見当違いの謀略
「これと、これと……。」
メインストリートの食料品店の中に陳列してある缶詰を和馬が片っ端から放り込んでいく。
店内にいるゾンビは既に頭を割られていた。
野球部で鍛え上げた腕力は、叩く対象が人の頭に変わっても大活躍だ。
店内の奥では小夜が水を、店先では純が見張りをしている。
「しかし、大量だな。」
和馬が微かに頬を綻ばせる。
やはり、商店街はゾンビが多いイメージが強かったのか、荒らされた形跡はなかった。
店の店員が少し持ち出したくらいだろう。
陳列されているものだけでもかなりあるので、倉庫にある分を含め切り詰めれば、冬はなんとか越せそうだ。
「よし、一杯になったから一旦バスに行ってくるぜ。」
両肩にリュックサックを一つずつ背負い、和馬が移動を開始する。
それに続いて小夜が店から出てくると、純も移動を開始した。
その背中をじっと見つめる目があることにも気づかずに。
一方、一班もある程度の物資を持ってバスに行っていた。
「取り敢えず、銃はそこの座席の上。後は、後ろの方から物資を詰めて並べていって。」
徹の指示通りに物資が置かれていく。
すると、二班も戻ってきた。
「こっちは大量だぜ!」
和馬はご機嫌だ。
得意げな顔をしながら、ガラガラと音を立てて缶詰を床に出す。
その量に、徹も思わず感嘆の声を漏らした。
「倉庫にまだまだあったから、もう一回行ってくるぜ。」
「お願いします。」
「……おっ、これ銃か!?」
「ええ、さっき見つけました。」
「へぇ~……。」
和馬は手の上でニューナンブを弄る。
その手つきにはどこか慣れたものがあった。
徹がそう疑問に思ったのを感じ取ったのか、和馬が説明をする。
「ああ、銃にはちょっと興味があってな。……これ、持って行って良いか?」
素人が放置するよりは、撃ち方の分かる人間に持たせた方がいいかもしれない。
「はい、大丈夫です。」
「ちょっと待て!」
真二が声を上げる。
「なにか?」
「い、いやその、やはり銃は厳重に保管しておくべきではないか?銃声が鳴ればゾンビも集まってくるだろう。」
かなり焦っている。
それもそのはず、真二は銃にある仕掛けを施していたのだ。
真二は徹を事故死に見せかけて殺すため、シリンダーの三発目の部分に詰め物をしていたのだ。
後で試射であるとか、どの位の威力か知りたいとか、適当な理由を付けて徹に撃たせて暴発させ、大怪我を負わせるつもりだった。
十分な医療道具が無い今なら、そのまま死に至る可能性は高いだろう。
故障していたとかいう弁明はいくらでも可能だ。
だが、この状況は不味い。
和馬に持って行かれて使用されたら、使用する前に詰め物が入っている事がばれたら、詰める事が出来たのは所持していた自分だけという事になってしまう。
「いや、宝の持ち腐れになるよりは良いですよ。」
しかし、徹に軽くいなされてしまった。
もうどうしようもない。
和馬はニューナンブを持って二班のメンバーと共に再び食料品店に向かって行ってしまった。
その様子を、真二は黙って見送る事しかできなかった。
「あ、あれは……。」
怜の前にあったのは、本屋。
そして、その視線の先には、一冊の雑誌が。
その雑誌の表紙には、『ロボットアニメ特集』の文字が。
そう、怜と龍は『応援合体ゴッドバイン』だけでなく、様々な種類のロボットアニメを愛してやまないマニアだったのである。
「娯楽も必要……かな?」
怜はそっとその雑誌をリュックに入れる。
その後、サバイバル術が記されている雑誌等を詰め、誠治と合流する。
「怜、何かあったか?」
「えっと、サバイバル系の雑誌ですかね。」
「俺はこれだ。」
そういって誠治が取り出したものは、キャンプ用のハンドアックスと、登山用のピッケルだった。
「お、武器ですか。」
「これはお前が持ってろ。」
怜はハンドアックスを受け取った。
少し振ってみると、案外しっくりと来た。
バットや鉄パイプではあまり感じる事が出来なかった安心感がある。
怜にとって、あまり馴染みの無いハンドアックスは完全なる武器であり、それは例え様の無い高揚感を覚えた。
今なら、どんな敵が来たって勝てそうな気がする。
すると、誠治がピッケルをこちらに振り下ろしてきた。
「えっ!?」
慌てて身構えると、ピッケルの先は怜の後ろにいたゾンビの頭をかち割っていた。
誠治は意地の悪い笑みを浮かべる。
「今油断してたろ?」
「…………。」
あまりの恐怖に、口を動かす事が出来なかった。
その様子を見て、誠治はひとしきり笑った後、「へたれ、未だ健在也。」と言って、再び笑った。