クリスマスパーティー準備
「ん~……。今の所、パーティーに回せるのはこれくらいかな。」
徹が指を差した先にあったのは缶詰二十個ほどと二リットルペットボトルに入ったジュースが一本、水が一本
だった。
「むむ……。これはこれは。」
料理担当の葉月が唸る。
「……これ以上は?」
「残念だけど、これ以上は無理だね。余るのはいいけど足りなくなるのは危険だから。」
「むぅ~。じゃあ、これを!」
葉月がクラッカーの箱を取り出す。
「お願い!」
「…………。」
徹は無言で缶詰を二つダンボールに戻した。
「むむむむ。そう来ますか……。」
「これ以上は譲れないね。」
「ぐぬぬ……。」
葉月は歯軋りをし、そして天井を見上げた。
「やってやるーー!女、朝霧葉月!これだけの食料で立派なパーティーにしてやる!」
その目に炎がめらめらと燃え上っているように、徹には見えた。
「サ、サ、サ、サ、サンタさ~ん♪服が紅いのは返り血さ~♪あの子をバン!その子をズドン!ほらほらもっと紅くなる~♪」
「……何なの、その曲。」
「私が作った曲だよー。どう?お兄ちゃん。」
「いや、どうっていわれても……。どうだろう?」
「何点?」
「80点?」
「え~。何で80点なの?」
「歌詞。」
「結構いいと思ったんだけどなぁ。」
「龍はどう思う?」
「俺は良いと思うぞ?特にズドン!の所とか。」
「そうかなぁ。」
怜と優衣はクリスマスパーティー用の飾りつけを作っていた。
紙を切って鎖のように繋ぐあれだ。
そして出来た飾りを龍が壁に設置していく。
会議室はかなり広いので、それをカバーできるだけの色紙は無かった。
なので、会議で使われていたであろう資料を切って飾りにしている。
見た目は悪いが、致し方ないという判断だ。
このパーティーの主催者である葉月も渋々これでゴーサインを出してくれた。
再び優衣が歌いだしたのを聞きながら、龍はまだまだ時間がかかるなと思い嘆息した。
「ふざけんなッ!!」
「いいじゃないか。似合ってるぞ?…………ぷぷっ。」
「ああん!?てめぇ、笑いやがったな!!」
「はいはい、揉めないで揉めないで。」
「葉月……。お前、一年の癖にこんなことして……!」
「駄目ですよ、先輩。調理場は女がリーダーなんです。先輩もきちんとルールに則ってください。」
「だからって……。お前、何で俺がふりふりのエプロンなんか着けなきゃいけねぇんだよッ!!!」
「しょうがないですよ。それしかなかったんです。」
「お前のと交換しろ!」
「やですー。」
「このアマ……!」
「はいはい、作るよ?」
「畜生……。いつか落とし前は付けてもらうぞ。」
葉月が缶詰を開ける。
「私たちが調理しますから、先輩は調理済みの奴をそこのクラッカーに乗っけてくださいね?」
「……チッ。」
「あ、あと摘まみ食いしないでくださいよ?先輩が食べだしたら全部無くなっちゃいますから。」
「てめぇ、俺を何だと思ってやがる!!」
「はーい、喋るときはマスクをしましょうねー。」
「……クソ……。」
小夜と葉月、美羽と佑季と桜という女の園に、何故か誠治も呼び出されてこのザマである。
葉月に「調理を手伝ってください。」と頼まれた時から何やら嫌な予感はしていたのだが、まさか自分がピンクの、しかもふりふりのエプロンをつけることになろうとは。
「っっっっ……。」
しかも隣では美羽が顔を真っ赤にして悶絶している。
佑季も目を逸らしてはいるものの、肩を震わせている。
自分の蟀谷に青筋が浮いているのが分かる。
嵌められた。
ものの見事に嵌められた。
いざ調理室に来てみれば、あれよあれよという間に着せられて、紐を丸結びにされた。
取ろうと思っても取れない。
誠治は悔しさと恥ずかしさと怒りがないまぜになった複雑な表情のまま、具をクラッカーに乗せる作業に没頭していった。




