極・悪役令嬢転生伝説 キラッ☆輝くどきどきスクールアドベンチャーライフ マジカルアカデミアへようこそ! これが冒険おとめの生きる・道。
卒業式のその日。
桜舞い散る小春日和の校庭で、学園四天王とも呼ばれるイケメン達がヒロインを取り囲み、その顔を見上げて輝くような笑顔で語りかけています。
まるで、とあるゲームのエンディングのワンシーンのようでした。
キラッキラのイケメン達と幸せそうなヒロインが描かれた一枚絵は、長い間私のPCの背景として設定されていました。
友情ルート。
そのCGを見ることが出来るのは、そのエンディングのみです。
剣と魔法の冒険を主体に据えた乙女ゲームである「マジカルアカデミアへようこそ!」にはハーレムルートは存在しません。
その代わりに存在するのがこの友情ルートです。
事前に全ての攻略キャラルートをクリアしたうえで、共通ルートにてシビアなフラグ管理を行いつつ、全員の好感度を一定以上にあげることでようやく挑戦することが出来る超ハードモードルートなのです。
さらに、ルートが確定した後でもあの手この手でプレイヤーを振り回します。
学園ダンジョン最深部クリア程度は当たり前。
最難関攻略キャラのイベント、野外でドラゴン椀子そば戦でさえ子供のお遊戯レベルです。
たとえば、砂漠の遺跡で星獣ベヒーモスの生け捕り戦、小舟で奈落龍リヴァイアサンを釣り上げての海上料理戦、飛空挺で真龍バハムートにつつき回されながらの配達戦などなど、極悪非道な難易度を誇ります。
そんな地獄絵図のルートではありますが、このルートでは他のルートには存在しないイベントがあります。
それが、悪役令嬢であるこの私、オリヴィア・クロウミルとの和解イベントです。
自分でいうのもなんですが、オリヴィア・クロウミルは良く死にます。というか、殆ど死にます。
ついでに、基本的にどのルートでも生家が没落するために転落人生です。
攻略失敗であるノーマルエンドでさえ、ヒロインを見下すためだけにダンジョン攻略を強行して迷宮の露と消えるほどです。
高飛車傲慢いじめっ子のポンコツ令嬢。
それがゲームでの私の、ネット上の評価です。
そして私が唯一救われるのも、やはりそのルートなのです。
友情ルートのエンディングシーンっぽいモノを再現していたヒロインが、生暖かい目で見守っていた私に向かって野太い笑みを浮かべて手を振りました。
「おう、オリー。そがぁとこにおらんで、こっちにきんさいや!」
キラッキラのイケメン達をはべらせた、身長二メートルのマッチョ少女が。
「ワシはな、アンタと友達になれたんが一番嬉しぃんじゃ!」
広島弁っぽい方言で叫びながら、私のか細い肩を豪快にバンバン叩くのです。
そんな私達を、イケメン達は暖かい笑みを浮かべながら見守っているのです。
私のデスクトップを飾っていた、あの清純可憐なヒロインは、一体何処へ行ってしまったのでしょうか?
何があってこんな事になったのか、少し説明しようと思います。
あ、何故こうなったのかは私にも分かりません。
※
私が前世の記憶を取り戻したのは、五才のころでした。
ここまで語れば説明する必要も無いような気がしますが、私は平凡平和な現代日本からこのゲームっぽい世界に転生した庶民です。
高熱にうなされて生死の境をさまよったのですが、魔法と薬を併用した手厚い看護のおかげで無事に生還することができました。
病の床から起き上がった私は、いつものようにメイドに手伝われて湯浴みをすませ、長く伸ばした髪の手入れのために鏡台の前に腰を下ろしたところで気づいたのです。
「あれ、鏡の中にぽんこつ姫が居る?」
ぶふぉっと盛大に吹き出したメイドさんを責める気にはなりませんでした。
後日発売されたファンブックによれば、オリヴィア・クロウミルはすでにこの時点でぽんこつっぷりを発揮していたのですから。
オリヴィア・クロウミル。
ライバルとしてヒロインを妨害しまくるクロウミル公爵家の一人娘です。
両親からはオリーという愛称で呼ばれていて、蝶よ花よとばかりにだだ甘に育てられました。
容姿はまさにパーフェクトお嬢様です。
黄金のたっぷりとした髪は、豪華な縦ロールに巻かれており、まるで某月の民のお姫様のようです。
透き通った鮮やかな青の瞳は少しつり目ぎみ。しゅっと整った細い眉もその意地悪さ加減を押し上げています。
スタイルだって、ぼんきゅっぼーんで、手足も細いのです。
オリーにとってもっとも不幸だった点は、両親の選んだ教育係にありました。
選民思想に凝り固まった家庭教師は、オリーに歪んだ価値観を教え込んでいきます。
その結果できあがったのが、高スペックなはずの頭脳と肉体を使いこなせないぽんこつ娘です。
どれだけ能力があったとしても、油断慢心てんこ盛りの某金ぴかの我様のような人格では、いくらでも隙を突かれます。
まあ、そのぽんこつ具合のおかげで、「高飛車傲慢いじめっ子(笑)」的な扱いをされ、本気でプレイヤーに嫌われたりはしませんでしたが。
そんなあれやこれやを思い出した私は、まず最初に没落を回避する方法を考えました。
大して賢くも無い私ですが、無謀と慢心具合はオリーよりましです。
端的に言って、生家の没落にはオリーの家庭教師が大きな役割を占めています。
というか、こいつが戦犯です。
五年ほど前に父の知人の紹介で雇われた秘書役でしたが、実はその正体は帝国の息のかかった使い捨ての工作員だったのです。
奴がしでかした諸々が原因で帝国との密通を疑われた我が家は、父母が(胴体と頭が離れる)病気で急死した事にされ、速攻でお取りつぶしになってしまいます。オリーだけがギロチンの露と消えなかったのは、オリーが一応は王子の婚約者候補の一人であった事からの対外的な配慮のためです。
ちなみに、証拠を掴んで嬉々とした笑顔で断罪するのは全ルートで王子の仕事です。
そんなにオリーが嫌いなのでしょうか。
まあ、生き延びたオリーもわりとすぐに迷宮やら路地裏で死にますが。
まあ、そこさえ上手いことやれば没落ルートは避けられます。
あとは学園生活で攻略キャラとヒロインに絡まなければ、悪役令嬢に転生した私にも幸せライフが訪れるはずです。
奴のスパイ行為の証拠を押さえて父に知らせ、さくっと没落フラグを折りました。証拠固めよりも、それをどうやって見つけたのか子供っぽく知らせる方法の方が苦労したぐらいです。
父は無能では無いのですが、少々人を信じすぎるようですね。ゲームでは立ち絵も声も無かったので知りませんでした。
※
さて、月日は流れ外部入学のシーズンがやってきました。
私自身は念のために別の教育機関に進みたかったのですが、システムの強制であるかのように両親や偉い人たちに強引に薦められて学園へ入ることになりました。
マジカルアカデミア。
それは王国の良家の子供達が武技や魔法を学ぶエスカレーター式の名門校です。
入学資格の大前提として、生家が貴族や豪商のような一定以上の身分であることと高額な授業料が必要とされますが、その分生徒に施される教育は一般的な学問に限らず、高度に専門的な知識を幼い頃から学ぶことが出来ます。
要するに、ちょっとハイソな冒険者養成学園という所でしょうか。
ですが、授業にダンジョンでの実戦が行われる高等部からは全寮制となり、同時に外部からの入学が可能となります。
市井の有能な人材を得るためという建前ですが、実際は良家の子息令嬢達に護衛をつけるための抜け穴的措置でもあります。
その外部入学シーズンにやってくるのが、ゲームのヒロインというわけです。
さて、原則としてはヒロインに関わらないという方策をとるつもりの私ですが、その前に一つ確かめねばならないことがあります。そそくさと人目を避けながら校舎の裏庭へと向かいます。
いえ、ヒロインが入学するのは新入生のクラス分けリストで確認したので間違いありません。
問題は、ヒロインがゲーム通りに行動するかどうかです。
ゲームでは、入学時にオープニングとして攻略対象キャラの学園四天王の紹介的な顔見せイベントが発生します。
校門の受付で出会ったり同じクラスになるイケメン達とは誰がやっても確実に出会うでしょう。
しかし、たった一人。
偶然で出会うのは難しい相手が居ます。ヒロインが不慣れな校舎に迷ってたどり着いた裏庭で、チャラい生徒に絡まれたところを助けに入るイケメンが居るのです。
まあ、ぶっちゃけ王子です。最難関攻略キャラの。
真にこの世界にゲーム的強制力があるのであれば、偶然迷い込んだヒロインを偶然見かけた王子が何故か追いかけて助けるという、微妙に付きまとい案件を彷彿とさせるイベントが発生するはずです。
しかし、現時点で我が家の没落フラグはへし折ってありますので、その可能性は低いと思ってもいいはずです。
まあ、ヒロインも前世持ちでやる気ばっちりでイベント消化に駆け回って、悪役令嬢である私をガチで潰しに来る可能性もありますが、その場合は父に泣き叫びながら学園はもう嫌だとすがりつけば転校ぐらいはさせてくれるかも知れません。
えっと、まあ、なんだかんだ言いましたが、要するに偶然が絡まり合った挙げ句、ヒロインだけがチャラ男に絡まれて救助が来ない可能性を考えただけです。主人公だけあってガチ可愛いんですよ、ヒロイン。
※
あるぇー?
私は我が目を疑ってもう一度物陰に隠れました。
ゲームではヒロインの一枚絵を見ることが出来るシーンのはずです。
清楚可憐なヒロインが、顔の無いチャラモブ男に壁ドンされているシーンです。嫌そうな顔と怯えた顔、王子のカットインに見ほれた可愛らしい笑顔の差分が回収出来るはずです。
では、もう一度そこを見てみましょう。
「わりゃあ、誰にモノぉ言いよるんなら。そうがぁなもとうらん、カバチたれよったら、しごしちゃるぞ?」
チャラ男を通り越したチンピラ風の男達が、誰かを取り囲んで恫喝しています。なんで西洋ファンタジー風の世界なのに広島弁っぽい言葉を使うのでしょうか。
誰かをよく見ます。
どう見てもパンチパーマの筋肉ダルマです。
乙女ゲーの世界に転生したと思ったら、何故かここだけヤンキーマンガを通り越してヤクザマンガな感じです。
それでも私は、良かった、と思いました。
チャラ男に絡まれる愛され系ヒロインは居なかったのです。
チンピラ同士の喧嘩であるのならば、この場を去って教師にでも通報すればいいでしょう。
それに、これでゲームそのものの世界ではないことに確信が――――
「ゴブァっ」
「ブゲラっ!?」
「オボォ!」
「アイエェェェェ!」
ナンデ?
ヒロインナンデ?
失礼しました。
あまりの事に思考が停止してました。
いえ、まあ、マッチョがチンピラを殴り飛ばしたのは理解出来ました。
一瞬にして、乙女ゲーの世界がネオサイタマっぽくなったのもまあ、千歩譲って良しとしましょう。
でも、これは一体どういうことなのでしょうか?
「わしのヒロイン流暗黒極道カラテは無敵―――― おお! そこにおるんはオリーやないか!?」
思考停止に陥った私を誰が責められるというのでしょう。
チンピラ達が倒れてみれば、そこに居た人物の姿がはっきりと見えます。
原x夫先生が描いたかのような、女生徒用の制服にみっしりと筋肉を詰め込み、広島弁っぽい言葉を話すどう見てもヤクザ以外の何者にも見えない人物が、嬉しそうに笑顔を浮かべて歩み寄ってくるのです。
「待て」
呆然とする私をかばうように差し出された腕。
近寄ってくる推定ヒロインの前に立ちはだかる人物がいました。
「おおっ! 本当に王子にまで出会えるとはのう……」
王子、アンタの助けるべきヒロインは、そこの世紀末覇者っぽい方ですよ。悪役の私を助けてどうするんですか。
※
それからは、一事が万事その調子でした。
タイマン張ったらダチじゃあ! とばかりに、攻略キャラ達と殴り合ってユウジョウを結びました。
星獣ベヒーモスはヒロインが前に立って一発殴りつけただけでお腹を見せました。ヒロイン流暗黒極道カラテまじ怖いです。
奈落龍リヴァイアサンはそもそも釣りませんでした。ヒロインが開発したという発破を岩の島に仕込んで、そこにおびき寄せてのガッチン漁法で浮いてきたところを、鮮やかな手つきで活け作りにしていました。梅宮x夫さんかと。
真龍バハムートに至っては、つつき回しに来たところをヒロイン流暗黒極道カラテ式交差法とやらでカウンターを取って叩き落としていました。涙目になりながらも何度も向かってくるリューさんカワイソス。
そうした理不尽を超える理不尽でイベントを消化し、学園生活を光のように駆け抜けたヒロインは、ついに今日、このマジカルアカデミアを卒業するのです。
ぶっちゃけ、私がゲーム通りの悪役令嬢だったとしても、このヒロイン相手では何一つ邪魔は出来なかった事でしょう。
私に出来たことは、ヒロインに振り回される攻略キャラ達を生暖かい目で眺めることだけだったのです。
まあ、それも今日までです。私達はぞろぞろと校門へと歩いて行きます。
ヒロインも攻略キャラ達も私自身も学園を去り、これからは出会うことすら無い別々の人生を送ることでしょう。
そう考えれば、ここの生活も悪くはな――――
「王子、オリーのこと頼んだで?」
「ああ、任せろ。来週には新造飛空挺が完成する。お前も遅れずに来るんだぞ」
呆然とする私に、王子が意地悪そうな笑顔で耳元にこっそりと告げます。
「あ、オリヴィアには拒否権も選択肢もないぞ。ご両親にもすでに根回し済みだ」
ぎぎぎっとさび付いたブリキ人形のように首を向けると、にっかりと笑ってサムズアップするヒロインが居ました。
「オリー、来週からはわしらと一緒に冒険の旅じゃあ!」
ぐるりと周囲を見回せば攻略対象キャラ達が、シャxウラインのボスが攻めてきそうなレベルのキラッキラの笑顔でヒロインの真似をしてサムズアップしていました。
さて、使い古された言葉ですが、この一言をもって今回のお話は終わりにしようと思います。
「どうしてこうなったっ!?」
私は全力で逃げ出した。
ヒロインからは逃げられない!