トラップセンター
翌日、大樹は会議室に姿を現さなかった。
「誰か、大樹見てない?」
「さあ……寝てるんじゃない?」
「私が見てきます。」
美羽が立ち上がり、大樹がいつも寝ている教室に移動する。
校舎内の安全確保が出来たので、会議室で雑魚寝はもうしなくなっていた。
美羽は扉をノックする。
「太田君。」
コン、コン、と何度か叩いたが応答がない。
「……寝ているのでしょうか?」
そういいながら、教室の引き戸に手を掛ける。
ガラガラ、と音がして戸はすんなりと開いた。
しかし、どれだけ教室を見回しても大樹の居る様子はなかった。
「太田君?」
美羽は前に進み出る。
すると、何やら白い物が教卓の上に置かれていた。
良く見ると手紙のようだ。
「書置き……。」
美羽はその手紙の封を開けると、読み始めた。
「……そんな!」
「な、なんだって!?」
驚いたのは会議室に居る全員だった。
「はい。どうやら太田君は一人で発電装置を取りに行ったようです。」
そういうと、美羽は大樹の手紙を読み始めた。
『自分は先輩が死んだことが信じられなくて、皆さんに迷惑をかけてしまいました。皆さんに謝りたいけど、ただ謝って許されても、自分は自分自身に納得できません。先輩が無し得なかったことを、発電装置を手に入れてから、謝る事にします。 大樹』
「あー……この汚い字は間違いなく大樹の筆跡だね。」
誰かによって書かれたかもしれない可能性を徹が打ち消す。
「大樹はそんなに熟考しないタイプだから、多分ホームセンターに直行だろうね。」
「出発したのは夜中の内でしょうから、とっくに到着してるはずです。でもまだ帰ってきていないということは、何かトラブルがあったという事でしょう。」
「どうする?」
「どうするって……。」
すると、巧が徐に立ち上がった。
「助けるしかないだろう。もうこれ以上死人は出させん。」
巧の言葉に、龍も賛同する。
「よっしゃあっ!いっちょやりますか!」
「おう!」
全員が武器を手に取った。
ー5時間前ー
「何とか着いたッス……。」
大樹は商店街の近くにあるホームセンターに来ていた。
手回し式の懐中電灯を回して、入り口を照らす。
「バリケード?」
ホームセンターの入り口である自動ドアはホームセンターの商品である木材などで完全に塞がれていた。
木材の所々から突き出た尖った鉄パイプには血痕がべっとりと付いている。
静寂の中、手回し式懐中電灯を回す音だけが聞こえている。
「……?」
大樹はバリケードの付いていない窓を発見した。
その窓にガムテープを貼って、静かにハンマーで割る……が、残念ながらハンマーの勢いが強すぎて、ガラスはガムテープ以外の所ごと大きな音を立てて割れた。
「ふぃっ!?」
自分の出した音に驚きながら辺りを見回すが、幸いゾンビが来る様子はない。
割れた窓から、巨大な体を捻じ込んで侵入する。
「トイレッスね……。」
大樹が入った所は男子トイレ。
「臭ッ!」
誰かが水が流れないのも知らずに用を足したのかはわからないが、かなりの悪臭を放っている。
「早く出ないと……。」
大樹は扉に手を掛ける。
すると、クンッと何かが引っ掛かった。
「クンッ?」
手元を見ると、透明な釣り糸がドアノブに絡まっていて、そして釣り糸はその先へ……。
「先へ……?」
グォン、と大樹の目の前に広がったのは大きなハンマーのヘッド部分だった。
「うおわぁっ!?」
慌てて体を仰け反らせると、ハンマーは大樹の身体を掠めながら大樹の侵入した窓に向かって飛んで行った。
ゴン、と音がしてハンマーが床に転がる。
「な、何だぁ……?」
もしかしたら自分はとんでもない所にいるのかもしれない。
大樹は落ちている大きなハンマーを手にして、扉の先をじっくりと見据える。
「……よし、やってやるッスよ!」
大樹は再び扉に手を掛けた。
ー3時間前ー
「こ、ここはベトナムッスか……?」
約1時間半ほど巨大なホームセンターを探索して分かったことは、ここがトラップだらけだという事だけ。
肝心な自家発電装置の発見にまでは至らない。
その間に何度も死にそうになった。
ナイフが飛んできたり、火炎放射されたり、釘が飛んできたりと様々だ。
それを奇跡的に躱してきた大樹はようやく最後の部屋に辿り着こうとしていた。
「血痕……。」
扉へと続く血痕。
まるで引き摺られたかのような痕だ。
用心に越した事は無いだろう。
大樹はハンマーを握り直し、扉の傍の壁に背中を付ける。
「あれ?突入するときってなんて言ったっけ……。『御用だ』……ちがうッスね。『切り捨て御免』……これも違う。……あッ!」
頭に電球が点る。
大樹は扉に手を掛け、思い切り開け放った。
『討ち入りでござる!』と叫びながら。




