っていたからこそ、或いは味方よりも通じ合っているのかもしれない。

 『アイツの恐ろしさはわしが誰よりも知っている』

 『アレの強かさはあたしが誰よりも知っている』

 そんな少年漫画のライバル関係染みた間柄になっていても不思議ではない。


「まあ、何にせようつけが良い男であることは分かったよ。あたしも十年若けりゃ夜這っていたかもねえ」

「いやぁ、今でもいけると思うぞ? 信長は良い女であれば婆でも平気で抱くからな」

「……女としては分け隔てず、そとみではなくなかみを見てくれる良い男だが、親としてどうなんだいそりゃあ?」


 自分の息子が老女相手にハッスルしていたら親として流石に心配になるだろう。


「くだらぬ枠に収まるものかよ、俺の倅だぞ? だが、好印象で何より。約は締結かの?」

「異論は無いさね。ただ、そっちの事情もあるだろうし直ぐにとはいかんだろ? 一年か、二年か……まあそこらかねえ」

「うむ、気を遣わせてしまってすまんの」

「ハン! 随分と殊勝じゃないか。張り合いが無いじゃないか、ええ?」

「っとに……元気な婆だのう――――道三」


 老婆の正体は美濃の蝮、斎藤道三だった。

 油売りから成り上がった、ある意味で秀吉とも似た戦国サクセスの体現者である。

 信長に藤乃、二人が警戒したのも已む無しな相手だ。


「頼りになる後続が居るとしても、あんたが老け過ぎなんだよ。どれ、戻ったらとっておきの酒を振舞ってやろう」

「ほう……」

「蛇を漬けたやつでね、滋養強壮に良いらしいよ」

「……お前、それで良いのか?」


 共食い的な意味で。


「細かいことを気にする男だねえ……」

「るっせえな――あ」

「ん?」

「いや、信長に松平の娘のことを伝え忘れたと思ってな。清洲城で生活させてるし……まあ、良いか」


 伝え忘れたことで翌朝一悶着起きるのだがそれはまた別の話。

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