リーダーの証明
リーダーは常に冷静でなければならない。
大胆かつ、的確な指示を出し、部下を守らなければならない。
そして、弱音を吐いてはならない。
「柄じゃないんだがな……。」
と、仁はひとりごちる。
自分が今リーダーという役柄をやっているのは、自分が警察組織の一人だったからに過ぎない。
例えそれが交通課の事務員だったとしても、だ。
もっとも、自分が交通課の事務員なんて言う事を言ってしまえば、このコミュニティの統率なんていとも容易く壊れてしまうだろう。
だから、自分はリーダーであり、模範となる正義の警察官でなければならない。
車をショッピングセンターの前で停める。
「よし、じゃあ物資を……。」
そこまで言いかけて、仁は溜息をつく。
金髪の不良と、眼鏡をかけた中年がまた喧嘩を開始した。
「ったく、ウゼーんだよクソじじいがッ!」
「な、何だと!?金髪なんぞに染めて!そんなちゃらちゃらした格好してるからゾンビが集まってくるんじゃないのかね!?」
「はぁ!?こうなってんのが俺のせいだって言うのかよ!?」
「おい、お前ら。いい加減にしろ。」
子供の言い合いのように罵り合う二人に仲裁に入る。
「チッ、わかったよ。」
自分が仲裁に入れば喧嘩は終わるのだが、すぐに再発する。
喧嘩はお互いだけでなく、周囲の人々にもストレスをばら撒く。
そしてそれはがんのようにコミュニティ全体に蔓延し、やがて崩壊する。
そうなる前に、何とかしなくてはならない。
「俺とリク、愛梨で中を探索してくる。残りの者は警戒して待機だ。」
そう言い残して、ショッピングセンターに足を踏み入れる。
僕は怖いものが嫌いだ。
何故かって、怖いから。
ホラーが好きとかいう人は、精神がおかしいんじゃないかって不安になる。
僕は男だから、仁さんに良く探索を頼まれるけど、本当は死ぬほど嫌だ。
だから、死角からゾンビが出てきたときなんかは半泣きになる。
いや、視界に入っただけで半泣きになる。
ふかふかのベッドの上で、音楽を聴きながらのんびり過ごしたい。
叶わなくても、そう願わずにはいられない。
「リク、ちょっと来いよ。」
「愛梨さん、どうかした?」
「これ食えっかな?」
愛梨さんが見せてきたのは、スナック菓子だ。
「密封してあるから、大丈夫だと思うよ、多分。」
「はっきりしねぇ奴だな。その多分っていうのなんとかしろよ。」
「じ、じゃあ恐らく大丈夫……。」
「……無性に腹立つんだよな。」
「す、すいません!」
僕は綺麗な土下座を披露する。
愛梨さんは……さん付けで呼んでるけど、僕よりも年下の中学二年生だ。
でも、今時珍しい女不良だったらしく、怖くて呼び捨てになんてできない。
正直、一緒に探索なんてしたくないんだけど、仁さんが二人で探索しろと言っている以上、僕にはどうしようもない。
ただ、愛梨さんは美沙ちゃんにとても優しい。
母性本能とまではいかないのかもしれないけど、とても優しいお姉さんになる。
その様子を見ると殴られるけど。
「おい、ボサッとしてんな木偶の坊。行くぞ。」
「う、うん。」
そこで僕は鉄パイプを握りしめる。
ゾンビが陳列棚の向うからゆっくりと歩いてくるのが見えたからだ。
「愛梨さん。」
「分かってる。」
愛梨さんがゾンビに近づく。
その時、愛梨さんが消えた。
「あ、愛梨さん!?」
いや、消えたわけではない。
倒れているだけだ。
その上には犬が乗っかっている。
顔の右半分が大きく欠損した犬だ。
「うあ……。」
愛梨さんが怖がっている。
ついでに僕も怖がってる。
「……愛梨さんを離せ!」
それでも、僕は一歩踏み込んで鉄パイプを思い切り振った。
ゾンビ化した犬が転がって動かなくなる。
「大丈夫!?愛梨さん!」
「……だ、大丈夫だ。どこも噛まれてねぇ。」
「良かった……。」
「ああ…………リク、後ろだ!」
「えっ?」
僕が後ろを向くと、大きく口を開けたゾンビが僕を食べようと迫ってきていた。
そうだ、そもそもこのゾンビを見つけたから鉄パイプを持ったんだった。
「不味いッ!」
僕は鉄パイプを振ったが、間合いが近すぎて十分なダメージを与えられない。
ゾンビが僕に掴みかかる。
「う、うわっ!?」
すると、僕の肩のあたりから手が生えてきて、ゾンビを殴り飛ばした。
「……危なっかしくて見てられん。」
「じ、仁さん!」
「騒ぎが聞こえたから来てみれば……。周りを見てみろ。」
周囲を改めて見渡すと、それなりの量のゾンビが僕らを囲もうとしていた。
「こいつらを倒すのは少し骨だぞ。」
「へっ、やるしかねぇだろ」
仁さんと愛梨さんが一歩踏み出す。
それに遅れて僕も一歩踏み出した。