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起死回生の罠

このまま死ぬのか、と純が諦めた瞬間、男は急に大声を上げた。


「あ~!この子銃持ってる!」


男は和馬の死体からニューナンブを奪い取った。


まるでエアガンを与えられて喜ぶ男の子のように、男は飛び跳ねた。


「あっははは!撃ってみたかったんだー!」


男が引き金を引くと、乾いた音がして、銃弾が発射された。


その銃弾は純の脇を逸れ、缶詰の中身を噴出させるにとどまった。


「うわ~!カッコいい!ねぇねぇ、これで君を撃ったら声出るかな?」


男はハンマーを起こして、純に向ける。


そして、ゆっくりと近づき、純の身体に銃口を押し付けた。


純は体を捩るが、どうしようもない。


「……じゃあ、やってみようか!」


「…………ッ!」


一か八か、純は男に飛び掛かった。


撃たせまいと、ニューナンブに手を伸ばす。




乾いた音がして、純の動きが止まった。


「…………。」


銃弾は、純の胸を撃ち抜いていた。


じわっ、と純の胸に赤い染みが広がる。


ガクッとその場に膝を折り、蹲るようにして倒れる。


しかし、純の手はまだ、男に向かって伸ばされていた。


「う~ん……まだ生きてるの?」


男は再度ハンマーを起こし、純の頭に向ける。


純は動く事が出来ない。


「じゃ、ばいば~い!」


引き金が引かれる。


純は目を瞑った。


その瞬間、今までとは少し変わった音がした。


純は霞む目で必死に男の様子を見る。


「い……痛い痛い痛い痛いーー!」


男が転げ回る。


男の人差し指は無かった。


銃が暴発したのだ。


「うああああああああああ!」


あまりの痛みに、男はこちらに注意を払えていない。


「…………。」


純は立ち上がる。


既に自分の体はぼろぼろだ。


左手、頬、胸からの出血。


しかも、弾は確実に肺を撃ち抜いていた。


それでも、純は立ち上がる。


この男を殺すために。


一歩、また一歩踏み出す。


一歩ごとに、身体の力が抜け、血が噴き出す。


口からぼたぼたと血が垂れてきた。


だが、足は止まらない。


男がこちらを見上げる。


既に戦意は喪失されているようだ。


純は男の腰に下がっていたナイフを引き抜く。


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「ッ!!!」


純はナイフを振り下ろした。




「何だ、これは……。」


銃声を聞きつけ、倉庫から様子を見に来た小夜は呆気にとられた。


視界に広がるのは赤、赤、赤。


血溜まりに倒れた和馬と、知らない男、そして……。


「純ーーッ!」


小夜は純に駆け寄る。


「純ッ!純ッ!」


呼び掛けるが、返事は無い。


既に息は無かった。


「嘘……純…………。」


地面に膝をついた状態で、憑りつかれた様に呟く。


すると、声が聞こえてきた。


「ご、めん……なさい……。」


声の方を振り向くと、男が口を開いていた。


純は男の胸にナイフを刺したが、純の力が弱っていた為、致命傷にはならなかったのだ。


「ごめん、なさい……ご、めん、なさい……。」


叱られた子供の様に泣き腫らしている。


小夜は傍らにあった金属バットを手に取った。


「お前が、純を殺したのか……?」


「ごめん、なさい……。」


「お前が……お前がぁぁぁぁぁぁッ!」


小夜は男の腹に金属バットを叩きつけた。


鈍い音がする。


恐らく、どこかの骨でも折れたのだろう。


男はカエルが潰されたような、奇怪な声を上げる。


「ご……めん……。」


「ああああああああああああああああああああああ!!!」


小夜は何度も何度も男の腹に金属バットを叩きつける。


「お前がッ!お前がッ!お前がぁぁッ!」


男が口から血を吐いても叩きつける。


そして男の胸に刺さっているナイフをもっと押し込んだ。


「ご…………め…………。」


「死ねぇぇぇッ!」


小夜は男の顔面に金属バットを叩きつけた。


何度も、何度も。


男の頭が潰れようが、目が飛び出そうが、脳漿が巻き散らかされようが関係なく。


何度も何度も――。




一方、巧は走っていた。


食料品店の方で、銃声が聞こえたからだ。


銃を持っていたのは和馬だった筈。


きっと、何かトラブルにあったに違いない。


しかし、その足も食料品店の手前で停止した。


「何だ……?」


ゴォン、ゴォン、と断続的に、硬い物がぶつかる音がする。


何処かで聞いたことのある……。


そうだ、野球部が金属バットで地面を叩いて、芯を探すような感じの音だ。


巧は恐る恐る中を見る。


「……何をしている?」


小夜が金属バットを振るっていた。


既に何の死体か分からない物に向かって、何度も何度も。


ぶつぶつと何かを呟きながら。


「おい、小夜!何をしている!」


それでも小夜はバットを叩きつけるのをやめないので、無理矢理バットを奪い取った。


「おい、しっかりしろ!何があった!?」


「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……。」


バット奪い取ったのにも関わらず小夜の手はバットを振るときの動作をしたままで、譫言の様にそれだけを呟いていた。


「……許せ。」


巧は小夜の腹を殴って気絶させると、肩に担いで急いで音に寄ってきたゾンビの群れから脱出した。


和馬と、純の亡骸に一瞥をして。

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