生きることの意義
身体が宙に浮く。
腹が熱い。
喉から何かがこみ上げる。
吐き出す。
熱い、熱い、熱い。
どうして浮いている?
視界に移る赤い棒は何だ?
急に棒が消える。
落ちる。
墜ちる。
オチル――。
身体が地面に叩きつけられる。
痛い。
落下の衝撃か、目が良く見えない。
声が聞こえる。
徹の声?
徹が叫んでいる。
何でだ?
分からない。
とにかく痛い。
腹が痛い。
また喉から込み上げてきた。
我慢できずに吐き出す。
赤い?
良く見えないが、赤いものだ。
――血?
意識が遠のく。
駄目だ、意識が――。
「大樹君!」
美羽が悲痛な叫びを上げ、大樹に駆け寄る。
「大樹君!しっかりして!お願い!起きて!」
しかし、大樹は何の反応も示さない。
「清水先輩、大樹を何とか屋上の入り口まで動かして!」
「はい!」
美羽が大樹を引きずっていくが、かなり重そうだ。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「徹ッ!これはかなり不味いぞッ!」
「藤堂先輩と本多先輩は赤い化け物を牽制してくださいッ!朝霧さんと拝賀先輩は下がってッ!」
「分かった!徹、お前はどうするんだ?」
「僕は、コイツを……。」
徹は銃を構える。
桜は笑い続けていた。
壊れた音楽機器のように、同じような声で、ずっと。
「死ね死ねッ!あははばばばばばばばばばばばばばぁッ!女王ば私なのよぉッ!」
「お前に、例え狂喜の果てに見た妄想だとしても、女王の夢を見させない!」
銃を構える。
そして、ゆっくりと、引き金を引いた。
弾丸が発射される。
真っ直ぐに、頭に向かって飛んでいく。
銃弾は桜の皮膚をえぐり、骨を砕き、脳に到達する。
さらにもう一発。
崩れ落ちる桜の目に向かって、一直線。
眼球が潰れ、肉を穿ち、そして脳へ。
壊れた音楽機器の電源は完全にオフになった。
桜はもう何も声を発さない。
動かない、ただの物。
女王を夢見た、力に酔いしれただけの、ただの物だ。
「止まらない!」
大樹の腹部からは血が流れている。
美羽がいくら押さえても、流れ続ける。
「……うあ…。」
「ッ!大樹君!」
「……せん、ぱ……。」
「喋らないでッ!」
「俺、死ぬ、んスか……。」
「死なせないッ!絶対にッ!」
「小夜、先輩が、ねて、た時……。」
「血が止まらないから、動かないで!」
「先輩、の、よんでた、本……読んだッス……。」
「やめて……しゃべらないでよぉ……。」
「主人公が、地面に、傷跡をつけて……。いきた、証を。」
「お願いッ!止まって……!」
「俺も、なに、か、残して……。生きていた、証を……。残すッス……。」
大樹が立ち上がる。
目の焦点はあっていないし、膝は笑っている。
棒で突けば今にも倒れそうだ。
「もう、あなたの身体が持たないッ!動いちゃダメ!」
「ずっと、考えて、た、んス……。和馬先輩が、死ん、でから、生きる意義を……。行かせて、くだ、さい……。皆の、先輩の……生きる、道を……作るのが、俺の、俺の……。生きる、ことの『意義』であり、『証』な、んスよ……。」
「ずるい……。止めれるわけ、止めれるわけない……。」
美羽は大樹を掴んでいた手をどけて、後ろから抱きついた。
「大樹君……。ずっと、助けてくれた時から、好きでした……。」
「……へへっ、少しだけ、死ぬのが、惜しく、なったッス……。」
美羽の手をするりと解いて、大樹の後ろ姿を見つめる。
ただ、見つめる。