アルカディア
バタン、と音がして車の扉が閉まる。
「ここか……。」
男達が辿り着いたのは、フェンスが幾重にも張り巡らされた地区。
周囲にゾンビの影などは見る影もない。
男が感心したように眺めていると、見張りの男が走ってきた。
「動くな!検査を開始する。そこのテントに入れ。」
「はいはい。」
男は仲間たちに暫しの別れを告げると、テントの中に入っていった。
テントの中には、医師らしき男と、看護師のような女がいた。
「では、噛み跡や傷がないかを調べます。服を脱いでください。」
言われるがままに服を脱ぐ。
「噛み跡……。無し。引っ掻き傷も無し。……あら?この傷は?」
「古い傷ですよ。車ごと引っ繰り返されましてね。」
「おや。でも、ここの国民になれば大丈夫だよ。食料も生産体制が整っているし、衛生環境もいい。様々な職業の人たちが集まって、共同生活をしている。何より……。」
「何より?」
「上に立つ人たちが、良い人たちなんですよ。私よりもかなり年下だが、信頼がおける。あれを、天性のリーダーシップというのかな?」
医師らしき男はそういって、奇怪な声を上げながら身体を揺らした。
どうやら笑ったらしい。
「へえー。そして感染者も居ないと。」
「私を始めとする五人の医師が各ゲートにいてね。感染の恐れのあるものは入れないんだよ。」
「完璧だ。」
「君も、我々の良き仲間になるんだな。ほら、入国許可証だ。これを首から提げていけ。」
「ありがとうございます。」
男は立ち上がり、テントをあとにする。
検査を終えた仲間と合流した男は、この国の政治を行っている人間に謁見することを許された。
その人物は、この国の中心地である元学校だった場所に居るらしい。
中には至る所に武装した警備兵がおり、国力の高さが窺える。
武装兵の一人に案内されて辿り着いた先は、会議室と書かれた部屋だった。
中に入ると、男がこちらに背を向けて座っていた。
「失礼します!新たな入国者を連れて参りました!」
どうやら、この男がこの国のトップのようだ。
一歩踏み出す。
「新しく入国させていただきます、遠田リクです。そして、こっちが家内の立花愛梨。そして、僕たちをここまで連れてきたくれた、柊仁さんと、成人さんです。あと、こっちが美沙ちゃんです。」
「柊仁……。懐かしい名前ですね。本当に懐かしい。ある日から通信が途絶えて、音信不通ですがね。」
男は立ち上がり、振り返る。
そこには、人懐っこそうな笑みを浮かべた青年が立っていた。
20代位に見える。
「恐らく、その柊仁で合ってる。……冴島徹か?」
「では、あなたが仁さん。」
「そうだ。」
「顔を見るのは初めてですね。」
「そうだな。よろしく頼む。」
「ええ、こちらこそ。美沙ちゃんも、元気にしてたかな?」
「…………?」
「はははっ、覚えていないのも無理はないか。あれから何年経ったかな……。」
「多分、5、6年ですよ。」
「あの時はまだ9歳だったからな……。今じゃ思春期真っ只中だ。」
「そうか……。この国は見学されましたか?」
「いや、まだですね。国に入ってからすぐここに来ました。」
「なら、色々と見学してみてはいかがでしょう?これから使う事になるところですから。」
「そうさせてもらいます。」
「では、案内役を呼ぼう。」
徹が無線機を操作すると、一分程経ってから女性が会議室に入ってきた。
「はいはーい、何の用?」
「優衣さん、この人たちを案内してあげて。」
「全部でいいのー?」
「ああ、そうだ。えーと、来客用のリムジンあったでしょ?あれで。」
「りょーかい。」
女性はこちらを振り返ると、太陽のような眩しい笑顔を見せた。
「じゃあ、お姉さんが案内してあげよう!ささ、レッツゴー!」
元気よく歩き出した女性に、慌てて追いつく。
「まあ、取り敢えず全体像見せるために、屋上に行くよ。」
女性の後に続いて、リク達は階段を登った。