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不屈の男

リクには一瞬何が起こったのかさっぱりわからなかった。


目の前で化け物の片目が無くなり、そしてもう片目も無くなった。


化け物は叫び声を上げながら、闇雲に爪を振り回している。


自分より後ろには、引っ繰り返った車と美沙ちゃんが居ただけ。


しかし、その方向からの攻撃によって、化け物を行動不能にできた。


恐らくは銃による狙撃で。


あの引っ繰り返った車の中に居て、尚且つ銃を使える人物はひとりしかいない。


「仁……さん。」


リクが振り向くと、後ろに立っていたのは仁だった。


服が真っ赤に染まっている。


「トラック旅団は壊滅か……。クソッ。」


「仁さん!血が……!」


「血?」


仁は自分の身体を見る。


そして事も無げに、


「ああ、これはケチャップだ。」


と言った。


「……へ?」


「だから、ケチャップだ。」


「美沙がね、けちゃっぷたべたいっていったらね、仁がね、もってきてくれたの!」


「……あー、ケチャップね……。あははー……。」


「他のメンバーは居ないのか?」


「どうやら、僕達だけみたいです。後ろからゾンビが来てるし、急いで逃げましょう。」


「だな。リクは愛梨を頼む。俺は物資を……。」


その時、後ろの方から、ゾンビが一体吹き飛んできた。


仁たちの前でバウンドし、肉片を撒き散らす。


「ちょっとちょっと、忘れないでくださいよ。」


そして姿を現したのは成人だ。


「随分遅いご登場だな。」


「真打は後からやってくるもんでしょ?」


「フッ、減らず口を。成人、お前も物資を持て。離脱するぞ。」


「へいへい。」


成人が物資をリュックサックに詰め始める。


「……仁さん、これからどうするんですか?」


リクが愛梨に肩を貸しながら訪ねる。


「どうするとは?」


「トラック旅団は壊滅。通信車もぶっ壊れましたし、物資だってほとんど持って行けない。行くあてだって……。」


「大丈夫だ。」


「でも……。」


「マイナスに考えるのが、お前の悪い癖だ。『でも』や『だって』から始まる物語は無い。自分たちで生きる道を、物語を紡いでいくのにこれほど相応しくない言葉は無いんだ。車はまた手に入れればいい。メンバーもまた集めればいい。物資だってまた回収すればいい。生きるんだ。生き続けることが大事なんだ。」


「行くあては?放浪の旅ですか?」


仁はそれには答えず、後ろから迫るゾンビの大群を眺めながら、優成学園か、と呟いた。




「ん?あれ、おかしいな……。」


「どうしたの、龍?」


「トラック旅団が反応してくれない。何かあったのかもな。」


「そっか……。通信回復するといいけど。」


「もしかしたら、たまたま手が離せないだけかもしれないしな。」


「ところで、死体って今誰が燃やしてるの?」


「んー、誰だろ。大樹かな?おっ、スゲー。」


「何?」


「見ろよ、この雑誌。『応援合体ゴッドバイン』のシールついてるぜ。」


「シール?どこに貼るの?」


「貼らない。これは俺が大事に保管しとく。」


「あ、ずるい!」


「ふははははは!早い者勝ちなのだよ、怜君。」


そういうと、龍は部屋から走って出て行った。


「あ、待て!」


それを追って怜も部屋を出ていく。


通信機から漏れるゾンビの小さな呻き声を聞く者はいなかった。




「……なーんか、慣れたッス。」


「何がですか?」


「死体の処理ッスよ。臭いとか、焼ける様子とか、色々と。」


「慣れたくはないですが、それも仕方のない事なのでしょう。」


「……先輩、何の本読んでるんスか?」


「これですか?……小説です。」


「へぇー。どんなジャンルなんスか?」


「その、あの……。れ、恋愛小説を……。」


「美羽先輩、そういうの読むんスで。なんか、意外ッス。」


「私がこういう本を読んではいけませんか!?」


「い、いや、いけなくないッスよ……。」


あまりの剣幕に、大樹は完全に圧倒される。


このままでは美羽が怒ってしまう。


というか、もう手遅れな気がする。


だが、大樹はとにかく話題を逸らそうとした。


「あ、そういえば!その本のストーリーはどんなのなんスか!?」


「ストーリー?」


「そ、そうそう!知りたいなー!凄く知りたいなー!」


「……知りたいのですか?」


「はい!」


「…………クラスの学級長の女子生徒と、背の高い大柄なバスケ部員の恋愛物、です。」


「Oh……。」


「た、たまたま!たまたまなんです!たまたま読んでみたらこういう本だっただけなんです!!」


「そ、そうッスか?」


「ああ、もう!大樹君の馬鹿!」


そういうと、美羽は走り去ってしまった。


大樹はしばらく呆然としていたが、そこでふと気づいた。


「……あれ、下の名前?」




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