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凸凹コンビ

廊下を疾走するデブとノッポ。


「これヤバイって!マジで!」


デブが息を切らせながら言う。


「ヤバイよなぁ!なんか皆ゾンビになってるし!」


ノッポもやや疲れ気味のようだ。


二人の目の前にあるのは調理実習室。


「ここに入ろう!」


「オッケー!」


二人は中に飛び込むようにして入り、鍵を掛ける。


「ハァ、ハァ……ッハァ。あーキツ……。」


「ひぃ、ひぃ、もう走れん……。」


二人とも座り込んだまま動けない。


デブの名前は鎌田かまだ りゅう


そしてノッポの方をは島浦しまうら れいという。


二人とも一年三組である。


高校に入ってから知り合ったにも関わらず、某ロボットアニメの話で大変盛り上がり、意気投合して今では親友という間柄である。


「調理実習室なら、包丁とかあるよな……。」


龍が呟く。


「えっ?それってつまり……。」


「うん。咬まれたら感染するみたいだし、武器ぐらいは持っておかないと。」


「いいのかなぁ……。」


龍が怜に包丁を手渡す。


「まぁ、正当防衛ってことで何とかなるんじゃない?」


「いや、この混乱が治まったら捕まるだろ!?」


「治まれば……ね。」


咬まれたら感染する。


一見非効率に見えるが、実際は恐ろしい。


なぜなら、咬まれたら『100%』感染するからだ。


そして咬まれた人間もまたゾンビになり人を襲う。


ネズミ算式に増えていくのだ。


おまけに町中からサイレンの音が聞こえてくるのだ。


そうなれば、街の人間のほとんどがゾンビの仲間入りを果たしている事だろう。


もしかしたらこの学校にも自分たちしか生存者がいないのかもしれない。


事態は見かけよりずっと深刻なのだ。











「取り敢えず、どうやって保護してもらうかだよな……。」


「そうだなぁ……。」


その直後、調理実習室の奥から一匹のゾンビがゆっくりと起き上がった。


「お、お前は……。」


眼鏡をかけているゾンビ。


それは龍や怜の部活仲間であり、良くつるんでいた慎太だった。


「おい……慎ちゃん、嘘だろ?なんで、ゾンビになんか……。」


怜が呆然とする。


龍は怜を肘で少し突くと、包丁を持つように促す。


怜は包丁を握りしめる。


龍が言う。


「多分、慎ちゃんのゾンビしかいない。よく考えよう。こっちは二人、あっちは一人。二対一だ。」


「うん。」


「忍びないけど、殺される前に殺さないと。」


「……解った。」


友を手にかける。


普通なら当然躊躇したり、反論したりするだろう。


普通なら。


だが、この異常事態において常識は無意味だ。


加えて、完全なる害悪が目の前に存在し、尚且つ数的優位に立っているこの状況。


排除しない手はない。


龍と怜は比較的あっさりと人『だったもの』を殺す覚悟が出来た。


例えるなら、ゴキブリを見つけたときに殺虫剤が近くにあった時のように。


龍はふぅと息をつき、肩を解す。


そして怜に目で合図を送った。


怜が頷く。


「許せ!」


「ごめん!」


それぞれがそれぞれの思っている事を口に出しながら、包丁を振る。


二人の包丁は左右からゾンビの首に刺さり、ゾンビの首はまさに首の皮一枚でつながっているという感じになった。


しかし、ゾンビはまだ手足を動かしている。


「もういっちょおッ!」


龍が自分の包丁をゾンビの首から抜き、一歩下がって首筋めがけて包丁を突き出した。


包丁の切っ先は、脊椎を切ることはできなかったが、その左側の皮膚を切り裂いた。


ゾンビが倒れ伏す。


荒い息使いが家庭科室を満たす。


「………うっ、うえぇぇぇええ!」


怜が吐き出した。


龍も吐き気を堪える。


ほんの数時間前まで生きていた人『だったもの』を殺したのだ。


首の皮膚がえぐれ、骨まで見えている。


そして頸動脈断裂による夥しい量の出血。


もっとも、心臓は止まっているので実際にはそれほど多い血の量ではないのだが、出血を怪我ぐらいでしか見たことのない普通の高校生には聊か刺激が強すぎた。


「クソッ……一体何だってんだよ……チクショウ……。」


龍が口元押さえながら呟く。


その声色には憤りとやりきれなさが混在していた。


その時。


ピンポンパンポーン。


チャイムが鳴った。


反射的にスピーカーを見つめる。


『あーあー。校内にいる生存者の方、聞こえますか―?』


こんな状況で悠長に放送を流している奴がいるのかと龍と怜は耳を疑った。






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