アラサー独身女の惨状
女子高生になったら自然に彼氏ができて、25過ぎたら自動的に結婚して、30になったら子供がいる。そう少女は信じていた。
けれど、中学高校と女子校で何も考えず、同級生達の様に流行を追いかけられる財力も関心もなく、ただ何となく過ごした少女には異性との出会いもまた存在しなかった。
娘自身の偏差値相応だが、母校の偏差値には不相応な中堅私立大学にも進学してみたが、2年目にはその学問への関心を喪なった。
「来年以降もこの学部に残るか、真剣に考えた方がいい」
そう教授が言ったの尤もだった。
それでも、何とか得た学士号と幾つかの資格を武器に、それなりに印象がよいと感じた会社に就職した。
仕事に関心は持てなかった。
就職先で娘は恋をした。
同期の男だった。
娘は男の周辺を探り、外堀を埋めてから交際を始めた。
しかし、娘は異性への甘えかたを知らなかった。望む事を伝える勇気もなく、ただ男から与えられるのを待つのみだった。
男は娘に対して劣等感を抱いた。内実はともかくとして、娘の経歴は男を遥か上回っていた。
女は「男を落とす」「他者の感情を操作して遊ぶ」のが楽しい性悪な自分を知った。
やがて破綻を迎えるのも必然だった。
女は孤独だった。
毎日始業1時間前に出社し、前夜残した仕事に取り組み、昼休憩はヨーグルトを流し込む数分間のみ。名目上の終業後もその日の書類仕事を泣きながら片付け、しばしば日付が変わる頃まで働いた。休みの日も仕事が残っているからと、客の目につかない休憩室で泣きながら片付けた。それでも仕事は終わらず、書類の山は高くなっていく一方だった。
しかしタイムカード上は定刻に出社し、休憩をとり、退社していた。
有休休暇は使われることなく、消えていた。使い方すら知らなかった。
そんな状況をを咎める上司は居なかった。
女は壊れた。
気付くと、在職6年目が間近に迫っていた。別れた男は順調に昇進を重ね、同期の数人は寿退職していった。
女はこの白く狭い箱の中で、地べたを這いつくばって生き続けなければならないのか、と絶望した。
退職願を提出したのは、五年目最後の3月だった。引き留めはなかった。
表面的な送別の言葉と、職歴5年という肩書きを受け取って、女は人生のやり直しを始めた。