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呼び出された生贄

パーティーがつつがなく終わり、二日が経過した。


龍は無線機の前で、ぼーっとしていた。


二日前のパーティーは本当に楽しかった。


久しぶりに料理をたくさん食べる事が出来たし、皆の顔に笑顔が戻った。


ぶつかってグラスを落としてしまったのだけが心残りだが……。


まあ、怪我をしなくて良かった。


それよりも、今はこっちが大問題だ。


前までは普通に行われていたトラック旅団との交信が途絶えたままなのだ。


やはり、壊滅したのか……。


それとも、単に通信機が壊れただけなのか。


できれば後者であってほしい。


その時、後ろからコトン、と音がした。


「ん?」


龍が後ろを振り向くと、白い紙が一枚落ちていた。


「なんだこりゃ……。」


手に取ってみると、『龍さんへ』と書かれている。


「俺宛てか。」


中を開けてみる。


『龍さんへ。話したいことがあります。本日24;00に屋上でお待ちしています。お一人で、誰にも知らせずに来てください。』


(まッ、まさかこれは……?)


龍の手紙を持つ手がカタカタと震える。


「らっ、らぶれたぁ……。」


可愛らしい丸字で書かれた文体に、龍の心は躍った。


自分宛てであることを再度確認すると、龍は満面の笑みで紙を懐にしまった。



「……あのさ、龍?」


「あん?何だよ。」


「いや、やけに機嫌良さそうだなーって。」


「そうか?いつも通りだぞ?」


「……ならいいけど。」


しかし、誰がどう見ても龍は浮かれていた。


「……やっぱり、浮かれてるように見える。」


「そんなことねぇって。」


「いい話でもあったの?」


「いや、別に?」


「あのね、龍。上手い話に落とし穴っていう言葉があるだろ?浮かれすぎて墓穴掘らないように……。」


「だから浮かれてねぇって!」


二人の間に微妙な空気が流れる。


「……飯、食ってくる。」


龍が立ち上がると、怜がポツリと言う。


「前から思ってたけど、龍は周りに目が行かなくなる時がある。気を付けた方がいい。」


「なんにだよ。……ったく、めんどくせぇ。」


「そんな言い方は無いだろ?それに僕はただ心配で……。」


「黙れよ。今日の怜、なんか面倒だ。」


龍が部屋を出ていき、怜は取り残される。


怜は無性に嫌な予感がしていた。






時は刻一刻と過ぎていく。


龍の処刑時間が一秒一秒近づいてくる……。


そんなこともつゆ知らず、龍は手紙通り誰にも知らせることなく、ウキウキしながら屋上で待っていた。


時刻は23;50だ。


抜かりはない。


ソワソワしながらポケットに手を突っ込むと、何かカサカサした物が当たった。


「ん?」


取り出してみると『応援合体ゴッドバイン』のシールだった。


この前怜と取り合いした時にポケットに突っこんだままだったのだ。


「……少し、きつく言い過ぎたかもな。謝らねぇと。」


ガチャッ、と音がして、屋上の扉が開く。


龍は立ち上がり、扉を開けた人物を見やった。


「こんばんは、龍さん。」


「山下さん。……その、話って?」


桜は龍にゆっくりと近づく。


「話の前に、パーティーの時の話をしますね。」


「パーティー……グラスのこと?」


「ええ。グラスが割れちゃって、皆大騒ぎしましたよね。」


「そ、その、すいません。」


「怪我をしなかったからいいんです。」


桜はもう龍に密着するくらい接近していた。


「あ、あの。近い……。」


「ふふふ、怪我しなかったと思いますか?」


「え?」


「怪我しなかったと思いますか?」


「俺には怪我をしていたように見えたけど、怪我してないみたいだったから……。」


「ふふふふふ……。あはははっ。」


「な、何で笑っているんですか?」


「怪我したんですよ、実際に。でも、治ったんです。」


「え……。」


その瞬間、桜の髪が龍の身体に巻き付いた。


「痛っ……。な、なんだこりゃあ……。」


「ふふふ。話っていうよりは、お願いがしたかったんです。」


「と、取れねぇ……。」


「死んでください。」


可愛らしい笑顔を見せながら、桜は龍を屋上のフェンスから落とした。


数瞬の後、ぐしゃっという気味の悪い音が聞こえた。


桜の口角が吊り上った。



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