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ナイスキャッチ

カシャン、と音を立てて、小夜がフェンスに手をかける。


その時、小夜をある声が呼び止めた。


「何すんだ?」


小夜が声の方を向くと、屋上の給水タンクに、誠治が立っていた。


誠治は軽々とした足取りで給水塔を降りる。


小夜は身構えるが、そんな様子を見た誠治はニヤニヤと笑いながら、接近してきた。


「近寄らないで。」


「やだね。」


「ッ!」


小夜がフェンスを急いで登り始める。


それを見て、誠治も弾かれたように走り出した。


小夜の足を掴んで、地面に引き摺り落とす。


そしてそのまま組み敷いた。


「離して!」


「嫌だ。」


「どうして!?」


「お前が落ちたら後始末が大変だろうが。自己中にも程があるぜ。最初っからゴミ袋にくるまって死ぬなら別だがよ。」


「…………。」


「何で死にてぇんだ?言えよ。」


「純が死んだから。」


「は?」


「純が死んだからッ!私も死ぬ!」


「お前頭大丈夫か?」


「君には分からない!絶対に……!」


そういうと、小夜の眼から堪え切れなくなった涙があふれ出た。


「チッ、面倒くせぇ。ピーピー泣くなってんだ。」


誠治が小夜を掴んでいた手を緩めた。


「おごッ!?」


その瞬間、誠治は後方に激しく吹っ飛んだ。


小夜の足が誠治のみぞおち辺りを強く蹴ったのだ。


そして身を翻してフェンスに攀じ登り、そこから身を躍らせた。


それはたった数秒の出来事だった。




「やべぇな……。」


誠治が胸をかばいながら立ち上がる。


コンクリートの地面に屋上から落ちたらどうなるかは、想像に難くない。


即死にならなくても、医療設備が整っていない学校での回復は不可能だろう。


誠治はフェンスを攀じ登り、下を覗きこむ。


「……何やってんだ?」


「んぎぎぎぎ……。」


「離せッ!離せぇッ!」


「わわわわっ、暴れないでください!」


誠治の眼下には、奇妙な光景が広がっていた。


屋上の一階下で飛び降りたはずの小夜が宙に浮いている。


いや、よく見ると二本の手が小夜の身体を抱きとめていた。


「せ、誠治君!助けて!」


下から声が聞こえてくる。


「仕方ねぇな。」


そういって、誠治は下の階に移動した。




翼と一緒に小夜を室内に放り込んで、たまたま近くにあったロープで体を縛った。


「あの、誠治君。」


「何だよ。」


「凄くイケナイ事をしてる気がするんだけど。」


「黙ってろ。」


誠治は翼の頭を引っぱたくと、小夜の方を見た。


「なんで?何で死なせてくれないの?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……。」


ぶつぶつと壊れた様に呟いている。


「あ~。壊れちまったかもな。」


「えっ!?」


「まあ最初から壊れてただけかもしんねぇけどな。で、翼。お前はどうやって小夜を助けた?」


「ああ、僕はシーツを干そうと思って。毛布を持ってここまで来たら、その……。」


「早く言えよ。」


「誠治君たちの声が聞こえてきて。」


「盗み聞きか?」


「うっ……。そ、そうなるよね。」


直後、誠治の鉄拳が翼の顔面に綺麗に入った。


「それで?」


「なんかフェンスがガシャガシャいってたから、上を覗いてみたら、拝賀先輩が……。」


「なるほどな。まあ、ぐちゃぐちゃの死体処理だけは回避できたみたいだが。……とりあえず、保健室にでも置いてくか。」


そういうと、誠治は小夜に手を伸ばした。




「今代わりました。冴島です。」


『久し振りだな。』


「ええ、御無沙汰してます。」


『ところで、そちらではラジオとかを聞いているのか?』


「いえ、聞いてませんが。」


『そうか。俺たちは今、ラジオで流れている避難所情報で呼ばれた場所を回っているんだがな。』


「どうかしたんですか?」


『いや、な。読み上げられた所はどこもかしこも壊滅してるんだ。だから、もし君たちが避難所に映ろうとしているなら、やめた方がいいと思ってな。』


「はい。ご忠告感謝します。……こちらから提供できるような情報がなくて申し訳無いのですが。」


『ああ、構わんさ。流石に学生に等価交換を求めるほど切迫してないしな。』


「もう学生じゃないんですけどね。」


『そうだな……。また、君たちが学生を名乗れる日が来るのだろうか。』


「まあ、少なくとも僕達が学生と呼ばれる年齢である内は無理でしょうね。」


『だな。救援などは必要ないな?』


「ええ。」


『では、一つ忠告しておくが、お前たちを狙っているのは、何もゾンビだけじゃない。生存者たちだって安住の地を見つけたら雪崩れ込んでくるし、襲ってくる可能性もある。いくら壁に守られているとはいえ、自暴自棄になった奴が爆弾撒いて特攻してくるかもしれない。若しくは、ヤクザと呼ばれる手合いの奴らだ。武器を持ってる分危険だろう。』


「そうですね……。やはり、見張りは必要でしょうか。」


『だろうな。可能なら、櫓の様な物でも作って、高い所から監視できるといい。一番いいのは見つからない事だがな。』


「まったくです。」


『では、切る。またな。』


「ええ、こちらこそ。」


無線が切れた。

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