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エンストカンスト

トラック旅団に異変が起こったのは、リク達がショッピングセンターに行ったすぐのことだった。


「あれ?……どうしてだ?」


「何か?」


中年の男が首を捻るのを見て、眼鏡の男が問う。


この中年の男は体育教師で、学校が壊滅し、途方に暮れていたところを、仁に拾われたのだ。


現在はトラック旅団で主に避難民が乗車する装甲化したバスの運転手をしている。


「いや、それがな……エンジンがかからん。」


「え?」


「まあ、バスに無理矢理走行を張っ付けただけだしな。ガタが来ても不思議ではないな。」


「う~ん……。じゃあ、今のうちに修理をしないと。」


「おい、成人。成人ー?」


「はいはいっ、なんでしょ?」


「エンジンがかからん。ちょっと修理してくれないか?」


「お安い御用で。」


成人なるとは、自動車の整備士だ。


車で移動するこの旅団の修理屋として、極めて重要な位置に居る人物だ。


「ん~?あちゃ~。これは時間がかかるかな。」


「どれくらいだ?」


「そうですねぇ。ま、少なくとも三十分は見積もってもらいたいですね。」


「三十分か。まあ、待てん時間ではないだろうな。」


「じゃ、取りかかります。」


成人が修理に取りかかるのを見て、中年の男は運転席から降り、手の力だけでバスの屋根に上がる。


そしてポケットから煙草とライターを取り出すと、一服した。


ライターは貴重な点火材料だから、なるべくなら煙草のような嗜好品には使わない方がいいのだろうが、仁が許してくれたので、ありがたく使っている。


ヘビースモーカーの彼にとっては、一日に一本吸えるか吸えないかの煙草でも大きな慰めになる。


ぷはぁ、と大きく煙を吐いて、煙草を投げ捨てる。


「おじちゃん、たばこのポイすてはだめだよ!」


「お?ああ、すまん。」


美沙に注意されたので、慎重に地面に降り、足でしっかりと先端部の火を消す。


そして残りを持ってポケットに入れた。


今までの癖でついポイ捨てをしてしまうのだが、煙草がいつ手に入るか分からない状況では、一度吸った煙草を何本か集めて、新しい煙草を作らなければならない。


あまりにもみみっちいのだが、吸うためには惨めさなど感じている暇はない。


車内に戻ってシケモクをシケモク入れに入れたところで、何やら騒がしくなってきたようなので、フロントガラスから音のするショッピングモールの方を見た。


リク、愛梨、仁の三人が走ってきていた。


中年の男はバスから降り、三人に声をかける。


「何をそんなに急いでるんだ?」


「早くここから離れるぞッ!!」


「え?」


「奴らが来る!」


「何!?」


しかし、ショッピングセンターからゾンビは出てこない。


「ゾンビなんて……。」


「今は防災用のシャッターを下ろしたんです!でも、長くは持ちません!化け物みたいなのが破壊し始めてます!最初はゾンビと化け物が殺し合ってたんですけど、気が付いたら追いかけてきてて……。」


「……最悪だ。」


「だから早く脱出を!」


「違うんだ。今バスがエンストを起こした。修理には三十分かかるそうだ。」


「そんな……。」


「よりにもよってバスだ。人を運べなくなるし、物資も置いて行くことになってしまう。仁さん、どうする?」


「……とりあえず、必要な物資を全て別の車に乗せるんだ。急げ!」


「でも、人は?」


「それは、後で考える。いいから早く荷物を!」


リクと愛梨が走り出したのを見て、中年の男が仁に話しかける。


「バスが使えないと、五人はあぶれちまう。かといって、バスの修理を待ってたんじゃ間に合わない。」


「…………決断するしかないのか。」


「残念だが、メンバーを五人はおいていくことになる。新しく車を探すっていう手もあるが、生憎鍵がねぇ。鍵なしでもエンジンを掛けれる手段もあるだろうが、それ以前に警報が鳴ってゾンビに囲まれて終わりだ。五人、時間稼ぎ兼数削りで残さなきゃあなんねぇ。」


「しかし、それは……。」


「誰かを切るってことは、いつか自分も切られるかもしれないという恐怖心を呼び、それはコミュニティの疑心を掻き立てる。だろ?」


「何故それを?」


「仁さんの考えることは分かる。だが、やらなきゃ全滅さ。……俺は残るぜ。」


「あなたはコミュニティには必要な人間です!」


「いいや、俺の命は一度終わった。そっからもう一度命をくれたのは仁さん、あんただ。俺はこの命をあんたの為に使わなくちゃなんねぇ。」


「…………俺も、残ります。」


「駄目だ。リーダーが消えてどうする?」


「別の人にリーダーを。リクだってリーダーの素質は……。」


「馬鹿野郎!あんたがリーダーだ。あんたがそんなに簡単にリーダーをやめればリーダーのお前を信じてついて行った大五郎さんの意志が踏みにじられる。さ、行ってくれ。後の四人は老人にする。」


「しかし!」


迷うのはリーダーとして最もいけない行為だと知りながらも、仁は迷わずにはいられなかった。


このコミュニティに精神的な面で大きく貢献してきたこの男を切り捨てていいのか?


良い筈が無い。


切り捨てるなら、金髪の男など、ムードを悪くする人間の方がいい。


だが、仁が反論しようとすると同時に、遂に防災用シャッターが壊れた。


そこから出てきたのは数えきれないほどのゾンビだった。




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