ミイラ取りがミイラになる
「流石だわ。ただの臆病者じゃないようね!」
桜の髪がゆらゆらと動く。
まるで、波に翻弄されるワカメか何かのようだ。
「でも、残念ね。所詮あなたは銃が無いと攻撃を当てる事さえできない。」
「コイツッ!」
怜が鉄パイプをサイドスローのフォームで投げる。
鉄パイプはぐるぐると回転しながら桜に迫ったが、髪の毛に叩き落とされてしまった。
「くそっ!」
「ふふふ、ざ~~んねん。」
桜が悪戯っぽく笑った瞬間に、髪の毛が大蛇のようになって怜に襲いかかった。
「わああっ!!」
怜は横に思い切り飛んで、何とか躱した。
だが、大蛇は方向を変えてぐんぐん迫ってくる。
「ほらほら、逃げないと死んじゃうわよ?」
「言われなくたってッ!!」
怜は必死で躱すが、次第に髪との距離が縮まってきた。
このままではいずれやられる。
「うわっ!」
焦りながら走っている中、怜は何かに躓いて転んだ。
「な、何が……。」
怜の足に絡みついていたのは、桜の毛だった。
「驚いた?あの日本刀を持ったヤクザとの戦いのときは、私がこうやって相手の動きを封じてたの。……とにかく、チェックメイトね。」
桜の髪の毛が怜に向かって伸びていく。
その様子を見ながら、怜は呟いた。
「……いた。」
「は?」
「ずっと待ってたんだよ、この時を。」
「何を言ってるの?」
「僕を捕まえたつもり?違うね。“僕が君を捕まえたんだよ”。」
怜は右手を振った。
そこから出てきたのは。筒状の物質。
その物質は、龍が作っていた爆弾だった。
「しまっ……!」
桜は急いで髪を伸ばすが、間に合わない。
黒い影が飛び出した。
爆弾は桜の足元で爆発した。
煙がもうもうと立ち込める。
パラパラと音を立てて落ちていくのは、屋上の床に使われていた材料だろう。
「ゲホッ、ゲホッ!」
怜は噎せながら立ち上がる。
「痛ッ!」
左足に激痛が走り、思わず膝をつく。
見ると、大きな破片が刺さっていた。
「ぐぅ……。ざまぁみろ……!」
怜は拳を高く突き上げる。
「ざまぁみろ!やったぞ!龍の、仇を……!」
「許さない。」
「え?」
煙の中から何かが飛び出して、龍の目の前に現れた。
「ひっ……。」
「許さないッ!」
怜の目の前に現れたのは、もはや原形をとどめていない、人型の化け物だった。
全身の皮膚は所々抉れ、端正だった顔立ちも見る影は無い。
特に、爆弾に近かった右足は、今にも千切れそうだ。
筋繊維数本でつながっている。
「私の顔を……。よくも、傷を!」
「……化け物か。」
「死ねッ!!!」
怜は横腹に強い衝撃を感じ、気が付けばフェンスに体をぶつけていた。
「がッ!」
フェンスが大きくたわみ、不安定になる。
霞む視界の中で、怜はあるものを見る。
煙が消えて、視認できるようになった場所に転がる物。
それは、バラバラになった人型の死体。
カラッ、と音がして、怜の目の前に何かが落ちる。
生徒会長のバッジが、形を少し歪めた状態で転がっていた。
「そんな、まさか……!」
「あいつを、荘田を駒にしておいて良かった!盾にはなったわ!……怜!お前をこのまま落としてやるッ!ブチ殺すッ!!」
桜が怜を何度も何度も殴る。
「死ねッ!死ねッ!」
「ぐぁッ!がはッ!」
殴られるたびにフェンスは揺れ、怜の身体は徐々に空中に出ていく。
「これで、死ねッ!!!」
桜が最大の力を込めると、桜の手の皮膚は千切れ、中から深紅の筋繊維が露出した。
それが見る見るうちに肥大化し、鉄球のようになる。
桜が手を振り上げる。
「畜生ッ……。」
怜は目を閉じた。