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楽器の使い道

刀を持った男が上へ上へと階段を登る。


自分はそっちの世界では中々に名の知れた殺しを得意とする男だ。


まるで江戸時代の辻斬りのように、芸術的ともいえる美しさで相手を切り裂く。


今まで殺してきた人間はゾンビも含めると百は下らないだろう。


だから、今回もそのスコアを出来るだけ稼ぐつもりだった。


生きている人間を久しぶりに切れることに興奮すら覚えていた。


そして男は音楽室へと続く道を登り続ける。


音楽室の踊り場まで到達した直後、男は車輪の様な物が付いた太鼓を目にする。


「何だ、ありゃ……。」


それが自身の最後の言葉になると誰が想像できただろうか。




「美羽先輩、これやっちゃっていいんスか?」


「ええ、構わないと思います。吹奏楽部なんてもうありませんし、なによりこの時代では命取りになるようなものですから。」


「んじゃあ、持ってくッス。よっ……」


大樹がティンパニを持って廊下に出る。


ティンパニというのは打楽器の一種で、オーケストラなどにもよく使われる。


美羽はそのティンパニを階段から落として、近づいてくる敵を倒そうと考えたのだ。


ティンパニを階段横に置き終えたところで、階段からの足音が聞こえてきた。


頭を少し出してみると、男の後頭部がある。


「何だ、ありゃ……。」


男がティンパニの存在に気付いたようだ。


大樹はティンパニを持ち上げると、その男に向かって容赦なく投げ付けた。


一番大きなティンパニは男を容赦なく押しつぶし、頭を砕いた。


身体などに当たっていれば、まだ助かる見込みはあったろうが、頭に直撃では目の当てようもない。


「……また掃除ッスね。」


「そうですね。」


しかし、そんな凄惨な死骸を前にしても掃除のことが考えられるくらい、死に慣れきってしまっていた。




一階の西廊下の方では、激しい攻防が続いていた。


攻防と言っても一方的なもので、佑季と徹が、銃を持って近づいてくる相手に対して申し訳程度の反撃をしているだけだ。


「不味いなぁ……。」


佑季が矢を射るが、流石に縦断の飛び交う中で集中は出来ないらしく、精度が落ちている。


そもそも、矢を撃てるような体制を取れば、身体に風穴とまではいかずとも、クレーターが出来るのは確実だ。


「何か案があれば。」


徹が辺りを見回して発見した物は、赤い消火栓だった。


「これなら!」


徹は佑季を後ろに下がらせると、ホースを取り出して、放水を開始した。


勢いよく水が噴き出し、ニヤニヤと薄笑いを浮かべていたヤクザは水圧で根こそぎ吹き飛んだ。


放水を終えた頃には、ぴくぴくと打ち上げられた魚の様に痙攣する人間が数人いた。


徹は落ちている銃を確認する。


確か銃は、内部に水が入っている状態で撃ってはいけなかったような気がする。


後で水を抜けば使えるかもしれないので、取り敢えず回収していると、後ろの方で気持ちの悪い音が聞こえた。


振り向けば、佑季が無表情で、ヤクザの目に矢を突き刺している。


目に刺していると言っても、かなり深くまで刺さっている。


脳までは簡単に到達しているだろう。


刺されたヤクザは体を震わせると、動かなくなった。


まるで銛で狩られた魚みたいだな、と思う。


佑季がヤクザに止めを刺していく様を、徹は眺めていた。




幼いころから、自分には喧嘩しかなかった。


頭はそんなに良くない。


三白眼で高身長。


そんな感じの奴が歩いていれば、目を付けられるのも当然と言えた。


売られた喧嘩を買う内に、いつの間にか自分は町一番の不良のような感じで恐れられるようになった。


別にそれは嫌じゃない。


むしろ、騒がしい連中が居なくなってせいせいしたくらいだ。


唯一人を除いては。


思えば、物心ついた時から翼は俺を皆の輪の中に入れようとしていた。


何かにつけて協力しようと誘ったり、多人数のゲームをやろうと言ったり。


そういった異端者に対する情けの心みたいなものが、俺は嫌いだったのかもしれない。


口の中に広がっている鉄の味を存分に堪能しながら、誠治はそんなことを思う。


「もう終わりか、タッパある癖によッ!」


誠治の目の前にはゴリラと見紛うほどの筋肉と体毛の濃さを兼ね備えた男が下品な笑いを浮かべて立っていた。


「うるせぇな、ゴリラ。大人しく動物園に帰りな。」


「フン、まだ減らず口を叩く元気はあるようだな。感心したぜ小僧。」


「……鼻息が荒ぇんだよ!」


誠治は踏み込んで男の顔面めがけて右ストレートを放つ。


男がそれを難なく受け止め、ニヤッと笑う。


そこまでは織り込み済みだ。


喧嘩の極意は手段を択ばないこと。


誠治は迷わず男の股間に膝蹴りをお見舞いした。


筈だった。


上げた足を難なく防がれると、誠治は自分の顔面に激痛が走るのを感じた。


こいつは冗談じゃないほど強い、と壁に吹き飛ばされながら誠治は思った。



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