クリスマスパーティー開催
「ではでは、皆さんちゅうもーーーーく!!!」
大きな声に、会議室に集っていたメンバーは雑談をやめ、台の上に立つ葉月を見た。
「えー、今回はここに居る全員の協力もあって、このような状況ではありますが、パーティーを開けることに……。」
「葉月お姉ちゃん固いよ!」
優衣が茶々を入れる。
「そ、そう?じゃあ、いつも通りに。皆さん楽しみましょーーー!!!」
その声をスタートとして、各々が食事に手を伸ばす。
クラッカーの上に様々な具が乗った、パーティーにはうってつけの摘まみやすい料理が並び、それを食べるメンバーの顔は笑顔だ。
――真二を除いて、全員。
「……本当に良かったのですか?」
徹の隣に立つ佑季が訪ねる。
「良いんですよ。やれる時にやっておかないと。」
「むぅ……。」
「ささ、三好先輩も皆の輪の中に入らないと。ほら、行ってください。」
「は、はい。冴島さんは?」
「僕は見張りをしてますよ。何があるから解りませんから……。」
徹が静かに会議室を出るが、それに気づく者は佑季以外誰も居ない。
それだけ、皆このパーティーを楽しんでいた。
「うまっ!怜、この具ヤバイぞ!!」
龍は怜の方をバシバシと叩く。
「痛ッ!!でも上手い!」
「だろ?ほら、清水先輩も!」
龍が桜の目の前にクラッカーを持って行く。
「えっ!?きゃっ!」
だが、急に差し出されて驚いた美羽は、グラスを落としてしまった。
床に落ちたグラスは砕け散る。
「あ、す、すいません!」
「何か拭くものを。誰か、怪我をしていませんか?」
「だ、誰も……。」
龍が辺りを見回すと、桜の足がうっすら切れ、血が滲んでいるのが見えた。
急いで台の上にあったナプキンを取りだし、桜に差し出す。
「あ、山下さん足怪我してますよ!いやぁ、本当にすいません!これで止血を……。」
「私怪我してないけど……。」
「え?そんなはずは……。」
龍がもう一度桜の足を見ると、確かに傷は消えていた。
「見間違いかな?まぁ、誰も怪我をしていないならよかった。お騒がせしてすいませんでした!」
「パーティーにアクシデントはつきもの!ささ、楽しみましょー!」
葉月の声に、皆の顔に笑顔が戻る。
だが、桜の笑みはどこかぎこちなかった。
(最悪だ……。)
桜は心の中で吐き捨てる。
見られてしまった。
傷が再生する瞬間を、龍に。
いくら再生能力があの化け物より少ないといえども、うっすら切れた程度なら、すぐ治る。
その瞬間を見られるとは……。
目撃者は龍だけだ。
他の者は、ただの見間違いに過ぎないと思っているだろう。
だが龍は、今は見間違いで納得しているようだが、いつ不審に思うか分からない。
もしかしたら感づかれる可能性もある。
正体が露見するような不安の目は早めに潰しておかねば。
誰かを殺すのはもう少し後にしようと思っていたが、早急に片づけなくてはならない相手が出来てしまった。
行動すれば見破られる可能性は上がるが、今後の反乱のためには必要な行動だ。
問題は排除方法だが……。
正直、常に監視して制御するのは真二で一杯一杯だ。
二人纏めて常に監視しておくことは不可能に近い。
それに、龍は怜と優衣と行動を共にしている。
真二はあまり関わりがないからばれてはいないが、龍だと確実にボロが出る。
となれば、殺すしかない。
問題は処理だ。
何処かに呼び出して殺害するとして、その後、どう死体を処理するか。
その辺に放置すれば、まず間違いなくこの中に犯人が居ると解るだろう。
ここは塀に囲まれて外部からの侵入者が無い。
新種の敵という言い訳だと、他の人物を殺さなかった点が不自然となるので却下。
となれば内部の人間の仕業になる。
少しでも疑いがかかるのは避けたい。
失踪?
そうだ、失踪なら良いじゃないか。
――いや、やっぱり無理だ。
あのデブは塀を攀じ登れない。
となれば、事故死?
……転落死。
龍が屋上の見張り当番の日に屋上から落とし、殺害する。
他のメンバーは誤って転落したと思うだろう。
人間は確たる証拠がない限り、仲間を疑おうとしない生き物だ。
龍の当番は確か二日後。
決行は二日後だ……。